で、今俺たちは下駄箱にいる。何故か?今は放課後であって、教室に残っているような人間なんて殆どいない。1年生なら尚更だ。他見から引っ越して来てまでうちの学校に来る生徒もいるわけだからこの辺は珍しいだろう。さっさと帰宅して遊びに行くのが普通だよ、正解。
早い話、そのさっさと帰宅しようとしてる生徒を下駄箱で捕まえようっていう寸法だ。因みに発案者は俺ね。
「さてと、手始めにあの女の子3人組に声かけてみよっかな。シズちゃんはちょっと離れてて」
「あ?何でだよ」
「シズちゃんが横にいたら女の子達怖がって話聞いてくれないじゃん。ほら、分かったらさっさと行ってよね!」
「んだとコルァ!!」
というのは勿論嘘。だってシズちゃんってば顔もスタイルも無駄にいい上に天然タラシだから、下手したら女の子達がシズちゃんに惚れちゃうかもしれないじゃん?ただでさえ邪魔な奴らが多いっていうのにこれ以上増えられたら駆除に困る。
だったら何で連れて来たのかって?…だって、こうでもしなきゃシズちゃん1人で帰っちゃうし。しょうがないんだよ。
「ねぇ、君達。ちょっといいかな?」
ぎゃんぎゃんと騒いでいたシズちゃんも俺が営業用スマイルで女の子達に近づくと同時に文句を言いながらも離れて行った。シズちゃんって変に律儀だよねぇ。可愛いからいいけどさ!
「あ、あの、何ですか…?」
声をかけたうちの1人がおずおずといった感じで先を促してきた。他2人はほんのりと頬を染めて俺を見つめている。…あと少しかな。
「君達軽音部に興味ない?今廃部寸前で困っててさ…君達さえ良ければ入部してくれたら嬉しいんだけど」
すっと頬を染めていたうちの1人の肩に腕を回すと、顔を真っ赤にしてこくこくと頷いてくれた。よし、1人確保。あとは芋蔓式で入ってくれるはず。
「あ、じゃあ私も…」
「え?じゃ、じゃあ私も入ります」
ほらね、俺の予想通り。呆気なさすぎて面白くないなぁ。もうちょっとこう、シズちゃんみたいに俺の予想を遥かに超えるような反応してくれてもいいんだけど。
「「「きゃーーっ!!」」」
「カッコいいですね!!」
「彼女いるんですか!?」
「好みのタイプは何ですか!?」
「先輩は部員さんなんですか!?」
そうそう、あんな感じの反応だったら少しは楽しめたのに………って、
「は?」
くるりと声のした方を振り返ると女子生徒の人だかりが出来ていた。中心は誰か、なんて聞かなくても分かるよ。頭2つ分ぐらい飛び抜けてでかい人間が中心で困ったような顔をしてるのが丸見えだからね。
「……ちょっとシズちゃん……何やってんの?」
「臨也!」
一瞬呆気に取られていた俺が声をかけると、珍しく嬉しそうに(というより助かった!っていう感じの)顔をして俺の名前を呼ぶ。
……本当に馬鹿なのかな、シズちゃんって。何でああやって自ら火の中に飛び込むようなことするのかな。信じられないんだけど。
「俺待っててって言ったよね?何でそんな事になってんの」
「知らねぇよ!手前待ってるついでに適当に勧誘しようと思ったらこうなったんだよ!」
「……そう」
駄目だこの人、無自覚だ。自分がどれだけカッコいいのか分かってないんだ。これは俺の想像だけどシズちゃんの事だから多分俺と同じように女の子のグループに声をかけたんだろう。で、
「なぁ、ちょっといいか?話があんだけどよ」
とかまあそんな感じの事を言ったんだろうね。言ったのが普通の人間なら流せるんだけど、これを言ったのがシズちゃんっていうのが重要だ。あのちょっと強面のイケメン君に真面目な顔で「話がある」なんて言われたら内容はともかくそりゃ落ちるよ。…俺自身ちょっと想像しただけでも落ちそうになるんだから間違いない。きっとその声をかけられた女の子達の耳にはその後の話は入ってこなかったんだろうねぇ。気持ちは分からなくもないけど、俺からしてみれば邪魔者が増えただけだ。
あーもーイライラする!いつも俺にしてるみたいに力づくで蹴散らしちゃえばいいのに。シズちゃん、女の子には優しいんだから…。
「おい臨也!」
早く助けてくれと言わんばかりの必死さで名前を呼ばれる。しょうがないなぁ……。
「ねぇちょっと、その人俺の連れだから手出さないで欲しいんだけど」
営業スマイルなんてしてられるわけがない。というわけで俺は少し睨みをきかえて何故か徐々に増え続ける女の子達の黄色い声に割り込む。もう勧誘なんてやめだ、やめ。さっさと帰ろ。
「カッコいい……」
「…は?」
一瞬しんと静まり返ったと思ったら俺の方へぞろぞろと女の子達が移動し始めた。え、ちょっと待って、何これ?
「あの、もしかして折原先輩ですか…?」
「実は私、入学する前から憧れていて…」
「今お時間ありますか?」
え……ちょっと待ってほんと何これ。君達ついさっきまでシズちゃんに熱い視線送ってたよね?何この変わり身の早さ。鬱陶しいなぁ。
俺が呆れたように女の子の群れを観察しているとぐいと腕が引かれた。…今日の俺腕引っ張られてばっかりだなぁ、なんて客観的な感想を頭の中で述べていると気がつけばシズちゃんに抱きしめられていた。…いやいやいや、ごめん、理解できない。今日のシズちゃんはちょっと理解できない。
「悪ぃけど俺らはこれから用事があっからよぉ、話の続きは2年の岸谷っていう奴のところに行って聞いてくれ。じゃあな」
それだけ言い残して俺を肩に担いだシズちゃ…って待て待て待て待て!!何で俺担がれてんの!?おかしいってこれ!あーあ…走り出しちゃったよ。どこに行く気だよまったく。凄い速さで風の音と共に女の子達の黄色い声が離れていく。…いいけどね、別に。
「…ねぇ、シズちゃん。そろそろ降ろしてほしいんだけど」
「!わ、悪ぃ」
すとん、と降ろされたのは最早学校の中ではなく、見慣れた通学路だった。学校から結構離れたなぁ…シズちゃんって運動神経いいよね。俺の方が上だけど。
「…おい、臨也」
「何?」
半ば感心を込めて今来た道を眺めていると、頭を掻きながらそっぽを向いているシズちゃんが何か言いにくそうに口ごもっていた。
「…あのよぉ……」
「だから何?」
「…〜っ!だから、!」
辺りはもうすっかり夕暮れになっていて、俺と視線を合わせたシズちゃんの顔も夕焼け色に染まっていた。
「お前、もうあんな事すんな!」
「…?あんな事って、何?」
聞き返すとシズちゃんの顔がどんどんと夕焼けよりも赤くなっていった。…うわ、なんかよく分かんないけどつられちゃいそう。
「…その………女子の肩に腕まわすアレ……もう、すんな」
「…………」
「………………」
「……………………」
「…………………………」
やばい、どうしよう。シズちゃんのデレって破壊力ハンパないんだけど!うわどうしよう、顔が熱い。今頭ん中ぐちゃぐちゃだ。心臓うるさいし、変な感じに苦しい!
「い、今のは忘れろ!ほら帰んぞ!」
俺が返事をする前にシズちゃんはスタスタと競歩の如く歩いて行ってしまった。ちょ、ちょっと!デレた後は放置プレイ!?それはちょっと酷くない!?ていうか早すぎ!
「シズちゃん!」
未だにうるさい心臓に邪魔されながらもなんとかシズちゃんを呼び止める。走って駆け寄るとやっぱりシズちゃんの顔はまだ赤いままだった。
「あの、さ。もしかして嫉妬してくれた?」
「んなわけねぇだろ!あんな事したら勘違いしそうになるだろーが!」
「誰が?」
「だから俺が…ってあ゛ぁあ゛ぁぁあ゛あ゛!今の無し!忘れろ!!」
勝手に口走ったのはシズちゃんの方なのに顔を真っ赤にして俺を睨みつけてくる。…可愛いなぁ、もう!
「…シズちゃん、今週の日曜日空いてる?」
「はぁ!?」
ぜぇぜぇと肩で息をしながら(多分まだ混乱中だと思う)シズちゃんは意味が分からないといった顔で俺を見る。その顔の前に押し付けるように新羅に貰った茶封筒を突きつけると、驚き半分戸惑い半分の顔をされた。
「これ、新羅に貰ったんだけど一緒に行こうよ。そしたら1日中俺を独占出来るよ」
「だ、誰が手前を独占なんか…っ」
「ふーん…じゃあドタチンと2人で行こっかなぁ?」
「っ!」
シズちゃんの眉間に皺が寄る。素直じゃないなぁ。……俺が言えることじゃないけど。
「…ね、一緒に行こ?」
だから素直になれない者同士、一緒に素直になろうよシズちゃん。
「……分かった」
小さな声であまりよく聞こえなかったけど、俺にとってはそれで満足だった。本当は当日シズちゃんの家に押しかけて無理矢理連行っていう予定だったんだけど、これはこれで本人の了承も取れたわけだし結果オーライだ。正式にデートが出来る!
「ありがとう!」
と言ってシズちゃんの腕にしがみついても、いつものように引っぺがされなかったのは進歩と考えてもいいのかな。などと考えながら歩いていると、何故かしがみついた俺の方が恥ずかしくなってきてしまって顔が火傷しそうなぐらい熱くなった。
……日曜日、どうなるんだろうなぁ。
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無駄に続きます。書き始めた時と趣旨が変わってしまいました。びっくりです。
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