第8話




・前半は臨也side
・後半は静雄side





めきり


「え、」


驚いた。まさか、ここまで自分の知らない彼を見ることが出来るなんて。




平和島静雄が、俺の目の前で、アパートのドアをひっぺがした。












「…シズちゃん、それ……」


驚いて何を言って良いのか分からなくなった俺は、ぼそりと呟くような形で彼の名前を発した。

だって、それ、金属製の扉だよ?何でそんなに軽々と…?

俺の考えていることが分かったのか、シズちゃんは苦々しい顔をした後何も言わずにドアを無理矢理くっつけた。くっつけたって言うか、本当に無理矢理ねじ込んだような感じなんだけど。


「……もう、俺に話しかけんな」

「え、何で?」


素直に疑問を述べると、舌打ちをされた。…あっれー?俺が今まで見てきた平和島静雄はこんなキャラだったっけ?もっと温厚な感じだったっていうか、人気者キャラっていうか…。少なくとも舌打ちをするようなキャラではなかった気がする。


「…………怖ぇだろ。こんなこと、普通の人間じゃ出来ねぇし」


だから、もう俺にかかわるな。
そう言ってシズちゃんはもう一度ドアを引っぺがして中に入ってしまった。
それを見届けてから自分の部屋のドアノブに手をかけて強く引っ張ってみる。やっぱりちゃんとした金属だ。これをシズちゃんはなんとも簡単に持ち上げていた。まるで紙みたいに。


「……俺の返事聞いてから入れっつーの」


バタン、とドアを勢い良く閉めた音がアパート中に響いた。





*****





やってしまった。しかも、前より酷くなってきているような気がする。

臨也と別れて部屋に入ってから、俺はベッドに倒れこんで自分の手をまじまじと見ていた。
この異常な力が現れたのは多分小学生の頃だったと思う。最初は他の奴より少しばかり力が強いっていうだけだった。なのに、それはいつの間にか俺がキレると制御がきかなくなってしまっていて、

とうとう俺は人を傷つけてしまった。憧れていた女の人を。

それだけじゃない。小学校を卒業する頃には、少しばかりという言葉では括りきれないぐらいの力になってしまっていた。幸い、俺のこの力は弟の幽しか知らなかったため、俺は力を隠すためだけに人当たりの良い人相を装って生きてきた。教師にも、クラスメイトにも。弟が天才役者なだけあって俺にも少しは才能があったのかもしれない。なんとかやりすごしたものの、やはり精神的にはかなりまいっていた。本来の俺はもっと短気な性格だったのだ。

嘘の自分はもう気分が悪い。

でも誰とも離れたくない。

この力は周りと俺を引き離す。

でも一人にはなりたくない。

そんなことを考えすぎてとうとうまいってしまったのが中学3年生の時。丁度良い機会だと、俺は地元から離れた来神高校に一人暮らしをするという形で入学することを決めた。誰も自分のことを知らない場所に行けば、少なくとも今までの人相で突き通すことはもうしなくてもよくなる。そう思ったからだった。

なのに、こうもあっさりと失敗してしまった。この力だけは、絶対に使わないようにしようと思ってたのに。だから人との接触も極力避けていたというのに。
目を閉じれば折原の見開かれた赤い目が浮かび上がる。


「…くそっ、何なんだよ……っ!」


このままではイライラしてまた何か物を壊してしまうかもしれない。俺はブレザーを脱いで煙草を手に取りベランダへ出た。





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シズちゃんの過去捏造しまくりですすみません…orz

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