第7話





・静雄side





学校から離れることに精一杯だった俺は全く気付いていなかった。

折原が俺の後をつけていたことに。


「……おい、お前は何で俺について来るんだ」

「え?だって帰る方向が一緒なんだからしょうがないじゃないか」


にこにこにこにこ。俺が振り返ると物凄く楽しそうな笑顔の折原臨也が立っていた。帰る方向が一緒というのは別に構わない。が、現在進行形でアパートの階段を上っているというのに、折原は帰ろうとする素振りを見せないのだ。まさか、部屋まで付いて来ようとしてるんじゃねぇだろうな。ただでさえ今は人になるべく会いたくないんだ。会いたくなかったからこそ、帰りに寄ろうと思っていたスーパーにも寄らなかったのに、だ。

初日からとんでもない奴に纏わりつかれてしまった。最悪だ。


「…言っとくが、部屋に入れる気なんてねぇぞ」

「は?何言ってんの?」


やはりと言うか何と言うか。2階の俺の部屋の前まで付いて来やがった折原は心底意味が分からないという顔をしていた。それから俺の横を過ぎて隣の部屋の鍵穴に鍵を差し込む。……ちょっと待て。何でこいつが隣の部屋の鍵を持ってんだ。


「挨拶が遅れたけど、隣に越してきた折原でーす。今後ともよろしく!」

「はぁあぁあああ!?」


俺が素っ頓狂な声を上げると、折原はイタズラが成功した子供のように笑った。


「驚いた?君が隣に越してきた時は出かけてたからね。でも折原っていう苗字はそうそう聞かないから、もしかしたら気付いてるかなぁなんて思ってたんだけど…どうやらそうじゃないみたいだね。まぁ、結果的にびっくりしてくれたなら俺としてもドッキリ大成功☆みたいな?」

「…………最悪だ」


あまりの衝撃に思わず肩にかけていた鞄がずり落ちそうだった。同級生と同じアパートになるのを避けるために、わざわざ少し離れた場所を借りたというのに。何でよりにもよってこいつが隣の部屋なんだ!?最悪だ、本当に本当に最悪だ!うな垂れるとはまさにこの状況のことを指すのだろう。


「そうだ、忘れるところだった」


今度は何だ。と、折原を見ると、右手を差し出された。


「……これは、何だ?」

「何って、握手に決まってるじゃん。シズちゃんさっき新羅やドタチンとしてたでしょ?俺はまだだったからさ。ね?」


こいつ…変な奴だとは初対面の時から思っていたが、相当変な奴らしい。本来ならここで握手をしてさっさと自分の部屋に入ってしまえば良かったのだろう。だがしかし俺は折原の言った「シズちゃん」という頭の悪そうなあだ名のせいで生憎冷静に考える頭を失っていた。


「…っ、だーかーらーよぉ…その呼び方はやめろよなぁああぁああ!!!」


めきり、と日常ではあまり聞くことの無い金属のひん曲がる音がした。そのことにハッとなって目の前の折原を見ると、案の定目を丸くして俺を見ていた。



………とうとう、やってしまった…。



俺は、自分の部屋の扉を引っぺがしてしまっていた。





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そろそろ展開を早めていきたいと思います。


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