気付いちゃいました





・セルティ視点
・新羅が気持ち悪い人になってます




「良かった見つかった!ほらセルティ、今トイレに入っていった人がいるだろ?彼女が静雄の彼女だよ」


隣で新羅がぜえぜえと荒い息を吐きながら苦しそうにトイレを指差す。なるほど。今入っていった女の子が静雄の彼女か。結構背の高い女の子だな。細かったし、モデルみたいだ。見た感じうちの学校の生徒ではないような…。
どちらにしろ、さっき新羅を殴ってしまったのは完全に私の勘違いだな…。ちゃんと謝っておかないと。

ポケットからPDAを取り出して謝罪の言葉を入力する。これは、事故で言葉を話せなくなってしまった私に新羅がプレゼントしてくれたものだ。


『新羅、さっきは私の早とちりで殴ってしまってすまな…』



カシャッ



『…………新羅?』


思わず文字を入力していた手が止まる。何だ、今何か光らなかったか…?


「あぁ!嫉妬して殴ってくるセルティも可愛かったけど、素直に謝ろうと恥ずかしがりながらPDAを打つ君の姿も凄く素敵だよ!流石僕の未来の奥さん!いやこの際、未来じゃなくて今この瞬間から僕の奥さんになってもらっても全然かまわないんだけdっ!?」

『私の前にお前が先に反省しろ!』


最近更に的確に鳩尾を狙えるようになってきてしまったのは新羅のせいだ。絶対。この携帯も後で調べてみる必要性がありそうだ。うう……なんだか調べるのも怖くなってきた。


『あれ…?』

「どうしたのセルティ?」


あの男女共用のトイレに今男が4人入っていったような…。ん?じゃぁ、静雄の彼女はもう出たのかな。どうせなら正面からちゃんと見ておきたかった…。さっきはちゃんと顔を見る暇もなかったから。

でも、そうか。あの静雄に彼女か。…幸せ、なんだろうな。思わず静雄の笑顔が脳裏に浮かんで頬が緩んでしまう。


「え、セルティ!?…と、新羅」

『静雄!?』


突然後ろから声をかけられてびっくりした。それも、今考えていた人物の声。なんだか今日の静雄はお洒落だな。やっぱり彼女とのデートには気合が入るものなのだろうか。そういうのってなんだか可愛いな。


「やぁ静雄君!色々言いたいことはあるんだけど、とりあえず僕を見て凄く嫌そうな顔をするのはやめてくれないかな」

「うるせぇ。俺は今イライラしてんだ、ちっと黙ってろ」


新羅が頭を鷲づかみされているけど、生憎私はそこまで気を配れなかった。あ、あれ…?彼女の姿が見当たらない。入れ違いで出てきたんじゃなかったのかな。静雄は今イライラしているって言ってたけど、でもどうしても見てみたいな…。言ったら怒るだろうか。怒りそうだなぁ…。


「し、静雄君!僕の中身が出てしまう前に言わせてもらうけど、さっき臨…じゃなかった!えっと、連れの人の入っていったトイレに男が入っていってたよ!」

「……………あぁ!!?」

「あぁぁあぁあぁあ!!嘘じゃないよ!嘘じゃないからその手の力抜いてぇええぇえ!」

『し、静雄!新羅の言っていることは本当だ。たしかに私もさっき女の子の後に男が4人入っていくのを見たぞ。』


てっきり、私が目を離した隙に入れ違ったのかと思ってたんだけど、と続けようとしてやめた。静雄は血相を変えてトイレへと走っていってしまったからだ。


「くそ…っ!あの野郎…っ!!」


新羅が呼び止めるのも無視して走っていく静雄。その背中はなんだかとてもたくましく見えて。


その子のことがとても大事なんだなってことが伝わってきて。


気付けば私は、隣で頭を抱えて涙目になっている新羅の制止の声を聞かずに静雄の後を追いかけていた。






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もうすぐ、もうすぐ、だと思います


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