neta倉庫*無法地帯注意!

きっと両親にとって私は物足りない子供だろう。
努力はしてみたが姉のようになる事は出来なかった。世間一般では優秀な部類に入るが、それは片足を引っ掻けた程度でとてもじゃないが姉には敵わない。
それだけ姉は優秀な子供なのに私は平均値をちょっと上回る位の子供だ。
世間様が姉を惜しむ言葉を紡ぐ時に決まって「どうしてあの子なのかしら」と言う言葉の裏に隠された意味を知っている。私だってそんなに鈍くはないのだから。

両親は私に「お姉ちゃんの分まで幸せにならなくちゃダメよ」と言う。そう言った口で、私が笑ったり楽しそうにしているのを見ると「今もお姉ちゃんは酷い目にあってるかもしれないのに」と遠回りに批難する。「どうして平気で笑っていられるの」と態度で語った。
別に平気な訳じゃない。当時大好きだった姉がいなくなって、悲しまない訳が無い。ただ、私と両親の悲しみ方が違っただけで、たったそれだけの事で私は《薄情な人間》と言うレッテルを貼られた。

姉がいなくなって十年。なんの連絡もなく、なんの兆しも無い。
もう私たちは姉の存在を過去にしなければならないと思う。父も、母も、私も、出来る事はやったはずだ。それでも見つからない。この十年、なんの手がかりも出てこなかった。だから、きっと、そういうことなのだと思う。
ならばもう私たちは進まなければならない。両親も私も今を生きている人間なのだから。姉を諦める事がどれだけ辛くてもその選択をしなければならないのだと思う。
そう思う私は皆が言うように《薄情な人間》なのかもしれない。でも仕方がないと思う。だって私たちはお腹が減って、眠たくもなって、痛みを感じたり、涙が出たり、色んな事を感じて、確かに生きているのだから、ちゃんと生きなければならないのだと思う。姉だって《未来ある若者》だったならば私だってそうだ。

しかし世間も両親もそれを許してくれないのだから非情だと思う。私が《薄情》だと言われるならあっちは《非情》だろう。

姉が歩むはずだった夢と希望に満ち溢れた未来を、姉がいなくなったと言うだけで私から奪うなんて事は酷いと思う。
だってもう、わからないんだ。姉がどういう風に笑って、何に怒って悲しんで、どう愛してくれたのか。十年という歳月と、どんどん追加されていく重荷に耐えようとしていたら姉の存在は記憶の彼方に追いやられていった。姉がいなくなって十年。私は両親に褒められた事が無い。いつもいない姉を引き合いに出して、「もっと頑張りなさい」と言う。褒めて欲しくて頑張って、頑張って、頑張ってみたけどやっぱりダメだった。私は姉になれなかったんだから、私は私にしかなれないのだろう。だから私は私として生きていくしかなくて、そうして生きていく為にはもう姉を過去にするしかない。仕方ない。だって私は姉じゃないし、どうやったって姉にはなれない。世間や両親が姉を求めても、ないものねだりだ。
薄情だろうが非常だろうが、それが現実だ。

十年という歳月はとんでもなく長かった。
姉がどこで何をしているのかわからない。生きているのか死んでいるのか。幸せなのか不幸なのか。そんなの誰にもわからない事だろう。
今はもうわからないけど幼い頃は大好きだった姉だ。だから幸せでいてくれればいいと思う。笑顔で過ごしてくれていれば良い。酷い目にあっていて欲しい訳じゃない。

でも、浅ましい私は、姉の幸福を心から望む事は出来ないと思う。
沢山の人間を悲しませて苦しませて、一人だけ笑顔でいられると嫌な感情が鎌首をもたげる。姉がいなくなった時、そこにどんな思惑や陰謀があった――もしくは何も無いのかも――のか、わからないくせに。姉は被害者であるのに。まるで姉が加害者であるかのように責め立てたくなる。
何故なんの連絡も無いのか。皆が心配するとは思わなかったのか。姉を探す為にどれだけの人間に迷惑をかけたと思っているのか。姉を思って苦しんだ人間が沢山いるのに何故、何故、何故!

私は最低な人間だ。姉の状況を何一つ知らないくせに。自分の苦しみや悲しみを姿の見えない相手に好き勝手にぶつけている。


取り残された妹の独白2
2014/06/14 20:10 ( 0 )


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