やっぱり君はツンデレ




もしかして君はツンデレの続きです



俺は今、ぐつぐつと良い匂いを漂わせるカレーを煮詰めている。勿論レトルトなんてものは使っていない。ちゃんと俺が吟味したスパイスから作られた本格派カレーだ。


…あれ?俺何でこんなに気合い入れちゃってるわけww


正直めんどくさいし、妙に浮かれてる自分が気持ち悪い。え、ほんと何でこんなに頑張ちゃってるの俺?適当に昨日の残りのミネストローネでスープパスタでも作っちゃえばいいじゃん。何でわざわざカレーとか作っちゃってるわけ?

…別に、シズちゃんが子供舌だからだとか全然関係ないんだからね。


俺はカレーをかき混ぜる手を止めて溜め息を吐いた。












「たまには手前も作れ」


んで、俺に食わせろ。と言われたのが丁度1週間前の金曜日。シズちゃんが作ってくれた特製ハヤシライスを食べていた時だった。何度か押し掛けて(シズちゃん曰く不法侵入)いるうちに合鍵を貰った俺は、その日もシズちゃんの手作り料理を食べに来ていた。シズちゃんに内緒で作って持っていた鍵は捨てておいたのは秘密ね。

それから…あぁ、そうそう。それからはたしか俺の持ち込んだチューハイ(わざわざコンビニまで買いに行った)を飲んでいたんだった。で、お互いにふわふわと気分が良くなってきて、…うん、そうだったそうだった。それで俺がシズちゃんの料理をいつもみたいに褒めていたら


「手前も作れるんじゃねぇのかよ」


なんて言ってきたから


「作れるよ?シズちゃんより上手いかもね。いや、絶対上手い」


って言い返したら、冒頭の発言だ。別に料理を作ることに対して抵抗はないし、人並みには作れる自信があったから断る理由はなかった。だから二つ返事で引き受けて、1週間後の今日、俺の家にシズちゃんが食べに来るということになったのだ。



…ぶっちゃけ、チャンスだ。それも、最初で最後の。だって、シズちゃんの手料理だって俺から行動を起こさなければ食べることは一生なかったと思う。

そういえば前に運び屋が『静雄は手料理とかそういう気持ちのこもったものに喜ぶと思うぞ』って言ってたな。



「…………」


シズちゃん…喜んでくれる、かな…?



ピンポーン



「っ!」


チャイムが鳴って俺の心臓は自分でもビックリするぐらい跳ねた。
急いで火を止めてエントランスのロックを解除しにパタパタと小走りで駆けていく。モニターには仕事帰りの疲れたシズちゃんが映っていた。


「まさか本当に来るとは…」


誘ったのは他でもない自分なのだけれども。つい数ヶ月前まではこんな風に喧嘩以外の目的で俺の部屋に来ることなんて考えられなかったことなのに。それが、今、目の前で起きている。もうすぐシズちゃんが俺の料理を食べに来るのだ。


「……なんか、恥ずかしいなこれ…」


家でご飯作って待ってるとか、なんか…なんか…。

一人悶々として誰も映っていないモニターを睨んでいると、玄関の方からガチャガチャと鍵を開ける音が聞こえてきた。ハッとして出迎えに足を運べば、あらかじめ渡しておいた鍵を使ってシズちゃんが入ってきたところだった。


「やぁシズちゃん、おかえり」


ドサリ

シズちゃんは持っていたハンドバッグを落として固まってしまった。嫌だなぁ、冗談なのに。そう言って笑うとシズちゃんが小さな声で「ただいま、」なんて言うから、俺まで変な気分になってしまった。うーん…調子狂うなぁ。

とりあえずシズちゃんをテーブルに着かせて出来立てのカレーを盛り付ける。シズちゃんはいっぱい食べるだろうから大盛り。こんなに食べるくせに細いのが疑問だ。


「はい、どうぞー」

「……美味そうだな」


まじまじとカレーを見て驚くシズちゃんに早く食べるように催促すると、行儀良く「いただきます」と言ってから素直に口に運んだ。…へぇ、疑わないんだ。少し前まで俺が与えるものには毒か何か入ってるんじゃないかって疑うのが当たり前だったというのに。


「……変なの」

「あ?」

「何でもないよ。美味しい?」

「あぁ、凄ぇ美味い」

「そっか。良かったー」


それからシズちゃんは話すことを忘れたかのようにカレーを完食して、おかわりまでしていた。作った側としては実に喜ばしいことだし、おかげさまで鍋の中は綺麗に空っぽだ。多めに作っておいて良かった。
シズちゃんが水を飲み干して一息入れたところで声をかける。


「ね?俺だってちゃんと料理ぐらい出来るんだからね?」

「……………」

「…おーい、だんまりは無いんじゃない?」


洗い物はシズちゃん担当ね。と、軽口をたたけば「あのよ」と何やら言いよどんでいるシズちゃん。


「何かな?」

「手前、俺なんかより断然料理上手ぇじゃねぇか」

「当たり前じゃないか。俺は素敵で無敵な情報屋さんだよ?」

「……じゃあよ、」



もう俺んとこに食いに来る必要無ぇだろ。



「………え、」


さっきまで幸せそうにカレーを頬張っていた顔とはうって変わって、真剣な顔のシズちゃんが俺をじっと見据えている。サングラスを外しているからこそ分かる、吸い込まれそうな鳶色の目が凄く綺麗だ。……じゃなくて、シズちゃんは今何て言ったんだ?『もう俺んとこに食いに来る必要無ぇだろ』って、何?



何、それ。

前に言ったこと覚えてないとか、無いよね?

俺は、シズちゃんの作る料理が好きなのに。

もう…家に来るなって事……?


我に返ったのは、何か生暖かいものがぼろぼろと頬を伝って落ちてきた時だった。目の前に座っていたシズちゃんがぎょっとして駆け寄ってくる。


「おい、急にどうした!?目に何か入ったのか?」

「…こんの単細胞馬鹿がっ!」


出来る限りの力で思いっきり頭を叩いて、衝撃で下を向いた頭をそのままぎゅっと抱え込む。シズちゃんはパニックを起こしているのか、されるがまま俺の腕の中で大人しくしている。


「前にも言ったように、俺はシズちゃんの作る料理が好きなの!だから、来るなって言われても押しかけるから」

「……………」

「ていうか、俺の手料理食べたんだから拒否権なんて無いよ。……俺、誰かのために料理するって初めてだったんだからね。責任とってよ」


我ながらなんと支離滅裂な発言だろうと言い終わってから後悔する。落ち着け、俺。こんなの俺らしくないぞ。
けれどシズちゃんは何も言わずに下を向いたままで。居たたまれなくなった俺が更に力を込めて頭を抱きしめると、シズちゃんの手がそろそろと背中に回された。


「え、ちょっ、何?」

「話は最後まで聞け、コラ!」

「わっ、!」


がたんと椅子ごと床に押し倒されて、俺は頭を強打した。物凄く痛い。おかげで落ち着きかけていた心臓が再びどくんどくんとせわしなく動き始めた。シズちゃんの顔が物凄く近い。


「俺は、もう俺んとこに食いに来る必要無ぇって言ったんだ」

「…だからそれは、もう君の家に俺は来るないうことでしょ」

「……手前って実は馬鹿だったんだな」

「ちょっ、何言っt…っ!」


ゴツン、と額に鈍い痛みを感じたかと思えば、シズちゃんが俺の額に自分の額をくっつけていた。痛いけど、何も言えなかった。シズちゃんの吐く息が顔にかかってくすぐったい。


「俺は、手前の作る飯が好きだ」

「……どうも…?」

「だから今度は俺が手前の家に通うことにする」

「…うん、………はぁ!?」


目を見開いて素っ頓狂な声を上げれば、シズちゃんの顔はみるみる赤くなっていった。何それ何それ。どういうこと!?


「手前がどうしてもって言うならたまに俺も作ってやるからよ。だから、まぁその…あれだ。飯作って待っててくれる奴がいるって嬉しいじゃねぇか」

「……………」

「俺のためだけに飯作って、大人しく待ってろ。んで、帰ってきたら」

「おかえり、って言えって?」

「……あぁ」


流石に恥ずかしくなったのか、シズちゃんは俺から離れて倒れていた椅子を元に戻した。それから唖然としたままの俺に手を差し出してこうのたまった。


「勘違いすんなよ!別に、手前におかえりって言ってもらえてうっかりときめいたとかそんなんじゃねぇんだからな!」

「………はいはい」


耳まで真っ赤にしておいて何言ってんだか。人のことを言えた立場ではないけれど、涙まで流した俺が馬鹿馬鹿しく思えてきた。…しょうがないから今回はそういうことにしておいてあげようじゃないか。



でもそれって俺がシズちゃんの家で待ってても同じことだよね、とは言わないであげた。俺ってば超優しい。






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2万打ヒット企画
茉莉様リクエストの『もしかして君はツンデレの続きで今度は臨也がシズちゃんに手料理を振舞う話で甘々』です
gdgdなのは仕様です…すみませんorz
ガラスの靴〜を気に入っていただけたそうで^^
わわわ!嬉しいです!ありがとうございます!
マイペースに更新していきたいと思いますので、生暖かく見守っていただけると嬉しいです(^^;
リテイクいつでも受け付けます!
リクエストありがとうございました

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