無意識的欲求






「………最っ悪…」


視界をほのかに霞む程の凄い雨がザーザーとまるで嫌がらせをしているかの如く降っているのを、取引先の事務所から出てきた俺はただ呆然と見つめた。最近天気予報もろくに見れてないからなぁ。まぁ、だからと言ってあてにはしないけど。これってもしかして最近騒がれてるゲリラ豪雨というやつではないか?見た感じ今降りだしましたって感じじゃないなぁ。…まったく、予定が狂わされるのは嫌いだよ。

さて、どうしたものか。

ここから駅まで走ったとしてもこんな時間だ、終電はもう間に合わない。じゃあタクシーを呼ぶか。そうだそれがいい。携帯を取り出してタクシー会社に連絡をとる。


「すみません、タクシーを呼びたいのですが」

「申し訳ありませんが、今雨のせいですぐに車を出せないんですよ。少なくとも小1時間かかりますが、それでもよろしいでしょうか?」


小1時間か……うん、しょうがないよね。疲れてるし座って待つか。


「えぇ、大丈夫です。じゃあ場所を言いますね。場所は池袋の―――の―――です。はい、お願いします」


ピッと携帯を切ってその場に座り込み、ため息を吐く。…家に帰るのがめんどくさい。めんどくさいけど、仕事は今日ので区切りがついたので明日は時間を気にすることなく眠れる。流石にここ暫くの平均3時間睡眠は体に堪えたから早くベッドに入りたい。今俺の脳内を占めるのは睡眠欲、ただそれだけだ。


「……臨也?」


だからシズちゃんらしき声が聞こえてもぼーっとすることしか出来なかった。…眠たいなぁ。早くタクシー来ないかなぁ。雨の音うるさいなぁ…。


「…おい臨也、大丈夫か?」


んー…君もうるさいよ。用があるなら後にして。波江さんに言っといてくれたら後で会う時間をとるからさ…。

………あれ?俺、誰と話してるんだ…?

君は誰…?

ていうか今の俺、声出して話せてる…?


……もう、どうでもいいや。


そこで俺の意識はぷつりと切れた。切れる前に「臨也!」と俺を呼ぶシズちゃんの声が聞こえた気がしたけど、やっぱり俺の聞き間違いだと思う。
















目が覚めると見慣れない天井が目に入った。……というのはやっぱり嘘で、俺はこの部屋を知っている。ここはシズちゃんの家だ。あれ?何でシズちゃんの家で俺が寝てるわけ?妙に落ち着いた寝起きの頭で視線だけをさ迷わせていると、俺が起きたことに気づいたシズちゃんがペットボトルの水を持ってこちらへやって来た。


「………えっと、おはよう?」

「おはようじゃねぇよ手前、もう昼過ぎだぞ」


びっくりして時計を見たら既に針は昼の2時を過ぎていた。その事実に飛び起きてシズちゃんを睨む。


「何で起こしてくれなかったの!?」

「起こしても手前が死んだように眠ってたから起きなかったんだっつーの。つか、そもそも何で手前あんなとこで眠ってたんだ?」


不愉快だと顔に堂々と書いているかのような不機嫌丸出しのシズちゃんにペットボトルをぐいっと押し付けられるように渡された。夏とは言えど肌に当てられると流石に冷たい。

……あ、え?もしかして俺、昨日タクシーを呼んだ後その場で寝ちゃってたの?…どこぞの酔っぱらいじゃあるまいし、いくらなんでもそれはねぇ?アハハ!


……あり得る、かも。最悪だ。


「そりゃ……眠かったから?」

「疑問系じゃねぇか」

「だって俺、ここのところ1週間ぐらいは平均3時間睡眠だったんだって。昨日の取引で一区切りついたんだけど…って、そうだ俺今日は仕事ないじゃん。あーびっくりした」

「…珍しいな、手前が外で寝ちまうぐらい疲れるなんてよ」


うん、そうだよね。それは俺も思ったよ。もしシズちゃんが通らなかったら最悪の場合殺されてたかもしれないしね。あんまり認めたくないけど、相当注意力も警戒心も緩んでたんだなぁ。


「シズちゃんが通りかかってくれて助かったよ、ありがとう。ところで君は仕事どうしたの?今日は平日だからあるんじゃないの?」

「………休んだ」

「え?」

「……だから、休んだ」


シズちゃんが目を逸らすのは照れた時の癖だって知ってるから言えるんだけど、これはもしや



俺のため?



「手前、顔赤いぞ。熱でもあるんじゃねぇか?」

「っ!?な、ないからっ!大丈夫っ!」


しまった、顔が熱い。まともにシズちゃんの顔が見れなくなってしまった。あー…くっそー!シズちゃんの馬鹿!


「何か今、失礼なこと考えただろ」


野生の勘っ!?


「違うよ。……今日はお互い休みなんだから、シズちゃんと一緒にゆっくりしたいなぁって思ってたの」


嘘。これは今考えました。でも、本心です。さっきまでの気恥ずかしさが残っているのかいつものように笑えないことに言ってから気づき、気取られないように慌てて水を飲んで誤魔化す。と、あろうことかシズちゃんは俺の首筋に噛みついてきやがった。水を吹き出さなかった俺を誰か誉めてほしい。器官には入りそうになったけど。


「っ、ゴホッ……ハッ、…急に何すんの!?」

「手前のせいで仕事休んだんだからな、たっぷり責任とってもらわねぇと。なぁ?臨也君よぉ」


唇が触れるか触れないかぐらいに顔を近付けてニヤリと笑うコイツを誰か殺してくれ。じゃないと…空気的に俺が危ない。


「あり得ない…あり得ないよシズちゃん。俺にだって空気ぐらい読めるから分かるけど、この流れはもしかして…や、やだよ?今日はゆっくりしたいんだってば!」

「じゃあゆっくり動く」


下ネタかよ!


「……君ってホント最低だよね。そういうゆっくりじゃなくて…そう、のんびり!俺はのんびりしたいの!分かる?」

「あぁ?んなの終わった後にいくらでも出来んだろ。明日は土日なんだしよ」


そうか、君の中では俺は土日に仕事がない人確定なんだね。たしかに情報屋は休日なんて曖昧だけど、日々毎分毎秒更新されるナマモノを扱ってるんだから、おちおち休んでいられないんだよ。ていうか、顔近い!


「いや、土日は休みじゃないから。情報屋さんは忙しいんだって」

「俺も休んだんだから手前も休め」


…シズちゃんってこんなに俺様キャラだっけ…?惚れた弱味かな、俺様なシズちゃんすっごいカッコいいんですけど。でも悔しいから死んでも言ってやんない。……まぁでも、俺のために休んでくれたのが嬉しかったから今回だけ要求をのんであげるよ。


「……分かった。休むから、とりあえず顔離してくんない?シズちゃん近すぎ」

「断る」


ぐいっと押し倒されながらキスをされる。そういえばシズちゃんとこういう風に恋人みたいな事をするの久しぶりな気がする。



………あ、そっか。



「会いに来れなくてごめんね?」


シズちゃんの顔が超至近距離でみるみるうちに赤くなっていく。おぉ、図星だ。


「………忙しかったんだろ、別に気にしてねぇし」

「ん、次からは家に来てくれてもいいからね。俺もなるべく来るようにするし」


手持ち無沙汰な両腕をシズちゃんの首に回して今度は俺からキスをする。俺の骨が折れないように、でも力一杯抱き締めてくれるシズちゃんにかなり安心してしまって。


「ねぇ、シズちゃん。……シよ?」


不覚にも自滅発言をしてしまった俺は無意識のうちに相当シズちゃん不足だったようだ。










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5000ヒット企画
『シズちゃんの家にお泊まりする臨也の話』です
別人注意報です((遅い
知恵実様のみお持ち帰り可です

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