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五十年ぶりの客人が来た。
麻倉葉という小さな茶髪の男の子で、なんだかのんびりした子だというのが陸の持った第一印象。
ここに来たら大抵皆焦るのに、葉は焦りは微塵も見せずのんびりと自己紹介をしてみせた。
この空間は五感を強く感じるから現実と勘違いされるのがほとんど。なのにいきなり自己紹介をしてきた葉に呆気に取られてしまった。
陸はてっきりここは何処だ、と詰め寄られるかと思っていたのに。

「陸って言うのか。なあ、ここ何処だ?オイラ修行の最中に居眠りしちまって起きたらそこの花畑にいたんよ」

「そっか。まずお前は居眠りから起きたんじゃないよ。ここは起きてる人が来れる所じゃないからな」

陸がそう言えば、驚いた顔をして固まる葉。その驚いた顔が面白くて、陸はくつくつと笑いながら説明する。

「ここは私の精神世界。外界とは遮断され、人は夢を介してやって来る。ここは外界と似たように五感が働いているから現実と勘違いすることが多いんだ。葉の身体はまだ眠ってて精神だけがここに来てる」

「そうなんか。普通に花触ったらちゃんと感触も臭いもあったからオイラびっくりしたんよ」

葉はからからと笑う。
もしや彼は今のこの話を信じたのだろうか。
今まで人が来てこの話をすると皆信じずに夢だと決めつけたり家に帰せと怒ったのに。

「……葉はこの話を信じるのか?」

「え、陸嘘ついたんか?」

「あ、いや、ついてないけど話しても皆信じなかったもんだから、簡単に納得した葉に驚いた」

「だって陸は嘘を言ってる感じがしなかった。だからオイラは信じたんだ」

そう言ってまた笑う葉が陸にはとても新鮮に見えた。
今まで陸に笑いかけてくれるのはあの優しい友人と精霊達だけで、なんとなくむず痒くなりながらも小さく笑った。


*****


葉と二人で色んな会話を楽しむ。
葉はあの世とこの世を繋ぐシャーマンと呼ばれる存在であると言った。全知全能とされる精霊の王と一体化出来るシャーマンキングになる為の修行をしている、とも。
そのシャーマンキングになりたい理由が《楽々に生きるため》で─―まだ会ったばかりだが―─とても葉らしい、と思った。

「(多分精霊の王って言うのは私を助けた精霊の一人だろう)」

陸も自らの生い立ちや、何故ここにいるのかを話した。僅か五歳の葉にも分かり易く、簡潔に。葉が口にした疑問も分かりやすく答えていった。

互いのことを話し合って、今の外界のことを聞く。
どうやら今の世界は陸のいた文明と似ていて、人は自然の大切さを忘れてきているようで陸の胸が小さく痛んだ。
また人は同じ轍を踏もうとしているのだろうか。

「陸がずっと前に消えかけてた精霊達に自分の力と魂をあげたからここにいるんだよな?」

「まあ、そうだな」

「で、その精霊達が自然を作ったから今があるんか。っていうことはオイラ達が生きてんのは陸のおかげだな」

「いやいやいや、なんでそうなる!?私は力をあげただけで何にもしてない!あいつらが頑張ったから!」

「ん?でも陸が力あげなかったら精霊も頑張れなかったぞ。それに陸は力も自分の魂削って歌ったんだろ。オイラは精霊もだけど陸も十分頑張ったとおもうんよ」

陸は葉の言葉に泣きそうになるも、ぐっと堪える。
僅か五歳程の発した言葉に泣きそうになるという事に羞恥を覚えてうなだれた。
はあ、と何かを吐き出すように息をつけば隣に座る葉が空を見上げながら呟く。

「魂を直す為とはいえ、陸はずっと一人でいるんか……」

「別にずっと一人じゃないよ。たまにあいつらが来てくれるし……」

「でもたまにだろ?ここは綺麗だけど一人でいるのは寂しいと思うんよ。――だからオイラまた来るぞ。陸が寂しくないように」

「……ここに二回も来た奴いないぞ」

「そうなんか?まあ、なんとかなるだろ」

なんとかなる、と言って笑う葉の笑顔がとても綺麗で、眩しくて思わずめが眩んだ。
先程耐えた筈の涙が零れて落ちた。



来訪者はとても温かい少年でした



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