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真っ白い虚無な空間に二つの影が落ちている。
その二つの影は人の形をしていて、全く同じ姿をした少女だった。
二人の少女の違う所を敢えてあげるならば、片方の身体が欠けている事と、微動だにしない事だろう。身じろぎは全くせず、息をしているのかと懸念する程身動きが無い。
逆に、動かない身体のすぐ側に倒れたもう一つの身体はぴくりと瞼が震えた。ゆっくりと瞼が押し上げられ、その瞳に光を映す。
自らの状況が理解出来ていないのか、瞳だけが周りの探索するように動いた。
一通り自らの周囲を見た後に、彼女は起き上がろうと身体に力を込めるが、上手く起き上がれない。それでも動きそうな手足で無理矢理身体を起き上がらせて、今度は忙しなくきょろきょろと頭を動かした。

「なん、で」

呟いた言葉は擦れ切れて、聞き取る事すら難しい程小さかった。自身の声に驚いて、彼女は口に手をやる。

「みず……」

掠れた喉に痛みが走り、水を求めた。
けれどここには何もなかった。ただ果てしなく白い空間が広がるだけで、一切のものが存在しない。
もしかしたらここには天井も無ければ床も無いのだろうか、という考えがぼんやりと浮かんだ。
とにかくここで何もせずに座っていてもどうにもならない。自分の状況を把握しなければ。

「私は、陸」

ぽつりと自身の名を呟いた瞬間に、今までの記憶が溢れた。

空を飛び交う鉄の鳥。蒼い空は自身が生まれるよりも遥か前に失われ、薄暗く黒い雲が常だった。風は消えて、大地には血が滲んで植物は育たない。
泣きながら武器を取った幼子がいた。度重なる戦争に心を壊した人間がいた。私欲に走り、豪遊する支配者がいた。
全てが破綻していたのだ。
この戦争の始まりだってもう誰も覚えていないのに。
死にたくないと泣いて、生きる為に戦い、会話を放棄した。

「ああ、そうだ……」

限界だった。
度重なる戦争に大地は破壊され、血に染め上げられた星は死に絶えようとしていた。
前までは、自業自得と嘲って手を出さなかったけど。
大切な人が出来てしまったのだ。
変わった力を持った陸は迫害と差別の対象だった。
国が保護をしたという体裁だけ整えて、実際は監視。有事の際にはその力を発揮する事を強制させて。保護した国で迫害され続ける陸のたった一人の友人になった女。
世界にいた精霊と、その友人に生きていて欲しかったから歌ったのだ。
不思議な力も持った陸の歌。
命をかけて、魂をかけて歌を歌って星を再生し、この先生きていけるだけの力を。陸は自らの力を歌に乗せて星に与えた。
命と魂を削り、消滅しか残っていなかった陸。けれど今ここに、確かに存在している。

「あいつらが、やったのか?」

陸の歌によって再生した精霊達が消えそうになっていた彼女の魂をかき集めて隔離した。
消滅しないように全力で守りながら。

──まだ、本来の力を取り戻していなかったろうに。

くすりと苦笑して、傍らに倒れたもう一人の陸を見る。
恐らくこちらが陸の魂だろう。
そして今思考しているのが精神体。精神体の修復が先に終わり、目が覚めたのだと思う。
陸が倒れていたここはさしずめ精神世界。

「ん、だいたい把握した」

ぐっと足に力を入れて立ち上がる。
まずは、この寂れた空間をどうにかしたかった。
果てのない白い空間。傍らには身体が欠けて呼吸もしていない自身の魂。
なんだか死体遺棄現場にいるようで精神衛生上よろしくない。

「《水を》」

歌を簡略化させた言霊で水を呼び出す。
かちんと硝子のあたる音がすれば、目の前にグラスになみなみ注がれた水を現れた。

「うん。調子いいな」

現れた水をこくりと飲み干し、掠れた喉を潤した。
潤った喉に満足そうに笑って頷いて、本来の調子を取り戻した声に歌をのせて一節歌う。
その僅かな歌を聞いて、空間が歓喜に震えた。

「よし。まずは、ベット」

その次にベットを囲って、住めるような環境を創らなければ。
この魂の状態を見る限り、修復には気が遠くなる程時間がかかるだろう。
ならば安置する場は大切だ。

「ああ、でもその前に」

す、と深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。それを数回繰り返し、息を整えた所で歌を紡いだ。
死ぬつもりだった陸が最期に歌ったのは《命の歌》。
ならば今度は今生きている事に感謝して、歓喜の歌を歌おう。
この歌が精霊や、たった一人の友人に届く事を願ながら。



状況把握後、寝床確保




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