neta倉庫*無法地帯注意!

ハイスペックお姉ちゃんがどこぞにトリップ。
取り残された妹はやさぐれた。

***

私の姉は十年前に失踪したらしい。
らしい、というのは私のには姉の事を殆ど覚えていない。だからかどうも他人事のように感じてしまう。
仲が悪かった訳ではない。寧ろ良かった気がするが、何分、十年前の事なので記憶が曖昧だ。

七つ年上の姉はとてもよく出来た娘さんだったようだ。
両親からの話を聞くと、勉強も運動も優秀だったようだ。今尚そのままになっている姉の部屋には表彰状や盾やトロフィーなど沢山飾ってある。
なんでもそつなくこなし、所謂《天才肌》と言うものなんだと思う。おまけに美人で人望も篤かったのでカミサマとやらは彼女をとても愛していたのかもしれない。

そんな姉を両親はとても誇りに思っていたし、やはりとても愛していた。
ただのサラリーマンと専業主婦の間に生まれた女の子は言っては難だが両親に似ず優秀な人間になった。そんな両親の口癖は「鳶が鷹を産んだんだ」と言うもので。 それだけで二人がどれだけ姉を評価していたのかがわかる。
その下に生まれた妹ーー要するに私の事だがーーは平均値を行く何て事はない一般人だ。
普通は姉を妬んだりするのかもしれないが、私は姉が大好きだったと思う。七つ上の姉は年下の幼い妹を煩わしく思ったりせずによく遊んでくれた。よく面倒を見てくれて、当時は両親よりも姉の方が好きだったかもしれない。ーー今はもう、わからないけど。

姉がいなくなったのは夏も厳しくなる、その少し前だ。姉は十四歳で私は七歳だった。もうそろそろプール開きだね、一緒に遊びに行こうね、と話していた翌日、姉は学校から帰ってこなかった。
中学校から友人と一緒に帰って、友人宅近くの別れ道から姉は一人になった。友人と別れた後の消息は不明。目撃者もいなかった。

姉の事は殆ど覚えていないくせに、姉がいなくなった夜の事はよく覚えていた。
真面目な姉がなんの連絡も無しに帰ってこない。いつも一緒に帰っている友人に聞けばいつもの時間にいつもの場所で別れて最後だと言う。
珍しく寄り道をしているのかな、と思っても、待てども待てども姉は帰ってこなかった。
それからの両親は見ていられなかった。
姉は頭も良くて、運動も出来た。姉は身内の欲目を差し引いても可愛かったから誘拐されてしまったのかもしれない。 何かの事件に巻き込まれたのかもしれない。もしくは姉に嫉妬した誰かが何か恐ろしい事をしたのかも。
両親は七歳の私を家に置いて姉を探しに飛び出した。
警察にも連絡して、姉の生活圏内で姉を尋ねるビラを配り、時には探偵を雇い、やれる事はなんでもやって姉を探し求め、そして十年。姉はまだ見つからない。友人と別れた後の消息は一切不明のまま十年経った。

十年経ち、七歳だった私は十七歳になった。いつの間にか当時の姉の年を超えていた。
両親は変わらず、まだ姉を探し求めるのを止めない。姉の部屋はあの日から全く変わっていない。掃除の手が入るだけで、あとは物一つ動かすのも許さなかった。だから姉の部屋はあの日から全く変わらない。机の上に転がるペンも、開かれままのノートも、パジャマもなにもかも。

きっと両親はわかっている。姉はもう帰ってこないだろうという事を。
わかった上で、尚諦める事が出来ないのだと思う。極々普通の両親から生まれたとてもとても優秀な姉を。両親にとって誇りのような姉を。これから未来と希望に充ち溢れた人生を歩む筈だった姉を諦めるのは身を引き裂かれるより辛いのだろう。
きっとそれが《親》というモノなのかもしれない。

取り残された妹の独白1
2014/06/14 19:52 ( 0 )


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