もしかして君はツンデレ




「何で手前はさも当たり前のように俺ん家に上がり込んでやがんだよ。ていうかどこから入って来やがったんだ不法侵入者」


相変わらずと言うか、最早シズちゃんの代名詞になりつつあるバーテン服姿でスーパーの袋を提げる姿と言ったら………何でだろう、何故か絵になってるんだけど。あぁ、そうか。イケメンは何をしてもイケメンなのか。シズちゃんの癖に生意気だなぁ。ま、俺の次にイケメン、だけどね。

…ははっ。ここ笑うとこだよ?


「それは企業秘密ということで。別にいいじゃん減るもんじゃないんだしさ」


本当はシズちゃんに内緒でこっそり合い鍵作らせて貰ったんだけど、それを言ったら何されるか分からないし後々面倒くさいから秘密。だからって特に用がない日に部屋に上がり込んで、どこぞのストーカーみたいに部屋を物色するわけじゃないから大丈夫。
誰に言ってるのか分からないけど、念のためね。念のため。


「減ってんだよ!手前がウチに上がり込む度に食費が著しく減ってんだよ!そもそも、わざわざ俺んとこに飯食いに来なくたって手前も料理出来んだろーが」

「たしかに俺は料理でも何でもそつなくこなせる素適な情報屋さんだけどさぁ、シズちゃんの料理が美味しいんだからしょうがないじゃん。なんかこう、急に食べたくなるんだよね。ところで今日のメニューは何?俺は親子丼の気分なんだけど」

「さり気なく手前の希望織り交ぜてんじゃねぇよコラ!はっ倒すぞノミ蟲!」


シズちゃんのこめかみに青筋が浮かんでいる。ちょっとやめてよね、今日は本当にシズちゃんの手料理食べに来ただけなんだからさ。


「あぁ、喧嘩なら後でいくらでも付き合ってあげるから今は夕飯作りに専念してよ。俺はこっちで静かにごろごろしてるからさ。ね?」

「ね?じゃねぇよ気色悪ぃ!―――っだぁあぁああぁあ!もう勝手にしやがれ!クソッ!その代わり絶対その辺荒らすんじゃねぇぞ!」

「俺の言葉が信じられないって言うの?」


って言ったら途端に怪訝な顔をされた。………分かった。分かったからそんな顔でこっち見ないでよ、冗談だからさ。
何かするって言ってもシズちゃんの家には必要最低限の家具しか置かれていないし、せいぜいベッドに寝転んで物思いにふけるぐらいしか出来ない。そうだ、今度来る時はテレビとDVDプレイヤーを持って来よう。どうせならシズちゃんの安月給じゃ買えないようなものにしよう、うん。そんでもって2人でDVD鑑賞するのも悪くない、かも。

………あれ?なんか今の俺びっくりするぐらい乙女思考じゃなかった?

うっわ、鳥肌立ってきた。気色悪いって言われてもしょうがないなこれは。いや、全然よくないんだけどね。だっていくら何でも素敵で無敵でカッコいい情報屋さんがこれはないだろ。よりにもよってシズちゃん相手にこれはないだろ。
……でも、なんだろうなあ………良くないって分かってる事に限ってやりたくなる衝動ってあるじゃん?あれとはまたちょっと違ってくるんだけど、だからって別物っていうわけでもない。……何て言ったらいいんだろうか。



とにかく俺は、シズちゃんと喧嘩をするだけじゃ物足りなくなっている。これだけは間違いない。



これと同じような事を前に新羅に相談したら「ちょっとちょっとやめてよ。それじゃ君がまるで静雄に恋をしているみたいじゃないか気持ち悪い」って爽やかな笑顔で言われた。あの時はちょっとイラッときて眼鏡を叩き割ってやったなぁ、と思い出してちょっと笑いかけたけど我慢した。


でも、まあ………ね?新羅の言った事が的外れって言うわけでもない……ような気も、する。俺は今まで人間という大きなカテゴリを愛してきたから、こういう1人の人間を特別視するという事に対して疎いのかもしれない。自分で言うのもなんだけど結構癪だなぁ、これ。


「おい臨也、ごろごろしてるんだったら食器出すぐらい手伝え」

「……ん、了解。………あ、親子丼だ。もしかしてシズちゃん俺のリクエスト聞いてくれたとか?急にそんな優しさ振りまくのやめてよ、槍が降るじゃん。さすがの俺も降ってくる槍を避けながら新宿に帰るのは嫌だからね?」

「違ぇっつーの!たまたま買った材料が親子丼だっただけだ!そこまで言うなら食うな!」


シズちゃんの言葉にうっかり丼を取り出しかけていた手が止まる。


「へぇ、シズちゃんって何を作るのか決めないで適当に食材を買ってくるの?」

「っ!だから、たまたまだって言ってんだろ!!たまたま冷蔵庫に卵があって、ネギもあって、そんで鶏肉もあっただけだ!」


……そうか、シズちゃんって実はかなり素直なんだ。思いっきり墓穴掘っちゃってるし。しかも言ってから自分の口押さえてハッとしてるし。………ちょっと耳赤くなってるし。


「えぇっと…………ホント、反応に困るんだけどなぁ…そういうの」

「う、うるせぇ!俺も親子丼が食いたい気分だったんだよ!」

「シズちゃん気付いてるのか気付いてないのか分かんないから言うけどさぁ。俺としては、1人暮らしのシズちゃんが当たり前のように2人分親子丼を用意できる程買い置きしてるところが驚きなんだよね。…………ねぇ、本当は、」

「それ以上言ったらマジで殴る!ていうか殺す!!黙ってさっさと食って帰れノミ蟲!!」

「ヤだよ、今日はシズちゃん家に泊まる。こんなに優しくされちゃったら確実に槍降ってくるし、さっきも言ったようにそれ避けながら帰るの面倒だから泊まらせてよ」


ぽかんとしたシズちゃんがご飯をよそう手を止めた。今度は耳だけじゃなく顔まで真っ赤になって口をパクパクと無駄に開閉させている。…俺、シズちゃんが一度ボロを出すと駄目になるタイプだって初めて知ったよ。
………心臓が変な感じにドキドキする。俺がいつものように「冗談だよ」って言って逃げないのを悟ったのか、シズちゃんが何度か何かを言いかけては躊躇ったりと繰り返している。で、ついに決心したのか目を逸らして半ばやけくそ気味に


「……か、………勝手にしろっ!!」


とだけ言って居間へと早足で行ってしまった。

……どうしよう、次来る時はお泊りセットも持って来ようかなとか考え始めてる自分が気持ち悪すぎる。







********



初々しい2人が好きです


- 5 -


[*前] | [次#]






( prev : top : next )

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -