I wish





「なぁ、臨也」

「……………」

「おいこっち向けって」

「……………」

「おい」

「……………」

「……いい加減こっち向かねぇとその細っこい首へし折んぞ」

「へぇ?やってみなよ。俺との約束を忘れてたシズちゃんが逆ギレして俺の首をへし折ろうとしても俺は別に何も言わないよ。シズちゃんの人間性を疑うだけだからさ」


臨也のじっとりとした訴えるかのような視線が俺を突き刺す。それからまたふいっと顔を逸らして俺の枕に顔を埋めてしまった。なんつーか、その、恋人が俺の家のベッドの上で寝転がって俺の枕を抱きしめるように顔を埋めてたら…正直ちょっと、ヤバい。何がってそりゃ理性が。……まぁ、たしかに臨也との約束をすっぽかしちまった俺が悪いんだけどよ、だからってこんな生殺しはねぇよな?


「…どうせまたエロい事考えてるんでしょ。所詮シズちゃんなんて俺の体目当ての付き合いなんだぁ。最っ低」


目だけをこちらに向けて吐き捨てる様に言ったその言葉にぶつりと何かが切れた。


「流石にそれは聞き捨てならねぇなぁ…!俺は手前の事をそういうの目当てで付き合ってるだなんて一度も考えた事ねぇぞ!んな事冗談でも絶対言うな、胸糞悪ぃ」

「っ、……はいはい、分かったよ」


いくら何もそこまで言うこたぁねぇだろ、と内心イライラが募っていたら臨也の指がきゅっと俺の袖を掴む。聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声で「ちょっと嬉しかった」なんて言われたらもう理性なんてブチ切れたも同然で、俺は臨也を組み敷こうとベッドに足をかけた。


「で?シズちゃんはどうして俺との大事な約束すっぽかしたの?」


突然むくりと起き上がった臨也が確信犯の顔で俺をニヤニヤと見つめる。……俺のときめきを返せこの野郎…っ!


「……だから、急遽急ぎの取立てが入っちまったんだって。携帯で連絡を取ろうにも電源が切れちまってたから出来なかったし。…本当に悪ぃと思ってる」


臨也が俺の顔を覗き込んでじっと何かを考え始めた。…嫌な予感がする。


「ふーん…。まぁ、そういう事ならしょうがないから許してあげるよ。俺ってば心広いしね」


どこがだ、とツッコみかけた口をつぐむ。ここで下手にツッコんだらまた話がややこしくなっちまう。


「その代わり!明日一日俺の言う事を聞くこと。いい?」

「はぁ!?」

「嫌なら許さない。あと、このまますぐに帰る。明日はシズちゃん休みでしょ?問題ないと思うんだけど?」


こいつ、最初からその気でいたな。でも確かに明日は休みだし、これと言って問題はないが…素直に頷けないのは何でなんだろうな。


「…〜〜っ!…分かった、言う事聞いてやるよ。ただし『死んでくれ』の類は却下だからな」

「俺が大好きなシズちゃんにそんな事お願いするわけないじゃないか。失礼だなぁ」


やれやれとわざとらしいポーズをとるこいつを殴りてぇ…!でも立場上殴れねぇ…っ!


「あ、」


臨也がベッドサイドに置いてある目覚まし時計を見て小さく笑った。


「丁度いいや。じゃあシズちゃん、日付も変わったことだし最初のお願い聞いてね?」

「何だよ」

「今日、泊めてもらってもいいですか」


少し照れくさそうに笑う臨也が不覚にも可愛くて、思わず抱きしめる。それから額に軽くキスをすると「それは頼んでないよー」と臨也が茶化してくる。耳赤くしておいて何言ってんだか。


「…それから、明日は俺シズちゃんとデートしたいなぁ。この間行けなかった分、色んな所行ってみたい。場所は勿論シズちゃんが決めてね。で、夕飯はシズちゃんが作ってよ。この間作ってくれたオムライスがもう一回食べたい」

「ちゃんと聞いてやるからいっぺんに言うな。つーかお前、あのオムライスあんま美味くねぇって言ってたじゃねぇか。何で食いてぇんだよ」

「だって、シズちゃんがこっそり練習してたの知ってるし。どれぐらい成長したのか確かめたいじゃん?」


にこにこと笑う臨也にかぁっと顔が熱くなる。何でンな事知ってんだよ、コイツはっ!


「あれ?練習してたのって俺のためじゃないの?あ、これもお願いって事にするから答えなきゃ駄目だよ?」


最悪だ。こいつのこういう無駄に頭が切れるところが嫌いだ!しかも明らかに確信アリって顔していやがるしよぉ…!


「………そうだよ、悪ぃか」


無理だ、恥ずかしすぎて顔が見れねぇ…。


「ぜーんぜん?むしろ嬉しいよシズちゃん。そうだなぁ、あとは……明日考えよっと。今日はとりあえずここまでにしておくよ」

「え、ちょ、もう寝るのか?」

「明日は早起きするから早めに寝ないと。お楽しみは明日なんだから、ね?」


色を含んだ声でそう言われてしまえばもう何も言い返せない。…くっそぉ、何でコイツこんなに色気があんだよ…っ!眠れなくなったらどうすんだ!ベッド一つしかねぇんだぞ!?


「俺ね、実は最後のお願いはもう決めてあるんだ」


腹を括って電気を消して臨也の隣に入ると、もぞりと動いた臨也が耳元で小さく言った。


「それも、明日のお楽しみ。おやすみシズちゃん」

「……おう」


再びもぞりと動いた臨也はおそらく俺に背中を向けたのだろう。しばらくしてスースーと心地よさそうな寝息が聞こえてきた。……おい、どうしてくれるんだ。今夜は眠れそうにないぞ。





明日の最後のお願いは、




『ずっと俺の傍にいて』








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5000ヒット企画
リクエストありがとうございます
『臨也に優しくしようと頑張るシズちゃん』です
思いがけず糖分が多めになりました
周様のみお持ち帰り可です

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