第9話



・静雄side





苦い紫煙を胸いっぱいに吸い込んで吐き出す。ふと空を見ると太陽は昇りきっていて、そういえばまだ何も食べていなかったことを思い出す。あり合わせで何か作るか。とまで考えて溜め息が漏れた。冷蔵庫の中は空っぽだった。帰りに買いに行こうと思っていたのに、あいつがついてきやがったからすっかり忘れていた。…入学式早々ツイてねぇな。


「…まぁ、昼飯抜きでもいいか」

「え?じゃあ食べに来る?」

「あぁ………はぁっ!?」


今、どこからか折原の声が聞こえてきたような。でも辺りを見回しても誰もいねぇし。…気にしすぎ、か?そうだ。あいつはさっき俺の力を見て怖がっていたはずだ。わざわざあいつから話しかけてくることなんてあるはずがない。


「アハハ!シズちゃん、こっちだよ!」


今度ははっきりと聞こえた。どうやら残念なことに幻聴ではないようだ。その上やけに声が近いなと思っていると、右側からにゅっと手が伸びてきた。


「っ!!?」

「あは!びっくりした?」


続いて、折原の楽しそうな顔。…そうか、隣のベランダから……って、そうじゃねぇだろ。


「もう話しかけんなって言っただろーが。さっさとどっか行きやがれ」

「酷いなぁ。せっかくこの俺が手料理を振舞ってあげようかって言ってるのに。あと、ここ俺の部屋なんだから無茶言わないでよね」


ぷんぷん。とふざけた怒り方をする折原は全く俺の話を聞いていない。話しかけるなって、普通あんな場面でそう言われれば従うだろ。


「因みに今日のメニューは俺特製のチャーハンでーす!食べたい?ねぇ、食べたい?」

「…いらねぇよ」

「えー。そう言わずにさ、食べに来てよ。……ちょっと話したいこともあるしね」

「…………」


話したいことというのは、先程のアレのことだろうか。ていうか、俺とこいつの間にはそれぐらいしかねぇよな。今日会ったばかりなんだから。
俺は無言でベランダを出て行った。変な噂を広められる前に軽く釘を刺しておかなければ。こいつがどんな奴かはまだよく分からねぇが、最悪の事態に備えておくにこしたことはないだろう。


「…はぁ、」


俺は制服を脱いで適当な服に着替えた。





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書きたいことが徐々に消化できてきて楽しいです^^

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