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恐山アンナと名乗る少女と仲良くなった。最初の険悪な空気はもう既に無く、辿々しくも陸との会話に興じてくれている。 前にアンナが来た帰ってから更に二日後、葉が来て、陸は嬉々として報告する。
「葉!仲良くなれた!ツンデレだった!デレたらものっそい可愛かった!お嫁に来てくれるとちょう嬉しい!」
「……えーと、前言ってた奴と仲良くなれたんか。よかったなあ陸」
微かに複雑そうな顔をしたあと、ふんわり微笑んだ葉に陸の胸が高鳴る。 嫌な予感がした。 この胸の高鳴りは認めてはいけないと本能は陸に訴える。そしてその本能の命じるままに、胸の高鳴りも、それが意味する事も気付かない振りをした。 無意識に苦虫を噛み潰したような顔をしていれば、葉がアンナについて聞いていた。
「そんで、どういう奴だったんだ?」
「……結構複雑な力を持ってたよ。その力のせいで捨てられて絶望してた」
「そうなんか。でも陸がそこまで嬉しそうってことは心を開いてくれたんだな。名前はなんて言うんだ?」 「恐山アンナ。恐山に住んでるイタコのばあちゃんに拾われたんだと。修行してないみたいだけどこれから頑張るってさ」
教えたら葉が驚愕する。何に対して、そんなに驚いているのだろうか。
「……オイラのばあちゃんも青森の恐山でイタコしてるぞ。結構前にばあちゃんがかなり力が強い奴を拾ったってじいちゃんが言ってた」
「マジか」
どうやら世間は広いようで狭いのだと再確認。 恐らく、アンナ拾ったのは葉の祖母なのだろうな。 今度精霊達に聞いて確認してみようかな、と考えてたら葉が何か思い出して陸に話かけた。
「じいちゃんとばあちゃんと言えば、陸に会いたいって言ってたんよ」
「は、私に?なんで?」
「んー、オイラもよくわからんけど。多分どうやってここに来ようかってじいちゃんに相談した時に陸のこと話したからじゃないかと思うんよ。ちょっと興味持ってたみたいだし」
何故だろう。 葉の事だから全部話したと思うんだけれど、興味を持たれるとはどういうことだろう。陸の内包する力が強いから興味持たれたのだろうか。
いいや、と思い直して頭を振った。 きっと得体が知れないから不審に思われているのだろう。大切な孫がほぼ毎晩得体の知れない女と精神世界で話してたら心配するのも道理だ。
「そっか。でも今ここに来れるようにしてんの葉だけだもんなあ。あ、アンナも来れるようにしなきゃ……じゃなくて、えーと、私は葉以外がここに来ることを許可してないからじいさんばあさんは来れないよ」
「やっぱりそうかー」
「んー、でも葉のじいさんばあさんだろ。私のことを利用したりはしないだろうから葉が会って欲しいって言うんなら招待してもいいぞ」
向こうも陸の存在が気になっているのだろうし、陸も《麻倉》に気になることがある。 とりあえず明日辺り会ってみようか。
「明日。明日の夜だけじいさんばあさんが来れるようにしてやるから今日帰ったら伝えとけよ」
「ん、わかったんよ」
明日の夜に会う約束を取り付けたあと陸と葉はいつもの会話をする。 今日は何があったか、嬉しかったことやらを沢山話してくれる葉に陸は自然と口角が上がるのがわかる。
葉が話してくれるお返しに、葉の前の時代の事や陸が生きていた時の事を話す。 前の時代ならまだしも、陸が生きていた時の話は暗いしあんまりいい事がないからつまらんよ、と葉に言ったことがある。しかし陸の事をもっと知りたいから、と押しきられてしまった。 顔も整っている葉は恥ずかしげもなく――そして自覚もなく――陸を口説くこの天然タラシは将来有望だ。 将来勘違いした女に後ろから刺されないよう気を付けるがいいと舌打ちをした。
そして葉が起きる時間になると彼は帰っていく。 綺麗に笑いながら手を振ってまたな、と言って去っていく。 葉が帰ると陸以外誰もいなくなるとここは夜になる。陸が寂しいと思った心に反映して夜になってしまうのだろう。 葉がいる時は清々しい青空で心地よい風が通り抜けていき、夜になれば静かになる。陸以外の人がいなくなって、一層寂しく感じた。
彼が、次に来るのはいつだろうか。
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