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葉がまた来ると約束をしてくれた。そしてその約束をしたのはもう半月は前の事だ。
正直な話、陸はまた来ると言った葉の言葉を信じてなかった。何故なら今まで本当に二回も来た人はいなかったからだ。 かつての来訪者の中にはここにまた来ると、陸にまた会いたいと言ってくれた人も少なからずはいた。 しかし、また来ると言う彼らを信じてまだかまだかと待っていて来てくれなかったらやはり悲しい。 そして陸はその悲しさに耐えられないから、自身を期待させないで欲しかった。 陸が約束した相手は五歳の子供。 子供の心はちっぽけなことで大きく変わる上に、平気で約束を破るものだと陸は認識している。自らの言葉に責任を持たず出来ないことを約束して、すぐに忘れてしまう。 約束した相手の気持ちなど一切考えずに。 流石に全ての子供がそうだとは言わないが、そういう子供だって少なくない。 だから陸は葉の言葉を信じることは出来なかった。
畜生、と陸は小さく悪態を吐いた。 どう転んでも悪い事しか起きないような気がする。ネガティブな思考が陸に纏わりついて離れない。 いつもならあんな約束、子供の戯言だと早々に切り捨てて終わっていたのに。 なんの根拠も無いくせに、なんとかなると言った葉を信じたいと思う陸がいる。
──けれども、信じて、期待して、その期待が裏切られてしまったら?そんな事になれば、陸は今まで以上に悲しく、苦しいと思う。
「だんだん悩むのが面倒くさくなってきたな……」
ぽつんと呟いて、陸は葉が最初に来て寝ていた花畑に仰向けに寝転がった。 ふわりと優しい香りが陸の鼻腔を擽った。 陸は色とりどりな花畑にしたくて色んな色の花を出して作った。ただの色違いだったり、種類が違ったりで色んな匂いがするけどそれは決して不快なものでは無かった。
ふう、と深い溜め息をつき、考える事を無理矢理中断して目を閉じた。呆っとしてると陸の上に影がかかった気がした。 何事だと思って陸が顔を上げたらあの温かい少年がいた。ぱちりと瞬く。
「……葉」
「おう、陸。来るの遅くなっちまって悪かったな」
──ああ、もう何なんだこいつは。
葉は約束通りまたここにやって来た。前に見せたあの温かい笑顔を携えて。
「陸は二回も来た奴いねえって言ったけど、オイラは来れたぞ」
「……半月来ねえから忘れたんだと思った」
「む、オイラ忘れてなんかねえよ。最初はどうしても陸の所に行けなかったんよ。でも、なんとかなった」
「なんとかなったって……」
「じいちゃんに相談したりしたんだけどな、わかんなかったんよ。でも陸が夢で会えるって言ってたから、とにかく沢山寝てみた」
得意そうに言う葉に呆れてしまった。 それでも陸は葉が来てくれたことが嬉しくて、約束を守ってくれたことが嬉しくて、思わず涙が零れる。 陸は葉に泣かされてばかりだ。あり得ない。陸は葉より年上なのに。その上半端無く年が離れているのに。 ぐちぐちと心の中で不満を零す。けれどもその不満とは裏腹に、決して不快にはならなかった。 ぼたぼたとこめかみを伝う涙を乱暴に拭う。そして葉に泣き顔を見られたくなくて両腕で顔を隠した。
「陸は泣き虫だなあ」
葉はしゃがんで陸の頭を優しく撫でた。 ふわふわと心地の良い暖かさ。今まで陸の頭を撫でるような人間は一人しかいなかった。あまりに馴染みの無い感触に、陸は落ち着かないが決して嫌ではなかった。
本当に、なんなんだろうこの子供は。
「……うっさい、馬鹿野郎」
会って二回で年上の威厳がぼろぼろで台無しなのに。
それでもいいと思えてしまう
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