器用貧乏とは誰が言った ・新羅視点です ・4人は同じクラスです ・ギャグ色強いです 何で僕っていつもこういう役回りなんだろうね。ね?セルティ? 次の授業は古典か。教室に貼られた時間割りを確認し、ごそごそと机の中を探ってノートと教科書を取り出す。 僕は文系の教科は好きだけどあまり得意ではない。四字熟語を頻繁に使い出したのは愛するセルティが早く日本語に慣れるためだったからであって、二度も言うが僕は別段得意なわけではない。特に古典の時間はノートをとっている間に眠くなってしまうから不思議だ。 「「新羅!!」」 バタバタと騒がしい足音が二人分近付いてきたかと思えば、あっという間に静雄君と折原君に机を囲まれてしまった。 どうしよう、嫌な予感しかしない。 クラスメイト達も僕と同じ予感を感知したのか、目を合わせてくれなくなってしまった。まさに四面楚歌とはこの状況下のことを指すのではないだろうか。最悪じゃないか。 「お前ら、昼休みは次の時間だぞ。そんなに騒ぐと余計に腹が減るからやめておけ」 クラス委員長の門田君が助け舟を出してくれたみたいだけど、どこかズレている気がする。何故だろう、僕は時々門田君が分からなくなるよ。 「あ、ドタチン!昨日の分の古典のノート見せて!」 「別に構わないが…」 「臨也手前いい加減にしろっつーの!ノートなら俺のやつを見せてやるって言ってんだろーが!」 「よくもそんな素敵な提案が思いつけるね!シズちゃんのノートは嫌だよ!字が汚そう」 「見てもいねぇくせになんでそんなことが言えんだよ!」 「シズちゃんのことで俺が知らないことがあるとでも思ってんの!?」 「っ!」 なんということだ。古典のノートを貸すか貸さないかの話であったはずなのに、一瞬臨也の口から惚気が聞こえてきた気がする。そうやって無自覚に話すからほら、静雄君の顔が赤くなっちゃったじゃないか。ホント、何しに来たの君達。しかもいつの間にか僕のことは完全にアウェイだしね。 「……ちょっと、何で赤くなってるわけ」 「んなのどうだっていいだろ!」 怪訝そうな目で折原君が静雄君を見ているけど、今のは君が悪いと思う。どう考えたって静雄君は折原君が自分以外の人間に頼る姿を見たくないっていう嫉妬心丸出しなのに。人間が好きだとか言っておきながら、自分への好意には全く気付かないんだから。面倒くさいことこの上ない。 「…あぁ、そうだ。この間臨也が食いたいって言ってたマカロン作ってきたぞ」 「え!本当?」 先程までとはうって変わってぱぁっと顔を綻ばせた折原君は、門田君が鞄から取り出したマカロン入りの袋を受け取った。それからすぐに袋の中から一つ取り出して口の中へ運ぶ。見た感じとても手作りとは思えないぐらい完成度の高いマカロンだった。流石門田君。臨也のせいで日に日にお菓子作りの腕が上達しているよ!…でも気をつけて。 静雄君がさっきから君を射殺さんかとばかりの視線を投げつけてるから! 「わ、美味しい!流石ドタチン!」 「そうか。なら良かった」 傍から見ればまるで親子のようにも見える二人だが、そこに静雄君が加わってしまえば話は別だ。状況は一変してどろどろの三角関係のように見えなくもない。門田君は最近特に臨也を(これは前に本人が言っていたのだけれど)娘のように思い始めているらしいから、そんなに敵意をむき出しにしなくても大丈夫なのに。あぁ、だけどこれがもし僕の愛するセルティと僕だったとしたら君の気持ちは分からなくはないよ。 「おい、臨也」 「言っとくけどあげないからね。これは俺がドタチンに頼んだものなんだから」 「…………」 まずい。静雄君の顔が段々と険しくなってきた。大体、折原君も何でここまで嫉妬されてるのに気付かないかなぁ!今日なんていつも以上に嫉妬心丸出しなのに!門田君も悪気はないとはいえ、これはまずいよ。せめて静雄君がいないところで渡せばいいものの…!…でもそれだと逆に誤解されそうだな。あぁ!セルティ!僕はどうしたらいいんだろう! 「…シズちゃんはさぁ、甘いものなら何でもかんでも食べようとするよね。そのうち糖尿病で死ぬんじゃない?」 「……ぶっ殺されてぇのか手前は!」 あーあー、もう!何でそうなるかなぁ!普段は頭が良くて勘も異常に冴えているはずなのに、折原君って静雄君絡みのこととなるとてんで鈍くなるよね。 「んなわけないでしょ。シズちゃんって人から貰ったものとか疑わずに食べるよね。…しかも、俺以外の人間から貰ったものをさ」 「っ、それは……手前からのものなんて毒が入ってるかもしんねぇだろうが」 嘘だ。絶対照れくさいんだ。 「うわ、酷い!シズちゃんって俺のこと全然信用してないよね、知ってたけど!ドタチンからも何か言ってやってよ」 しかもここで門田君に振るんだ! 「静雄」 「……んだよ」 「臨也はお前に食べてもらいたくて一生懸命練習してたんだぞ。さっき臨也がお前の鞄にこっそり入れてたプリンも俺が作り方を教えたんだから毒は入ってねぇし、安心して食ってやれ」 「「………え?」」 図らずとも静雄君とハモってしまった。 「ちょ…っ!ドタチンなんでバラすかなぁ!?」 「え、嘘、本当なの!?」 「臨也……手前…」 「う、嘘に決まってんじゃんっ!馬鹿じゃないのシズちゃん!馬鹿だろ!馬鹿!」 折原君が完全にパニックを起こしてる。火が出そうなぐらい顔は真っ赤だし、目はせわしなく泳ぎまくっている。これが最近巷を騒がせている情報屋の折原臨也だとはにわかに信じがたい。 静雄君が確かめようと自分の鞄を取りに行くと、折原君は先回りするかのようにナイフを投げて鞄を切り裂いた。すると静雄君の教科書や私物が鞄からばらばらと床に落ちて、その中に一つだけシンプルにラッピングされた紙袋が出てきた。 墓穴、掘っちゃったね…折原君。 「臨也、これ…」 目の前で鞄を八つ裂きにされたというのに怒る気配が全く感じられない静雄君が紙袋を拾う。顔を真っ赤にした折原君がそれを取り返そうとするが、ひょいひょいと背の高い静雄君にかわされてしまっている。よく見れば袋には可愛らしい小さなハートのシールが貼られていた。 「ち、違うから!シズちゃんが女子から貰ったものだと勘違いしてぬか喜びする姿を見たかったからに決まってるじゃないか!俺がそれ以外に君にお菓子を作る理由なんて存在しないよ!」 「え、でも臨也お前、静雄が気に入るかどうかって何度も作り直しt「ドタチンの馬鹿ぁぁあぁあぁぁあ!!」 折原君は耐え切れなくなったのか、教室から飛び出していってしまった。…何というか、今のは君に同情するよ。 静雄君はようやく我に帰ったのか、心底焦った様子で「臨也!」と叫んで後を追いかけていってしまった。何だかんだ言って、結局君達ってば相思相愛じゃないか。今回ばかりは門田君に感謝を、 「…ふぅ、ようやく上手くいったか」 やれやれといった様子で首を鳴らして僕の机の上に座った門田君は、残ったマカロンを一つ僕に寄こした。…あれ、何だろうこの違和感は。 「…まさかとは思うけど門田君、君…」 「勿論わざとに決まってるだろ」 そう言って自身もマカロンを一つ頬張る。美味いな、という言葉に釣られて僕も一口かじる。…うん、たしかに美味しい。 「なんだかどっと疲れたよ…」 「岸谷は気付いてると思ってたけどな」 「門田君、君ってば器用だね」 「それはこれのことか?それとも、」 「両方だよ」 ははは、としてやったりの顔でマカロンをもう一つ口へ放り込んだ門田君を横目に僕は大きな溜め息を吐いた。 無駄に心配して損した。 ******** 2万打ヒット企画 あさき様リクエストの『自分に向けられる好意には鈍感な臨也と普段表には出ないけど嫉妬深いシズちゃんでほのぼの甘』です 普段表には出ないどころか丸出しになってしまいました…(^^; 嫉妬話は大好物なので楽しく書かせていただきました! 門田さんについては完全に私の趣味ですすいません^p^ リテイクいつでも受け付けます! リクエストありがとうございました [*前] | [次#] ← |