第10話





・臨也side





「さて、どうしようか」


一方的に話を切られたことに対する苛立ちやちょっとした好奇心など、そういったその場の勢いでシズちゃんを昼食を誘ってみた。…のはいいが、果たして本当に来てくれるだろうか。

始めは本当に勢いだけだったのだ。ほんの少しの憧れや興味があったものの、9年間全く話しかけることの出来なかった相手に話しかけるのは、本当は相当な勇気が必要だ。シズちゃんに初めて話した時は、目の当たりにした彼の全く違う表情や態度に別の興味を惹かれて緊張どころではなかったから良かったものの…。
先ほどより冷静になった頭で考える。俺の態度は、声は、変じゃなかっただろうか。迷惑じゃなかっただろうか。…あれ、ちょっと待てよ?

本来の俺はこんなに相手のことを考えるような人間だっただろうか。

人間は好きだった。でも、かかわるのは面倒くさかった。一個人に興味はないし、それこそ識別するほどでもないと思っていた。だから今の今まで人とはなるべく距離を置いていたというのに。観察対象と、観察者というポジションを保ってきたというのに。本来の俺はもっと賢くて自分の欲望に忠実だったはずだ。それが、まさかこんな…相手の反応を気にして行動するなんて。


「…まぁ、いいや。とにかくチャーハン作ろう」


ふるふると頭を振って考えをリセットする。そうだ、とりあえず今第一にすべきことはチャーハンを作ることだ。シズちゃんが来るにしろ来ないにしろ、俺だって空腹なのだから。冷蔵庫を開けて中を確かめる。基本的な食材は全て揃っている。それらの中から卵や野菜をいくつか取り出しててきぱきと支度を始める。自分から誘っておいて言うのもなんだけど、チャーハンを作るのは久しぶりだ。上手く作れるかな。どうせなら美味しいのができたらいいな。


ピンポーン


インターホンの音が部屋に響き、心臓がゆるやかに加速し始めた。


「あ、」


(来てくれたんだ…)


嬉しさが顔に出てしまいそうなのをぐっと堪えて、余裕の笑みにすり替える。そうだ、シズちゃんが来てくれたのはきっと俺に釘を刺すためだ。それ以外に俺に会いに来る必要性なんてないからね。……?本当のことなのに言っててなんか悲しくなってきた。何故だ。
まぁ、いいや。今は早くドアを開けてあげよう。

俺はパタパタと小走りで玄関先へ向かった。





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ここへ来てまさかの臨也視点
なるべく交互を意識して書いてるんですが難しいですね(^^;


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