悪くない




「……あなたまさか花屋でも始める気なの?それ、もう飾るところ無いわよ」

「………しょうがないじゃん。つい買ってきちゃうんだから」


かさり、となるべく丁寧に持っていた花束をデスクに置く。波江に言われた通り、今の俺の事務所は色とりどりの花で埋め尽くされている。勘違いされると困るから先に言っておくけど、俺の職業は素敵で無敵な情報屋さんであって、決してお花屋さんではないしなるつもりもない。だからと言って別段花が好きだというわけでもない。では、何故こんな風に週2日ペースで花を購入してくるのか。理由はいたって単純だ。


「今日は何?その噂の店員にガーベラでも勧められたの?」


心底どうでもよさそうな顔でガーベラの花束を抱える波江を合図に、俺は身を乗り出して口を開いた。


「そうなんだよ!もうシズちゃんってばめちゃくちゃピュアでさぁ!あ、シズちゃんっていうのは彼の下の名前の静雄からとって俺がつけたんだぁ。で!そのシズちゃんが今日も最初は無愛想だったんだけど、俺が『オススメは何ですか?』って聞いたらちょっと嬉しそうに『…今日は綺麗なガーベラが揃ってますよ』って教えてくれてさぁ!だいたいシズちゃんは俺の萌えのツボにクリティカルヒットすぎるんだよね!長身で、スラッとしてて、金髪で、稀に見るイケメンで、純情っぽくて、一見似合わなさそうなのに花屋なんかでバイトしちゃってて、エプロンがめちゃめちゃ似合ってて、近付くとほんのり煙草の匂いがして…って、あぁもうどうしよう!思い出すだけで萌えられるんだけど!ギャップ萌え?シズちゃんってまさかギャップ萌えを狙ってる!?」


そうだ!新羅に報告しなきゃ!と携帯を開いて腐友の新羅に電話をかける。
……あぁ、そうだ。そういえば最近新羅に彼女が出来たんだった。新羅の奴め、彼女に夢中だからなぁ………やっぱリア充に教えるのはやめよう。どさくさに紛れて彼女自慢とかされたら萎えるし。リア充なんて内蔵から爆発すればいいのに(笑)


「あら、かけないの?」

「うん…まあね、気が変わっちゃった。ところで波江さん、君はドライフラワーを作れるかい?」

「…まさかここにある花全部ドライフラワーにしろって言うんじゃないでしょうね」

「察しが良くて助かるよ。じゃ、俺はこれから部屋にこもるから後よろしく〜」


心底面倒臭そう且つ迷惑そうな波江さんにガーベラの花束を押し付けて、俺は自室へと足を運んだ。実を言うと、あの花屋に行く前日はシズちゃんに会えるのが楽しみすぎてあまり眠れていないのだ。……振り回されてるなぁ、俺。楽しいからいいけどね。
ボスンとベッドに倒れ込んで枕に顔を擦り付ける。駄目だ、ニヤニヤが止まらない。波江には話してなかったが、今日のシズちゃん報告にはまだ続きがあるのだ。

ごそごそとポケットを探って目当てのものを取り出す。それは、四つ葉のクローバーがラミネートされた不格好な栞だった。








「……あの、これ」


少し恥ずかしそうにおずおずと差し出された栞を見る。


「…?くれるんですか?」


こくん、と頷いた俺よりも大きな店員は俺がなかなかの受け取らないのを焦れったく思ったのか、クローバーの栞をぶっきらぼうに押し付けてきた。


「アンタ、いつもうちの花を買ってくれるから…サービス、です」


いらねぇなら、いいスけど。

少し残念そうに引っ込めようとする栞に焦った俺は、思わず彼の掌ごと掴んでしまってパニックになった。


「も、貰う!」


ぎゅっと手に力を込めて、そこに精一杯の気持ちを添える。シズちゃんの手、おっきいなあ…。


「……またのお越しを」


その声にゆっくりと顔を上げれば、耳まで真っ赤にしたシズちゃんがどうしていいかわからないような顔をしていた。


まぁ、ぶっちゃけ、物凄くときめいた。今まであくまでも第三者目線だった俺が、初めてシズちゃんが欲しいと思ってしまった。




(まさか、まさか自分が、男とそういうことになるなんて、考えたことなかった)



「明日も、会いに行こうかなあ…」



こういうのも存外、悪くないかもしれない。








*****



「あ、俺×××だから。」に提出させていただきました!
ほんっっっとうに遅くなってしまってすみません…!!
遅くなってしまった上に、収集がつかなくなってしまいました…
素敵企画に参加させていただき、ありがとうございました!


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