冗談やめてよ





「あれ?何で新羅1人なわけ?シズちゃんは?」

「静雄ならさっきクラスの女の子達に呼ばれてどこかに行ったけど。…ていうか、早く静雄をからかいたいっていう気持ちは凄くわかったから、僕を見てあからさまに残念そうな顔するのやめてくれないかな?」


失礼だなあ!とぶつくさ言いながら新羅がドタチンの横に座ってパック牛乳を飲み始める。失礼なのはどっちだ。そんな言い方だと俺がシズちゃんが来るのを待っていたみたいじゃないか。そんな顔するわけがない!
………と、文句を言いたいのは山々だけど、今耳を駆け抜けていったありえない言葉に気が逸れてしまった。いや、逸らさずにはいられなかった。


「シズちゃんが女の子からお呼び出し?………ナイナイナイ!いくらなんでもそれはナイよ新羅!だって今まで誰もシズちゃんを怖がって近付かなかったんだよ?今更何の用があるってわけ?」

「あぁ実はさ、今度うちのクラスが文化祭でやる演劇の主人公に静雄が抜擢されたんだよ」


さらりと言われすぎたのが原因なのか、はたまたありえなさすぎて耳が声を拒絶したのか…………多分、両方だと思うんだけど、とにかく俺は最初新羅の言っている事が理解できなかった。………は?シズちゃんが何?演劇の主人公?…………うっそだー!

「にしても何で静雄が?他にいなかったのか?」

「それが、誰もやりたがらないからっていうことで配役は最終手段のくじ引きにしたんだよ。そしたら静雄が見事に主人公のくじを引き当てちゃってさ。笑っちゃうよねぇ、あの静雄がよりによって恋愛モノの演劇の主人公だよ?くじを開いた時の静雄の顔は忘れられないなあ」


新羅の思い出し笑いを堪える顔が気持ち悪い。……というのも後回しにして、


「ちょ、ちょっと待って!恋愛モノって言う事はもしかして『愛してる』とか『結婚しよう』とか愛の言葉を囁いちゃう感じなの?!あのシズちゃんが!?」


どうしよう、想像しなくても笑いがこみ上げてくる。ミスキャストもいいとこだ。
シズちゃんは真面目だから、文化祭の行事も真面目に参加するんだろうなとは思っていたけど、まさかここまで真面目に参加するとはさすがに思わなかった。ていうか想像できなかった。

………予想外すぎてちょっと面白い事になってきたなぁ。



「くじ引きだとは言えども静雄もよく引き受けたな。あいつに演劇の主人公なんてできるのか?」

「もちろん抗議はしてたよ?でも何故か女の子達が物凄くノリ気で、静雄ったらその気迫に負けて頷いちゃったんだよね。で、今その実行委員の女の子達と打ち合わせ中。僕は照明係だから、静雄が演技に四苦八苦している姿を楽しませてもらう事にするよ」


楽しそうに話す新羅の後ろにその打ち合わせとやらから帰ってきたシズちゃんが青筋を立てて立っていたけど、俺もドタチンもそれを教えてやらなかった。



バイバイ新羅。










俺のクラスは何をするのか。何気ない俺の問いにドタチンが呆れ気味に「喫茶店だろ」と言って溜め息を吐いた。
ごめん、それ決めた時俺屋上かどこかでサボってたんだと思う。
でも喫茶店なら呼び込みに行くって言う名目で堂々とサボれるし、楽そうだなぁって半ば他人事のように言うとドタチンが目を逸らして「あぁ…そうだな」と苦笑した。……こういう時勘が良いって困るよね。


「先に言っておくが、来ないお前が悪い」

「……普通の喫茶店じゃない、とかそういうのないよね?」

「あみだくじは公平だからな。誰がどうなろうと全ては神のみぞ知るっていうやつだ。因みに俺はウェイター」

「俺は?」

「ウェイトレス」


……これを言ったのがシズちゃんなら思いっきり笑ってからかえたのに。
一般的、ていうか常識的に考えて男がウェイターで女がウェイトレス、だろ。何でドタチンがウェイターで同じ男の俺がウェイトレスなわけ?

…………ちょっと待てよ。


「残り物には福があるってよく言うけどよ、まあ……頑張れ」

「俺、その日休「そういえば前に静雄と町を歩いていた時、あいつビラ配りをしていたウェイトレスに釘付けだったなぁ」

「…………何が言いたいわけ?」


ドタチンは俺の引きつり笑いを見て笑った。


「別に?」






*****




文化祭前日。この日は1日中授業をせずに文化祭の準備をすることになっている。どのクラスも明日の文化祭へ向けての高揚感が押さえられないのか、学校全体がいつもより活気に満ち溢れていた。


「俺さ、どの行事が一番嫌かって聞かれたら即答できるよ。文化祭」

「………気持ちは分かる。確かに俺もウェイトレスの服を試着しただけで男に告白された男を見たのは初めてだし…正直引いた」


元はと言えば美形すぎる俺が悪いんだけどww………なんて、強がるのは今は無理だ。あの告白のダメージはデカすぎる。いくら両刀遣いの俺でもあれは引いた。


「しばらくクラスには戻りたくないなぁ」

「だからってこのまま男子トイレに居座るのもどうかと思うぞ」

「……………あ、じゃあさ、どうせ暇なんだからシズちゃんのクラス覗きに行こうよ」

「あぁ……それはいいな、よし行こう」



という流れで来てみたはいいものの、いざシズちゃんが演技をしているのを見るとなると自然に笑いがこみ上げてくる。弟君ならともかくあの不器用なシズちゃんが演技、しかも主役なんて出来るわけないじゃん。
よし、この鬱憤をシズちゃんにぶつけてやろう。思う存分笑ってやろう。


「待ってくれ!!」


体育館の扉に手をかけようとした瞬間、中から聞いた事のないようなシズちゃんの声が聞こえた。


「………今の静雄、か…?」

「…………多分そうじゃない?」


ガララ、と少し重い扉を開けるとステージの上でシズちゃんが相手役らしき女子生徒の腕を引いて迫真の演技を見せていた。
物語の終盤なのだろうか。女子生徒とシズちゃんが別れそうな恋人(だと思う)演技をしている。



…………あ、シズちゃんが女の子を抱きしめた。



よくあの馬鹿力を制御できたね、褒めてあげるよ。でも俺を殴る時も制御してくれたら嬉しいな。


「好きなんだ…俺の事が嫌いでもかまわねぇ……それでもいいから、そばにいてくれ……頼む…っ!」

「うわ、これって平和島家の血筋か何かなのか?兄弟揃って演技上手いな」

「…そう、だね……」


シズちゃんがなんともくさい愛の告白をしたところで胸が痛くなった。



……あーあ、あの相手役の子耳まで真っ赤にしちゃってさ。



こりゃ惚れたね。でも駄目だよ、いくらシズちゃんがかっこよくてもそれは演技だから。普通に考えて君みたいな女の子にシズちゃんが告白するはずがないじゃないか。





………馬鹿馬鹿しい。






「おい……おい、臨也大丈夫か?」

「……え、何?ごめん聞いてなかった」

「いや、そろそろクラスに戻らねぇと面倒だぞって」

「うん、そうだね」


笑うに笑えなくなってしまった俺はドタチンの話にも生返事しか返せず、ただただステージ上でスポットライトを浴びたシズちゃんを見ることしか出来なかった。





********



続きません、すみません((韻踏んでる
嫉妬とかそういうの好きです、大好きです
静雄まさかの演技派

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