からかって楽しんでないか?





「静雄、話があるんだ」


珍しく真剣な顔で門田から呼び出しを受けたのは1限目の始まる前だった。あの苦労性の門田の事だから何か深刻な悩みを抱えているのかもしれない。そう思った俺は二つ返事で今こうして昼休みに屋上へと足を運んで門田を待っているわけなんだが。

……もし、家庭の悩みとかだったらどうしよう。

俺なんかが相談相手でいいのか?……でも、門田があんなに真剣な顔をするぐらいの悩みなら俺なりに精一杯力になってやんねぇと。いつも世話になってるし、な。


「すまん、待ったか?」


一人で気合いを入れていると丁度いいタイミングで門田が屋上に入ってきた。


「いや、大丈夫だ。…それより、話って何だ?」


言ってから少し急かしてしまったかと思ったが、門田の方も早急に用件に入りたかったらしく「あぁ、」と言って神妙な面持ちで俺に向き直った。


「臨也の事なんだが…」

「…ノミ蟲がどうかしたのか?」

「本当はお前に言おうかどうか物凄く悩んだんだけどな、やっぱりこういう事はハッキリさせておかねぇとって思ってよ」


門田は2年連続で臨也と同じクラスだし、相当な悩みやストレスを抱えているんだろう。俺が門田だったらとっくに爆発しているだろうが、門田は俺と違ってそういう発散ができねぇからな。


「その……臨也とは、どこまでいったんだ?」

「……………………は?」

「静雄、隠さなくてもいいから正直に答えてくれ。どこまでいったんだ?Aか?Bか?それとも…C、か?」

「……え、いや、」


「隠す隠さないの問題以前にまずその質問がおかしいだろ!」と言いたいのにあまりの衝撃と混乱で言葉がつっかえて上手く出てこない。その言い草だとまるで俺と臨也の野郎が世間一般で言う『恋人同士(自分で言ってて鳥肌が立った)』みてぇじゃねぇか!気色悪ぃ!


「………そうか、やっぱりな。最近臨也が少し大人びて見えたのは気のせいじゃなかったんだな…変な質問をして悪かった」


どうやら固まってしまった俺を見て門田は変な方向へ勘違いしてしまっているようだ。ちょっと待てよ、まず第一に俺と臨也はそういうふわふわした関係じゃねぇぞ!?
会えば憎まれ口ばかり叩いてきやがるし(たまに『好きだ』とか言われたような気もするけど新手の嫌がらせか何かだろ)、人がバレンタインに女子から貰ったチョコレート勝手に焼却炉で燃やしちまうし(挙句の果てにそれを公言したためにおかげでまたクラスメイトとの距離がひらいてしまった)、帰りはよく下駄箱で待ち伏せていやがるし(そのせいで帰りはいつも強制的に追いかけっこをしなきゃならねぇ)、俺から見ても傍から見てもお互いに嫌い合ってるようにしか見えなかったと思うんだが……。

門田っていわゆるアレか?天然、ってやつなのか?


「門田…何を勘違いしてるのかしんねぇけど、俺と臨也はお前の思っているようなアブノーマルな関係なんかじゃなくて「いいんだ静雄、分かってる」

「……あぁ?」

「ちょっと寂しい気もするが、臨也がお前といて幸せなら俺はいいんだ。ただ俺が言いたいのは、きちんとけじめをつけろって事だ」



……やべぇ、門田が怖ぇ…っ!


「け、けじめって何だ」


場の空気に流されて変な事聞いちまった。……新羅とか来てくんねぇかな…来てくれるわけねぇよな、あえて門田に呼び出しくらった事言ってねぇもんな…。………いっそのことノミ蟲でもいいから、誰か……っ!


「男のけじめって言ったら”結婚”以外に何があるんだ?」


キリッとした至極真面目な顔で言われた。……何年前のけじめだよ、それ。


「………結婚…?何言ってんだ門田…大丈夫か…?」

「…そう、だよな。すまん間違えた。お前らはまだ未成年だから”婚約”だよな」

「……………………」


……わかった、なるほどこれは臨也の野郎の仕業だな。あいつが門田に変な事吹き込んでハメやがったんだそうだそうに違いねぇ!それか、これは悪い夢なんだ。いくら何でも現実味がなさすぎる!俺の知ってる門田はもっとこう、常識があって冷静な奴だったはずだ!目を覚ませ俺ぇぇえぇえ!



ギィ…



静まり返った空気を裂くように屋上の扉が開いて臨也がひょっこり顔を出した。


「あ、シズちゃん!…って、アレ?ドタチンもいる。どうしたの?珍しい組み合わせじゃん」


たしかにさっき臨也でもいいから助けてくれとは思ったが…よりによってこのタイミングかよ…!ちくしょう、なんかよく分かんねぇけど顔が熱くなってきやがった…っ!


「静雄、俺が言いたいのはそれだけだから上手くやれよ。…じゃあな」


何を思ったか入れ違いに屋上から姿を消す門田の背中を思考回路が真っ白になった俺が見送っていたら、臨也にブレザーの袖をぐいぐいと引っ張られた。


「ねぇねぇ、ドタチンと何話してたの?」

「………さあ?」

「…なんかシズちゃんぼんやりしてない?俺の話ちゃんと聞いてる?」

「………なあ、臨也。仮に…すっげぇ仮に、もしもの話だけどよぉ、」

「前置き長いよ、何?」

「…………………俺達が付き合ってるように見えて、尚且つ男としてのけじめをつけるために結婚しろなんて言われたら……手前、どうする?」

「……………」


返事が返ってこないことに慌てて弁解をするべく臨也の顔を見れば、耳まで赤くしてこちらをぽかんと見上げている臨也がいた。予想外の反応に思わず心臓がドキリと脈打つ。


「なっ、手前っ、何顔赤くしてやがんだよ!?」

「ば、馬鹿じゃないの!?赤くなんてなってないし、第一それ、もしもの話でしょ!?そんな事シズちゃんから言われたとしても、俺、全然嬉しくなんかないし!むしろ気持ち悪いし……ていうか、まさかドタチンと話してた内容ってそれ!?ありえないんだけど!馬っ鹿じゃない!?」


バッと皺になるほど掴まれていた袖を離して逃げるように走り去る臨也を反射的に追いかけて捕まえる。……は?何で捕まえてんだよ俺!?


「何で捕まえんの!?」

「んなの俺が聞きてぇよ!!」

「意味分かんない!離してよ!」

「俺だって意味分かんねぇけど勝手に手が動いたんだからしょうがねぇだろ!!」


はぁ、はぁ、としばらくお互いの息遣いだけが屋上に響いた。…何やってんだ、俺達。


「………俺、シズちゃんのそういう理屈じゃ説明できないとこ…大嫌い」

「奇遇だな。俺も手前のそういう理屈っぽいとこが大嫌いだ」


びくり、と臨也の細い肩が揺れた気がした。とにかくこちらを向かせようとして腕を引っ張れば、よろめいた臨也がそのままこちらへ倒れこんできて、そのまま俺が臨也を受け止める形で2人して後ろへ倒れてしまった。

……ほんと、何やってんだ、俺達。


「……………鈍感」

「あ゛ぁ?何か言ったか?」


臨也の顔が俺の胸に埋まっていて表情を読み取る事ができない。


「別に。…………ところでさっき言ってたもしもの話の続きだけどさ、俺さっきテンパっててその話の感想ちゃんと言えてなかったじゃん。だから、今言うよ」

「………んなもん、言わなくても「俺が言いたいの!」


突然の大きな声に驚いて目が丸くなる。こいつのこんな必死な顔見るの初めてかもしんねぇ…。


「…………何だよ」


ぎゅっとブレザーを掴んだ臨也の手に力が篭るのが布越しに分かる。


「…………俺は、仮に、もしも、奇跡的にでもそういう風に見られたっていう事は、もしかしたら気付かないうちにそれなりの事をしたのかもしれないから………責任とって、けじめつけるべきだと思う……あくまでも仮の話だけど」

「……………………」

「な、何だよ!先に話振ってきたのそっちじゃん!!あーやだやだ、これだから鈍感な単細胞は嫌いなんだよ!………シズちゃん?」


突然黙り込んだ俺を不審に思った臨也が覗き込んでくる。


「いや、……手前も、人の事からかったりせずにそういう事言ってればちったぁ可愛げがあるのになって思って」

「………大きなお世話だよ!!」


仕返しとばかりにドンと胸を叩かれたが、怒る気になれなかったのは臨也の耳が未だに赤かったせいか。それとも、あまりにも現実味がなさすぎたせいなのか。……どちらにしろ、その後心配した新羅が探しに来てくれるまでお互い一言も交わさないまま、俺はただただ心臓の音が臨也に聞こていねぇかどうかということばかり気にしていた。








(………ちょっと待て、まさかコレ自体からかわれてるってこたぁねぇよな…?)




(まさかからかってるように見えてない、よね…?……ちゃんとした俺の本心なんだからな、馬鹿シズ)











「あれ?門田君こんなとこにいたんだ。今静雄と臨也を探してるとこなんだけど君知らないかい?」

「あぁ、あの二人か…。……なあ、岸谷。娘を嫁にやる父親の気持ちってこういう感じなんだろうな、きっと…」

「………え、何があったんだい?門田君」





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「娘さんを俺に下さい!」に提出させていただいたものです
お題から見事に脱線しているような気が……すみません…
多分この後シズちゃんはイザイザに惚れます((わお

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