負けました



コレの臨也視点です



結局予定していた時間よりもかなり遅れてしまった。元々30分前に着くように想定していたから遅刻にはならないけど、計画が狂うのは嫌いだ。
しかし遅れた分、なかなか出来の良い女の子臨也ちゃん(ここ笑うとこね)が誕生した。もしかしたら俺って気づかないかもっていうぐらい完璧な女の子だ。駅までの道を歩いていても、何人か男が振り返って俺をまじまじと見つめてきた。
アハハ!その反応面白いよ!シズちゃんはどんな反応するんだろうか。やっぱり怪訝な顔?それとも赤面?どっちも面白そうだから良いけど、どうせなら後者のほうがいいな。何て事を考えながら歩いていたらあっという間に駅前に着いた。
時計を見ると待ち合わせ時間の7分前。うん、間に合った。シズちゃんの事だから待ち合わせ時間きっちりかちょっと遅れて来そうだなぁ。前にも言ったけどシズちゃんって待つの嫌いだし。


「ねぇ君1人?俺ら今暇なんだけどさ、よかったら一緒に遊ばない?」


頭の悪そうな声が聞こえて振り返ると、4人の男が笑いながら話しかけてきた。
何こいつら、ナンパ?いくら俺が女装しても可愛いからってそれはないよ、ナイナイ。はっきり言ってキモい。シズちゃんなら全然良いけど。


「おぉ!やっぱり可愛いね君。実は俺達ずっと君の後付けてたんだよねー」


しまった、考え事に集中しすぎてて気づかなかった。後を付けてきたのがこいつらみたいな頭の悪そうな奴らで良かった…。危ない奴じゃなくてほんと良かった。


「今、待ち合わせ中なんだけど」

「絶対俺達と一緒にいる方が楽しいって!ね?一緒に遊ぼうよ」

「だからさ、お…私は待ち合わせをしてるの。何回言わせれば気が済むわけ?もしかして見た目通りの馬鹿なの?」


だんだん呆れてきた。早くこいつらを追い払わないとシズちゃんが来てしまう。今日は普通にシズちゃんとデートがしたいんだから、こんな奴らと関わっている暇はない。時間が勿体ない。


「分かったらさっさと他の子のところに行ってよ。私はあんた達に構ってる暇はないんだから」

「んだと…!手前ちょっと可愛いからって調子に乗んなよ!オラ、大人しく俺らに付いて来いって言ってんだろーがよ!」

本当に面倒くさくてあまり考えもしないで言ってから後悔した。男の一人がキレて俺の腕を掴んで乱暴に引っ張ってきた。普段なら仕込みナイフで対抗するのに、今日に限ってナイフは仕込んでいない。女の子の服ってナイフを隠すところがあんまり無い上に動きにくい。九瑠璃と舞流には鞄に入れておいた護身用のナイフを

「可愛くない」

という理不尽な理由で没収されてしまっている。

あれ?今この状況って俺ピンチなんじゃない?(笑)……無理、笑えない。


「ちょっと…っ痛いって!」


急所を蹴り飛ばしてやろうかと考えていた時、後ろから聞き慣れた声が聞こえてきた。


「おい、そいつ俺の連れなんだけど。なんか用か」


びっくりして思わず目を見張る。え……ちょっと、シズちゃん…?私服を普段あまり見ないからなのかもしれないけど、いくらなんでもそれは…カッコ良すぎじゃありませんか?普通のアイボリー色のジャケットにワインレッドのTシャツとデザインジーンズなんだけど、めちゃくちゃスタイルが良いからか似合いすぎてる。シズちゃんはファッションとか詳しくないから、これは弟君が選んでくれたのかな?

…って、今はそれどころじゃない。気がつけば男達は走るように逃げて行った。さすがシズちゃん!


「…おい、大丈夫か?」


その姿を見て不覚にも安心してしまった。だって、本当にカッコ良すぎるんだって!シズちゃんが悪い!でも俺を見ても反応しない辺り俺が折原臨也だって気づいていないようだ。
もしかして、俺じゃなくてもナンパされてたら誰でも助けちゃうわけ?それは嫌だなぁ。今回は俺だったから良かったけど、これが他の女の子とかだったら即惚れられてたよ?…これからはもっとちゃんと見張らないと。


「ねぇ、本当に分かんないの?」

「………何がだ?」


首をかしげて戸惑っているシズちゃんに少し笑いそうになった。可愛い!そうだなぁ、大サービスってことでヒントをあげよう。


「シズちゃん、って呼べば分かってもらえる?」


瞬間、はっとして恐る恐る口を開いた。


「手前……臨也か…?」


その顔があまりにも面白くてにこりと笑う。


「正解!いやぁ、ナンパから助けてくれるシズちゃんカッコ良かった!まさか俺だって気づいてないとは思わなかったよ。まあ、それもこれも俺が可愛すぎるからいけないんだけどね」

いつもの調子で話しかけてもシズちゃんは驚いた顔を崩さなかった。


「…手前、いつ手術したんだ?」


よりによって胸はどうしたんだ?だなんて、聞いてきやがった。…何言ってんだこいつは。あー…もしかして豊胸手術のこと言ってるわけ?いくらなんでもそこまではしないっての。

少しむっとした俺はシズちゃんの手を取って胸へと押し当てた。シズちゃんの顔がみるみるうちに赤くなる。


「するわけないじゃん馬鹿?こんなの詰め物に決まってるでしょ」


俺が説明すると納得したのかしてないのかよく分からない顔で固まってしまった。ちょっと、俺がわざわざ時間かけてまで女装したっていうのにいきなり胸の話題は無いんじゃない?今日はシズちゃん可愛いって言わせてやるって決めてるんだから。
俺は固まってしまったシズちゃんを見上げる。


「ところでさ、俺可愛い?」

「……何でそんな格好をしているのかっていう質問は駄目なのか?」

「やだなぁ、折角シズちゃんのためにしてきたのに」

「恥ずかしさとか、そういうのは無ぇのか?」


シズちゃんのため、と少し強調したのにもかかわらず別の質問を投げかけられてしまった。ちょっと、俺だって傷つくんだけど。


「え?だって、俺似合うもん。シズちゃんだって俺がヒントあげるまで気づかなかったじゃん」


俺が当然のように返事をするとシズちゃんは黙ってしまった。それから俺をまじまじと見つめる。…駄目だ、きりがない。


「ねぇねぇ、可愛い?」


シズちゃんの手をぎゅっと握ってわざと上目遣いで見る。シズちゃんは純情君だからこういうベタな仕草に弱いはず。


「………似合っては、いる」


俺の読みは当たったようでほんのりと顔を赤らめる。


「えー何それ!可愛いの?可愛くないの?」


問い詰めると更に顔を赤くして眉間に皺を寄せる。んー可愛い。可愛いけど、俺はどうなの?可愛くないの?


「……か、」

「か?」

「可愛くなくは…ない」

「……………」


…なんかだんだん切なくなってきた。いい加減素直に可愛いって言えばいいのにさ。でも意味的には可愛いという事でいいのか。

そっか、可愛くなくはない、か。


「……もういいよシズちゃん。君にしてはよくやった方だしさ、エライエライ」


からかって頭を撫でてやると、イラッとしたのか怪訝な顔で俺を一瞥した。ヤバい、殴られるか?と思ったら、殴られなかった。いつもは殴られる場面なのに…変なの。


「ほら、んな事やってねぇでさっさと行くぞ。電車が出ちまう」

「え?…あぁ、うん、そうだね。シズちゃん何だかんだ言いながら結構ノリ気じゃーん」

「違ぇ!折角貰ったもんを無駄にしたら勿体ねぇだろーが!いい加減殴るぞ手前!!」


あ、いつものシズちゃんに戻ったかも。スタスタと歩いていってしまうシズちゃんに慌てて付いて行く。あー、動き辛い!ついでに言うとこのパンプスも歩き辛い原因だ。女の子ってある意味凄いよ、これで走り回るとか難しすぎる。ようやく並んで歩けるところまで追い付いた。ご機嫌伺い、っていうわけではないけどこっそりシズちゃんを見る。さっきまであった眉間の皺が消えていた。

あ、どうしよう。

俺こういう風にシズちゃんと並んで歩くの初めてだ。楽しくなってきた。


「…俺は、楽しいよ」


ぼそりとシズちゃんに聞こえたかどうか分からないぐらい小さく呟いた。


「……そうかよ」


返事が返ってきたことと、少しシズちゃんが笑ったような気がしたことに驚いて俺は静かに笑った。





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臨也視点です。少女漫画的展開の匂いが徐々に出てきました。

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