速報!





・奥村兄弟+京都組




珍しく早く上がることのできたある日の夕方。雪男は寮に直帰する前に、新商品で発売前から評判だとシュラから勧められたミネラルウォーターを買うべくスーパーへと立ち寄っていた。店に入ると少し大きめのコーナーにでかでかと派手なポップで飾られたコーナーが特設されており、お目当ての商品を探すことなく見つけることができた。それを2本かごに入れて、それから燐の好きなゴリゴリくんもひとつかごに入れた。さて帰ろうかな、とレジへ行く前に念のため兄に入用なものはないか確認しておこうと思い立つ。なんやかんや言ってそういった家事には燐の方が向いていて、いつも無くなりそうなものや切らしているものを把握している。そういえば今朝も何かを切らしたとか言っていた気がする。


今スーパーにいるんだけど、何か欲しいものある?


「送信、っと」


薄型の携帯を慣れた手つきで操作して、雪男は送信ボタンを押した。

ブーブー

すると数分も、いや、一分も経たずにメールを受信した。送信者は勿論兄からだった。でもそこまで機械に詳しくない燐がこんなに早く返信してくるとは思えない。というより、ありえない。すぐにメールフォルダを開いてメールをチェックする。


【速報!】新発売の水だってさ!一本買って帰るな!


添付されていた写真にはミネラルウォーターを持ってピースする燐と志摩、その後ろには呆れ顔の勝呂が写っていた。もしかしたらこれを撮影したのは三輪君なのかもしれない。兄さんが写真の添付機能なんて使いこなせるはずがないんだし。


「あ、これ…」


良く見ると兄さんが持っているのはさっき自分がかごに入れたものと同じミネラルウォーターだった。場所は多分…コンビニ?だと思う。大方、帰りにコンビニに寄ってたまたま見つけたってとこだろう。メールには、買って帰る。なんて書いてるけど、財布は大丈夫なのか?今日は月末だから厳しいだろうに。
さて、どう返信しようか。悩みながら文字を打ったり消したりして。悩んで悩んで、やっぱりミネラルウォーターを二本とも棚に戻した。


そんなの出てたんだ。ありがとう、楽しみにしてる。


「…なんだかなぁ…」


ほんと、甘いよなぁ…。でも今頃兄さんのところにはさっき僕が送ったメールが届いてるだろうし。ややこしいことしちゃったかな。
思った通り、またもや兄さんからメールが届く。


みりんと醤油を頼む。一番安いやつ。あとゴリゴリくん!


それを見て再びかごを見る。袋の表面に若干水滴がついてしまったアイスが雪男を見つめ返していた。ほぼ同時刻に兄さんと同じこと考えてたんだなと思うと少しおかしくて。
ずっと立ち止まってメールをし、挙句の果てにはにやついている僕を店員のおばさんが変な目で見ていた。慌てて調味料コーナーに向かい、頼まれたものをかごに入れる。


ブーブー


「え、また?」


今度は何だ、とレジに向かいながら確認すればまたもや兄さんからで。


いいってことよ!


「……は?」


何が?いいってことよ?……あ、さっきの僕の「楽しみにしてる」っていうやつか。わざわざ返信してこなくてよかったのに。会話噛み合ってないじゃん。
返信と表示されているボタンを無視して携帯を閉じる。続きはメールじゃなくて直接兄さんに言えばいいや。にやにやする顔を無理やり引き締めてさっさと会計を済ませる。店の外に出れば日は傾ききっていて、綺麗なオレンジの空が半分紺色へと変わり始めていた。その景色と夕暮れ独特の匂いが兄さんに会いたいという気持ちを募らせて、気付けば僕は小走りで寮に向かっていた。










「はい、そーしん!っと」

「写真ちゃんと撮れてました?」

「おう!ばっちり!さすが子猫丸だなっ」

「今時写メの添付も出来ん男子高校生がおるなんて…奥村君、天然記念物やわ」

「いや、ただのアホやろ」

「うっせーな!いつもは雪男にやってもらってるからいいんだよ」

「ほんまに仲がえぇですよね、奥村君と奥村先生って」

「まぁなっ!兄弟だし!」

「………あれ?何でやろ、俺若先生のこと思うと少し切なくなってきたわ」

「………まぁ、その気持ち分からんでもないわ」

「?二人ともどないしはりましたん?」

「?さぁ…?」






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