第11話




・静雄side





「すぐに作るから、適当に座って待ってて」


そう言い残して折原はキッチンへと姿を消した。
俺はと言うと、意を決して誘いに乗ったのはいいがどうやって話を切り出そうということで頭がいっぱいだった。よくよく考えてみれば幽以外にこの力のことがバレたのはコイツが初めてで。どういう風に言えば釘を刺すということになるのだろうか。

やっぱ…脅迫、とか…?

待て待て待て。それだとなんだか余計に悪い方向へと進んでしまいそうだ。ここはもう少し冷静に。釘を刺すと言うよりは交渉という形に持ち込めばいい。


「シズちゃんって食べられないものあるー?」


パチン


両頬を叩いて怒りを紛らわせる。落ち着け俺、冷静になった方が勝ちだぞ。
小さく深呼吸をして、それからキッチンの方へ向き直って答える。


「特に無ぇ。……あと、頼むからその呼び方はやめろ」

「えーなんでー?俺は結構気に入ってるんだけどなぁ」


ジャージャーと飯の焼ける音と良い匂いが漂ってきた。小さく腹が鳴ってしまったのは不可抗力とでも言うべきか。
しばらくして折原がお盆を持って部屋に入ってきた。


「はい、どうぞ」

「…………」


目の前に出されたチャーハンは想像以上に美味そうだった。男の料理ってこんなに綺麗だっけか。グリーンピースとハムと卵が白米に映えて色鮮やかで、再び腹が鳴りそうになる。流石に今度は腹筋に力を込めてしのいだが。


「そんなに構えなくてもいいよ。話なら食べながらでも出来るでしょ」


クスクスと笑ってれんげを差し出す折原に僅かに頷く。それはまぁ、たしかにそうだ。それにこれ以上腹が鳴ったら恥ずかしくてそれどころではなくなってしまうだろうし。


「……いただきます」

「ん、召し上がれ」


……まぁ、なんだ、その…とりあえず折原のチャーハンは物凄く美味かった。何だこれは、俺が作るものとは比べ物にならないぐらい美味ぇぞ。
俺の部屋と同じ間取りのリビングに置かれた洒落たテーブルを挟んで、俺と折原は昼食を食べているわけだが。真正面に座っている折原は俺が夢中でチャーハンを食べている様子を見て薄く笑っている。食べねぇと冷めるぞ。とわざわざ教えてやると、俺は少食だから。なんて、答えになってねぇ答えを返してきやがった。


「…だからそんなに細ぇのか」

「……ぶはっ!アハハハ!おっかしー!」


挙句の果てに声高らかに笑い出しやがった。突然のことに唖然としていると、折原はごめんごめん、と謝りながら目尻に浮かんだ涙を拭った。


「いや、君がなかなか話を切り出さない上に俺の体のことを気にかけ始めるから何だかおかしくって。…ふー、なんとか落ち着いた」

「…手前…っ!」

「あ、怒った?でも家の中で暴れるのはやめてね。物が少ないとはいえ流石に片付けるのは大変だからさ」

「っ!」


図星を指されて押し黙ると、折原は再びおかしそうに笑いながら人差し指をずいっと突き出してきた。勢いに気押されて思わず体を後ろに引いてしまう。


「さて、そんな君に一つ提案があります」

「………は?」

「その力のことは黙っていてあげる代わりに、俺の言うことをいくつか聞いて欲しいんだ。例えば、俺が君の事をシズちゃんって呼ぶのを許すこととか」

「…っ!だから、その名前で呼ぶなって、」

「日常生活で呼ばれ続けたら、君のその短気な性格を直す練習になるかもしれないよ?」


どうかな。その言葉は俺に提案を投げかけるものではあったが、どこか拒否権を与えないような、そんな鋭さがあった。だが、短気な性格を隠すのではなく直すということは俺にとって初めての試みではあるし、そうそう悪い事だらけの提案ではないかもしれない。提案というものは、お互いに利益があってこそ成立するものだしな。


……利益、か。


たっぷり間を空けてから、俺は小さく分かったと返事をしてチャーハンの残りを一気に放り込んむ。折原は満足そうに目を細めてからようやくチャーハンを頬張り始めた。






********



チャーハンなのは単に私が食べたかったからとは口が裂けても言えない


- 11 -


[*前] | [次#]





- ナノ -