チョコレート戦争 ・雪燐 ・18禁ですので18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください 生クリームと無塩バターとココアパウダー、それから肝心の板チョコレート。どれも失敗しても大丈夫なように多めに買っておいた。それらを厨房に並べて燐は生唾を飲み込む。 (よし、いける…!) クロはしえみのところで預かってもらっているし、雪男も今日は夕方まで帰ってこない。このだだっ広い寮には今俺しかいないわけで。…やるなら今しかない! 隣に広げておいた雑誌の『簡単トリュフ』と書かれたレシピページを読みながら、燐はチョコレートの封を切った。 「奥村君奥村君」 「あ?」 「ここだけの話…チョコいくつ貰った?」 2月14日バレンタイン当日。世間ではお金持ち学校と呼ばれている正十字学園も例外なくそわそわとしたくすぐったい空気が漂っていた。女子生徒は意中の相手にどう渡そうか、またはどう告白を添えようかと胸を高鳴らせ、男子生徒は思いを寄せている相手からチョコを貰えるかどうか、いくつ貰えるだろうかと期待に胸を膨らませる。 志摩と燐は男子トイレの前でしゃがみこみながら、学校のいたるところでバレンタインという行事に便乗している生徒達を眺めていた。 「…そ、そういうお前はいくつ貰ったんだよ!」 「聞いて驚いたらあかんえ?なんと……2個や!」 「な゛ッ、なんで志摩が2個も貰ってんだよ!」 「フフフ…その反応はまだ1個も貰ってないってことやね?」 「う、ううううっせーなッ!!お前には関係ねーだろ!!」 「いやぁ、このバレンタインの優越感はたまらんわぁ…!」 ふにゃっと顔を緩める志摩をじと目で睨みつけながら燐は心の中で「俺はいいんだよ!」と叫んだ。俺は貰わなくたっていい。…そりゃ、チョコは嫌いじゃないから貰えたら貰えたで嬉しいけど…。 用を足した勝呂と子猫丸がハンカチで手を拭きながらトイレから出てきた。 「見栄を張るのはそのへんにしとき志摩さん」 「そのチョコは柔造と金造からなんやろ」 「えぇっ!?だ、だって可愛らしい字で書かれたカードも入ってて…」 「あれは俺のオカンの字や」 「志摩さん知らんかったんですか?僕らにも届いてましたよ」 「ええええ!!?そ、そんな…!!」 「ギャハハ!残念だったなー」 がっくりと項垂れる志摩に腹を抱えて笑いながら、燐は預かっていた教科書類を勝呂と子猫丸に渡した。仲の良い兄弟だな、と落ち込む志摩の肩を叩くと弱々しい声で「ただの嫌がらせや」と呟いたので思わずまた噴き出しそうになる。 そういう勝呂はいくつ貰ったんだよ、と茶化し気味に聞いてやれば頬をポリポリと掻いてそっぽを向いた。 「さ、3個…」 「坊もどうせ柔兄と金兄からですやろ…って、あれっ!?じゃああと1個はまさか」 「……今朝机ん中に入っとった」 「「「えええええッ!!」」」 「うるっさいわお前らッ!!」 照れ隠しのつもりだろうが、怒鳴る勝呂の顔は真っ赤になってしまっていて全く意味を成していなかった。 (なんか、いいなこういうの) 中学ではバレンタインなんて身内だけの行事(チョコをせがむジジィのついでに修道院の皆に配っていた)だったし、友達とこういう会話をするのは新鮮でくすぐったい。喚く志摩を鬱陶しそうに流す勝呂とそれを宥める子猫丸を眺めて燐はこっそりと微笑んだ。 その日は予想していた通りというか予想以上というか、雪男は疲れ切った顔で両手に大きな紙袋を下げて寮に帰宅した。ここまでくると燐も羨ましいと思うよりも先に感嘆の声を漏らしてしまう。 「良かったら食べてもいいよ、どうせ僕一人じゃ食べきれないんだし」 「ケッ、お前のおこぼれなんざいらねーよ」 雪男は「これでも断った方なんだけどね」と溜め息を吐きながらコートを脱いでいる。当の本人は心底うんざりしているのだろうが、この状況下ではただの嫌味にしか聞こえない。 雪男が私服に着替えるのを横目に見ながら燐は志摩から借りた漫画を読み進めた。 「そういう兄さんは貰えたの?」 「お、お前には関係ねぇだろッ!」 「…ふーん?」 今度こそ嫌味かよ…!? さっと影が差したのを不思議に思った燐が顔を上げると、気付かぬうちに雪男がベッドの脇にまで来ていて。どこか不機嫌さを感じさせる雪男に燐が恐る恐る「どうしたんだ」と声をかければ、返事の代わりに手首掴まれそのままベッドに縫い付けられた。突然のことに思考回路が追い付かず、燐は目を白黒させた。 「じゃあ、渡せた?」 「…は?な、何の話をして…」 「とぼけないで!」 急に強いものへと変わった雪男の声に燐の肩がびくりと跳ねる。怒られる覚えはないし、そもそも渡せたとは一体雪男は何のことを言っているのだろうか。 燐が黙っていることに苛立ったのか、雪男は眉間に皺を寄せ辛そうな表情で「もういいよ」と吐き捨てた。するり、と燐の服の中に空いている手を忍ばせて胸の突起をぎゅっと抓む。ただの痛みしか感じさせないそれに燐は小さく悲鳴を上げて抵抗した。 「いきなり何すんだよッ!!」 なおもぐにぐにと胸に刺激を与え続ける雪男を睨みつけても全く意味はなく。それでも抵抗する手を休めずに動かしていればようやく顔を上げた雪男と目が合った。何も映していないような雪男の冷たい目に燐はぞくり、と言いようのない恐怖が背中を走る。どうしてこんなことになったんだ、と訴えかけても答えてくれる人間はいるはずもなくて。 そうこうしている間にも雪男は燐の服を剥ぎ取るように脱がせ、燐はあっという間に一糸纏わぬ姿にされてしまった。しかも脱がされたTシャツで腕をきつく縛られてしまい身動きが取れない。 いよいよ雪男が何を考えているのか分からなくなった燐はただ雪男が自分の体をまさぐる様子を見ることしかできなくなってしまって。 「ゆき…、…ぃッ、ぁああ!」 雪男は何も言わず、燐の胸の突起を痛いぐらいに吸い上げたり歯で転がしたりと好き勝手に燐の体を弄ぶ。いつもはしないようなしつこすぎる愛撫に燐の息は上がるものの、まるで別人に触られているような気がして不快感が募る。 「…ッ!?やっ…、ぁあ!!」 足を大きく開かされ、反応し始めていた自身を雪男が口に含みじゅぽじゅぽと音を立ててしゃぶられる。わざと羞恥心を煽るかのようなその行為に燐は顔を歪めた。 燐のモノを口淫する雪男は相変わらず黙って燐のイイところを攻め立てる。いきなりこんなことをされて吐精するなんて僅かに残った理性が許すわけがない。嫌だやめろとかぶりを振るものの、雪男に鈴口を吸われて燐は呆気なく絶頂を迎えてしまった。悔しさでぼんやりと視界がぼやける。 そんな燐などお構いなく、燐の精液を全てのみ込まず口に溜めた雪男はそれを右手に吐き出して燐の後孔に塗りつけ始めた。 「いい?覚えてて」 ぐちゅりと粘着質な音と共に燐のナカに雪男の指が入ってくる。達したばかりで敏感になっている燐は震えながらもだらしなく喘ぎ声を漏らし続けていて。 「兄さんを気持ち良くしてあげられるのは僕だけだから」 誰にも渡さない。と、独り言のように呟いた雪男の声に燐はぐっと歯を食いしばった。 「ばか…やろう……ッ!!」 渾身の力を振り絞って起き上り、雪男に頭突きを食らわせる。 驚いて見開かれた雪男の目には頭に小さく青い炎を灯して今にも泣き出しそうな燐が映っていた。 「お前は…、俺の、性欲処理のためだけに隣にいるのかよ…ッ!?」 言っていて悲しくなったのか、燐の青い瞳からぼろりと涙が零れる。雪男はようやく我に返ったのか「ごめん」と何度も繰り返して燐の頬を撫でた。 「渡せたか、とか…グスッ、意味、わかんねーこと言って、急に…こんな……」 「…うん、ごめんね兄さん」 「ゆき、じゃ、ないみたい、で…ヒック……も、これほどけよ…っ」 腕を拘束していたTシャツを解き、涙でぐしゃぐしゃになってしまった顔を拭ってやれば少し落ち着いたのか、燐はすんと静かに鼻をすすった。 「……ごめん、兄さん」 「…もう、謝んなくていい」 「…ッ、でも僕は、兄さんに好きな人がいるならいるってちゃんと言ってほしかっただけなんだ」 「…………何言ってんだ?」 …おかしい。怪訝な顔をして話を聞く燐に雪男はようやく二人の間に矛盾が生じていることに気が付いた。 「だ、だって兄さん…今日学校で勝呂君にチョコレート渡して…」 「………俺、勝呂にチョコなんて渡してねーぞ?」 「え、でも…ッ!」 燐は一生懸命今日の記憶を辿り、そして一つの仮説に辿り着く。 「……もしかして、緑色のラッピングをした…?」 「…ッ、」 どこをどう勘違いしたら自分が勝呂にチョコを渡しているように見えるのかは理解し難いが、ぐっと雪男が押し黙るのを見て燐は溜息を吐いた。 「あれは、勝呂が貰ったチョコを見せてもらってただけっつーの」 「……どういうこと?」 「…ラッピングの参考にと思って…」 「ラッピング…?」 話についていけないと言わんばかりに顔をしかめる雪男とは真逆に、燐はカァッと顔を赤らめて雪男が尻に敷いていた布団をふんだくる。それで手早く自分の裸体を覆って小さな声で「冷蔵庫」と呟いた。 「冷蔵庫…?」 「〜〜ッ!いいからさっさと見てこいよこのバカ雪男ッ!!」 燐に言われるがまま部屋を飛び出して雪男は食堂にある冷蔵庫を覗いた。沢山の食材が入っているそこを見渡せば、隠すようにひっそりと緑色のラッピングが綺麗に施された箱がしまわれていた。それは燐が勝呂へ渡したものだと勘違いしたチョコレートのラッピングに似ていて。けれど箱には燐のお世辞にも上手いとは言えない字で『雪男へ』と書かれていた。 全てを悟った雪男が走って部屋に戻るや否やすぐに燐を布団ごと抱きしめた。雪男の手には先程のチョコレートが握られていて、燐はほっと息を吐く。 「ごめん兄さん!…僕の勘違いだった…!」 「だからもう謝んなくていいって」 「まさか兄さんからチョコを貰えるとは思ってなかったから…」 「ッ、俺だってなぁ!ちゃんと好きな奴にはチョコぐらい渡すんだよ!」 「……うん、ありがとう」 凄く嬉しい。 抱きしめる腕に力を込めた雪男の肩口に燐は顔をぐりぐりと擦りつける。いつもの大好きな雪男に戻ってくれたような気がして。燐は雪男に見えないようにクスリと微笑んだ。 「ねぇ、兄さん」 「何だ?」 「……抱き直し、させてもらってもいい?」 おずおずと様子を窺うように出されたお誘いに燐はこくんと首を縦に振って答えた。 「ひっ…!ぃ、あ、ぁああ!」 「兄さん…気持ちいい?」 「う、ん!きも、ち、…ハァ、いー、からぁ…!ひゃ、ァア!!」 「じゃあここ、いっぱい擦ってあげるね」 ぐちゅんぐちゅんと結合された部分から聞こえる音に聴覚をも犯されているような錯覚を覚えた燐は夢中になって淫らに腰を振った。その度に燐の後孔からは吐き出された雪男の欲望が溢れてきて。雪男はこの光景だけでもイけそうだな、なんて思いに耽りながら燐のいいところをえぐるように突き上げる。 「あぁ、あッ、ま、また、イっちゃ…!」 「うん、いいよ。今日はいっぱいイかせてあげる…ッ、」「ぁああッ、―――ッ!!ん、―〜〜ッ!」 「にい、さ…、ちゅっ」 絶頂を迎える際に息も止まりそうな深いキスを交わす。何度目の絶頂かわからないが体力的にもう限界だと訴え始めた燐の髪を優しく梳いてやる。心地良さそうに目を細める燐に微笑むと、燐は雪男の首に腕を絡めてグイッと引き寄せた。 「ちゅっ」 「…珍しいね、兄さんからキスしてくれるなんて」 「兄ちゃんからの大出血サービスだ」 「それを言うなら出血大サービスね。大変なことになってるよ…」 「うっせーな!!誤解野郎は黙ってろ!」 「だからそれは本当にごめんって何度も…」 「あーあーあー!聞こえねー!」 すっかり普段の会話に戻った二人の間にクスクスと笑い声が広がる。 「…雪男」 「ん?」 「…好き。お前は?」 「僕は大好き。世界で一番兄さんを愛してる」 「………ブフォッ!!」 「ちょっ、そこ笑うとこ!?」 酷いよ兄さん!雪男は未だ燐のナカに埋まっている自身を緩く動かした。途端、びくりと燐の体が強張る。早く抜けよ!と怒る燐を無視してそのまま浅い抽挿を続けた。 「もう一回、ダメ?」 「ッ、も、もう無理だって言ってんだろ!?」 「ね、お願い」 602号室の明かりは消えど、月だけは重なった二つの幸せそうな影を優しく見守った。 ******** 5万打リクエスト企画 ゆきみ様リクエストの「雪男に作るはずのバレンタイン用のチョコを作っていたら雪男が勘違いして無理矢理やられちゃう話。結局は甘々(出来たら濃厚なエロ)」です 作ってる最中というか作った後のお話ですね…申し訳ないです^^; リテイクいつでも受け付けさせていただきます リクエストありがとうございました! 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