あまっ!






・相互記念
・雪燐




つ、疲れた…。ここ2週間ほど休みなしで任務や仕事を詰め込んだのが堪えたのか体が重い…凄く重い…。流石に無茶をしたという自覚はある。でもそれも今日で終わりだ。今日頑張ればようやく十分な睡眠時間を確保できる。
休み時間を知らせるチャイムが鳴り、授業中だからと張りつめていた雪男の気が緩む。次の授業は移動教室ではないと確認すれば余計に気が緩んで。メガネを外して眉間を揉み凝りをほぐす。


「奥村くーん!」

「これ、さっき家庭科の授業で作ったクッキーなんだけど」

「良かったら食べて食べて!」


未だに慣れることは無い黄色い声が雪男を囲む。いつもはなんとかしてやり過ごすのだが、今日ばかりは本当に勘弁していただきたい。急いでメガネをかけ直しみれば、沢山の甘い匂いのする紙袋を差し出されているという謎の状況に陥っていた。なに…何が起きてるの。


「もしかして奥村君甘いもの苦手?」

「え、いや…」


どちらかというと苦手な方なのかもしれないが、疲れている今の自分にとっては好都合だ。ありがたいの一言に尽きる。しかし以前と同様、一人を立てれば他が立たない。だからといってこんなに沢山のクッキーを全て貰ってしまえば食べきれないことは目に見えている。
どうすれば良いのか、と頭を悩ませていると聞き慣れた声が。


「雪男悪ィ!体操服貸してくれ!!」

「兄さん…!」


雪男を囲んでいる女子生徒からすれば燐の登場は非常に間が悪く、燐は雪男以外からの険悪な視線を全身に感じた。いくら頭が悪くてもわかる。タイミングを間違えた、と。


「え、えぇっと…やっぱ他の奴に借りようかなー…」

「ちょっ何で!?今貸すからちょっと待ってよ!」


教室の扉から消えようとしている燐を必死に引きとめた雪男は、自分の体操着を持って燐のもとへ走り寄る。その瞬間、雪男の背後から感じられる視線がより一層強くなり、燐は背中に冷や汗が伝うのを感じた。


「お前…教室を抜け出して大丈夫だったのかよ」

「いや、むしろ助かったよ」


はい、これ。僕は今日体育の授業がないからちゃんと持って帰ってきてね。
雪男から体操服を受け取った燐は難しく考えるのをやめたのか、礼を言ってそそくさと更衣室へ戻ろうとした。…が、首根っこを後ろから思いきり掴まれ、ぐえっと奇声を上げた。


「なっ、にすんだよコラッ!!」

「体操服貸してあげたんだからもうちょっとここにいて!」

「無茶言うな!俺はすぐに着替えなきゃいけねーんだよっ!!」

「僕はこの休み時間をなんとかしてやり過ごさなきゃいけないの!」

「支離滅裂なこと言ってんじゃねえええ!!」


つーか首根っこ掴むなよ!俺は猫じゃねーんだぞ!?
暴れる燐を押さえつけて雪男は自身が陥っている状況を説明した。だからお願い、助けてよ兄さん!わざと兄を立てる言い回しでそう言えば、腑に落ちていなかった燐の顔がぱっと明るくなった。


「しょ、しょーがねぇな!お前がそこまで言うならもう少しだけ一緒にいてやるよ」

「ありがとう、兄さん」


兄さんの扱いは簡単で助かる。雪男はほっと胸を撫で下ろした。


「でも甘いもの食べたかったんじゃねーの?疲れてんだろ?」


一気にお兄ちゃんスイッチが入ったのか、燐は雪男の頭を撫で始めた。疲れていて燐の手を払いのけるのも面倒な雪男はそれを受け入れる。


「うん、もういいや。どうせ食べきれないものを貰うぐらいなら、いっそのこと貰わない方がまだましかなと思って」

「雪男がそんな風にあしらうなんて珍しいな」

「今日だけだよ…疲れた」


寮に帰ってやることをやったらすぐに寝たい。と、やけくそ混じりの声で呟けば燐が「あっ」と声を漏らす。


「じゃあ俺がお前に甘いのやるよ」

「兄さん何か持ってるの?」

「おう、持ってる持ってる」


ズボンの両ポケットに突っこんだ手を「ん!」と握り締めたまま雪男に差し出す。どちらか選べ、ということなのだろう。


「じゃあ、右で」

「お前から見て右か?それとも俺から見て右?」

「…兄さんから見て右をちょうだい」


自分のわがままで残ってもらっているとはいえ、正直だんだん面倒くさくなってきた。雪男がそう思っているとは露知らぬ燐は、もったいぶった手つきで握られた手を開く。中には小さな飴玉がころんと転がっていた。


「あーあ、一発で当てやがったよこのメガネ」

「メガネ関係ねぇだろ」

「さっき志摩に貰った飴だけど雪男にやるよ」

「兄さんは食べないの?」

「俺はいいからお前にやるよ」


手を掴まれて強引に飴玉を握らされる。あまり舐める機会のないそれを何気なくじっと見つめていれば、じれったく思ったのだろう、燐が封を切って雪男の口に飴玉を放り込んだ。その際に燐の指が雪男の唇に触れる。


「美味いだろ?」

「…うん。イチゴ味?」

「だなー」


燐は包装紙を見ながら飴玉をつまんだ指をペロッと舐めた。そこで休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴る。燐の動きがぴたりと止まった。


「やっべえええ遅刻だ!!!」

「あ、鳴っちゃったね」

「鳴っちゃったね、じゃねえええよ!!俺カンペキ遅刻じゃねーか!!」

「ほらほら、兄さんの足ならまだ間に合うよ。行ってらっしゃい」

「こんの…っ!!覚えてろよ!!」


まるで三流悪役の捨て台詞だな。雪男は苦笑を浮かべながらもの凄い速さで走り去る燐の背中を見送り、自分も教室に戻った。


「……あまっ」





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相互リンク記念ということでしゅむおんのyou様に捧げます…!
リクエストは「雪燐」とのことでしたが、雪男(→?)燐っぽいお話に… (^^;
こんなものでもよければお納めください…!

リクエストありがとうございました!


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