奇想天外



奇奇怪怪の続きです



結局あの後様子を見に来た新羅とドタチンに救出された俺は、どこかぼんやりしたままのシズちゃんと共に帰路についた。
















「…………」

「…………」


気まずい。物凄く気まずい。

さっきから一言も喋らないシズちゃんは俺の前をスタスタと歩いている。新羅やドタチンと別れるまではまだなんとかやり過ごせたものの、こうも二人きりになると話すことがなくて困る。ていうか、それ以前にさっきのことで頭がいっぱいで口が上手く動いてくれなかった。
俺らしくないなあ、と一人ごちてみる。顔を上げれば頭をくしゃくしゃと掻いているシズちゃんの背中がある。金髪が夕日の光を反射してキラキラと光っているのが少し綺麗だ。



そう、俺はついさっきこの男にキスをされたのだ。

しかも、そのせいでこの先気付かなくても良かった感情まで気付かされてしまった。



(……ムカつく)
…何で、何も話さないの。いつもなら君は俺に対してすぐ何か悪態を吐くだろ。ムカつく。……俺もそうだけど。



「………なぁ、」


びくっ


突然声をかけられて肩が跳ねる。何これ。何ビビってんの俺。たかがシズちゃんじゃん。普通に、いつも通りに話せばいいんだから。


「何かなシズちゃん?」


立ち止まってもこちらに背を向けたままのシズちゃんは「あー…」とか「だから…」とか一人で何かを呟いている。人のこと呼んでおいてだんまりはないんじゃない?と、一気に距離を縮めて肩を叩こうとする。


「あっ、あのよ!」

「え、ちょっ、」


同時にシズちゃんが振り向いて一気に顔が近くなる。刹那、真っ赤になった顔を互いに晒す羽目になってしまった。

ばくんばくんと心臓が早くなって相手に聞こえそうだと錯覚してしまう。


「悪ぃ!」


肩を掴んで引き離される。シズちゃんにしては加減をしている方なのかもしれないが、掴まれた箇所が少し痛い。


「……さっきのこと、」


びくっ


「………やっぱ、夢じゃねぇんだよな」


はぁ、と深く息を吐かれて心臓がズキズキと痛む。シズちゃんはそのまま下を向いてしまって表情が伺えない。何考えてんだよこの馬鹿。大体、酔っていた君はともかく俺はもろに素面だったんだからね。記憶はバッチリなんだから。…忘れろ、なんて絶対に言わせないんだから。


じゃないと、俺ばっかりが好きだなんてずるいじゃないか。馬鹿シズめ。


「……その…さっきのことは本当に悪ぃと思ってる。だから、忘れてくr「ふざけんな!!」


だから叫んでやった。平等に、全ての人間に対して平等に愛を注いできた俺が君という個人に対して不平等な愛を注いでやるんだ。こっちはキスまでされてるんだぞ。別に減るものではないしファーストキスというわけでもないけど、やり逃げされたとなれば良い気分ではない。しかも散々振り回されて寝オチまでされたのだ。今更「はいそうですか」なんて言うと思うなよ。
肩にかけられた手を掴んで逆に肩に手をかける。俺の声に驚いたシズちゃんの手はあっさりと離れて俺にされるがままになっていた。


「無かったことになんて絶対してやらないからな!君のせいで俺はこんな面倒な感情に気付いてしまったんだから!だから、絶対、忘れろなんて言うな!」

「……臨也、」


慣れない大声で叫んだため、はぁはぁと息が乱れる。なるほどたしかにこの体勢は相手に顔を見られずに済む。顔がカッと熱くなっていて、今はとてもじゃないがシズちゃんに見せられるような顔ではない。

言ってしまったことはしょうがないとはいえ…これは恥ずかしい。


「酒の勢いって嫌なんだよな、俺。信じてもらえねぇかもしれねぇじゃねぇか。…でもよ、手前が酒なんか盛ってきやがるからつい便乗しちまった」

「…何それ。じゃあ最初から気付いてたんだ。趣味悪いよシズちゃん」

「一口飲めば酒かどうかなんてすぐに分かるっつーの。馬鹿か手前は」


まさかここで馬鹿呼ばわりされるとは思っていなかった俺はつい反射的に顔を上げてしまった。

そこには真剣なシズちゃんの顔があった。


「でも今はよ、酔いも冷めた。完全に素面だ。だからさっきの言葉は取り消す」

「だから、忘れるなんて「いいから最後まで聞け」


今まで聞いたことが無いシズちゃんの真面目な声に開いた口が閉じてしまう。



…あ、駄目だ、このままじゃ、



「さっきの言葉は取り消してもう一回言い直す」


目頭が熱くなって鼻の奥がツンとする。待ってよシズちゃん、このままじゃ…


「……臨也、好きだ」

「……ふ、ぅ…っ…」


泣いてしまいそうだ。


「ちょっ、何で手前が泣くんだよ!?」

「し、知らな…っく、ぅ…」


壊れてしまったとばかり思っていた俺の涙腺は今度こそ本当におかしくなってしまったらしく、ぼろぼろと溢れてきた涙は止まらなくなってしまった。慌てたシズちゃんが何故か抱きしめてくれたおかげで泣き顔は見られずに済んだが、このままでは腑に落ちない。

なんとか呼吸を整えて深呼吸をする。


「シズちゃん、」


それからシズちゃんの耳元に口を近づけて。


「一度しか言わないからよーく聞いときなよ」


大きく息を吸う。




「大好きだぁぁぁああぁぁあ!!!!!」




大声で叫んでやった。どうだ、まいったか。


大好きだざまぁみろ。







********



2万打ヒット企画
亜衣様リクエスト『奇奇怪怪の続きで、酔ってる間の記憶が残っていて悶々とするシズちゃんと気持ちを切り出せない臨也の2人で最終的にくっつく』です
凄く書きやすくて楽しかったです!^^
その上「焦げそうだ」の展開がお好きだと言っていただけて物凄く嬉しかったです!
いつか続きも書いてみたいです
リテイクいつでも受け付けます!
リクエストありがとうございました

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