不意打ちです





「シズちゃんお待たせ〜。はいコレ、コーラでよかったでしょ?」

「……あぁ、サンキュー」


先程買ったばかりの良く冷えたコーラを手渡すと、シズちゃんがぐったりとした顔でそれを受け取る。この様子じゃまだ回復しきれてないのか、だらしないなぁ。


「あれ、飲まないの?ぬるくなっちゃうよ?」


訝しげにコーラを見つめるシズちゃんにじれったくなった俺は声をかける。


「…やっぱり手前の持ってるコーヒーの方がいい」

「えー何でー?折角俺が選んできてあげたのに文句言うわけ?」

「どうせ手前のことだ、このコーラ思いっきり振ってあんだろ?バレバレだっつーの」


おぉ、案外頭の方は回復がいいのかもしれない。実に残念だ。缶から勢い良く飛び出すコーラを浴びたシズちゃん、見たかったんだけどなぁ。


いやぁ…ホント、残念。(笑)


「んなあからさまに残念そうな顔すんなよ。ほら、さっさとそれ寄越せ」

「やだよ。俺コーラなんて飲まないもん。それに俺がお金出して買ったやつなんだから、シズちゃんにどうこう文句言われる筋合いはありませーん。ほらさっさと飲んじゃってよ」

「手前に買いに行かせた俺が馬鹿だった…。もういい、邪魔になるからコレは手前が持っとけ。気分も少しはマシになったし、さっさと次行くぞ」

「だから俺飲まないって言ってるじゃん。人の話聞けっての!……あぁ、もー………次、お化け屋敷行くからね!」


嫌がっても絶対無理矢理中に入れてやる!と心の中で決心した俺は、開けることも捨てることも出来なくなったコーラを仕方なく鞄に入れて、俺はシズちゃんを追いかけた。
今日はシズちゃんとの折角のデート(俺が思っているだけなのかもしれないけど)なんだから。もう二度とこんな機会は無いかもしれないんだから。そう言い聞かせながら俺はシズちゃんの隣に並んだ。

















「間近で見ると凄い迫力だねぇ。一体いくらつぎこんでるんだか。廃病院をまるまる買い取ってお化け屋敷に改装したぐらいだから相当な額なんだろうねぇ。…シズちゃん、俺の話聞いてる?」

「……あぁ?聞いてるって。要するに高ぇ金つぎ込まれてるって事だろ?」


シズちゃんはどうでもよさそうな素振りを隠そうともせずにぼぉっと入り口を見ている。もうすぐ俺達の番だ。


「そういう事。全部通り抜けるのに平均40〜50分近くかかるって書いてあるけど、それって怖がってる人達がゆっくり進んでいるからそんなに時間が掛かるわけであって、ちゃっちゃと進んじゃえばそんなに時間が掛かるものじゃないだろうに。相当このお化け屋敷にかけてるんだね。あ、じゃあこの場合俺は怖がった方がいいのかな?『きゃー怖ーい』とかありきたりなセリフを言ってシズちゃんの腕に抱きつくのが正解?」


ちょっと、そんな可哀想なものを見るような目で俺を見ないでくれない?


「んなもん知るか。大体手前、こういうの全然平気な性質だろーがよ。下手にそんな事された方が鳥肌もんだからやめろ」

「鳥肌モノとは失礼な。知ってる?こういうところで同じ恐怖体験を味わった人間って恋に落ちやすいんだよ」

「だから何なんだ。言っとくが俺は幽霊なんて信じちゃいねぇし、ましてやそれが作り物だと分かっていれば尚更恐怖なんてものは微塵も感じねぇからな。分かったらさっさと行くぞ」

「シズちゃんが冷静だとつまんなーい」


係りの人間に渡された懐中電灯を持って薄暗い奥へと入って行く。元は本物の病院だっただけあって、怖がりの女の子なら壁にある血のシミを見ただけで腰が抜けそうな程演出の方はばっちりだ。そんな中を平然と歩いていく俺とシズちゃんはある意味浮くのかもしれない。
でもさ、でもさ?普通デートで遊園地でお化け屋敷ときたら、少しは何らかのラブハプニングを期待するものじゃない?さっきからそういう雰囲気とか一切無しなんですけど。

まさか君、このままあっさりとゴールしちゃう感じなの?

……ちょっと、嘘でしょシズちゃん?いくらなんでもそれは酷いよ。臨也君も流石にショックだよ。(笑)


「おい、臨也」


ぴたり、と少し前を歩いていたシズちゃんが立ち止まった。びっくりした…声に出してたのかって一瞬疑っちゃったじゃん。


「ん?何?」

「さっきから人の気配がすんだけどよ、手前気付いてなかったのか?」

「は?何言ってんの?お化け屋敷なんだから人の気配がして当然でしょ。本物の幽霊が出てくるんじゃあるまいし」

「そういうのじゃねぇって。明らかにそういう類の気配じゃねぇんだよ。…まるで後をつけられているような、そういう感じの気色悪ぃ気配みたいな…」

「…………?たしかに人の気配はするけど、よく分からないなぁ。俺シズちゃんと違ってそこまで野生の勘は冴えてないからさ」


ていうか、そういう気配に気付くぐらいならもうちょっと別の空気読めよ。入り口では冗談っぽく腕に抱きつくとか言ってみたけどさ、シズちゃんがあまりにも空気読んでくれないから行動に移せないじゃん。この野郎、さっきのジェットコースターでのデレは何だったの?もしかしてデレの反動がきたとか?


「……おい、ちょっとこっち来い」


ぐいっと手を引っ張られて無理矢理横に並ばされる。きょろきょろと回りを確認するシズちゃんが何かおかしかった。……まぁ、とりあえずくっつけたからいいか。手が痛いけど。


「えー…何?その気色悪い気配の元から守ってくれるわけ?」


照れ隠しに茶化したら舌打ちされた。うんうん、分かりやすい人間は大好きだよ。シズちゃんはとりわけもっと大好きだよ。手が痛いけど。


「絶対俺から離れるなよ」

「…っ、…はいはい分かりました」


シズちゃん、君本当はわざとやってるんじゃないの?急に真剣な顔なんかするからときめいちゃったじゃん。似合わないんだからやめとけ、という意味と無駄にカッコ良くて悔しいという恨みを込めて思いっきり握り返してやったら全く反応されなかった。

……腹立つ。





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もうちょっとだと思います…
話の度にキャラ変わっててすみません←

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