言葉のキャッチボール



・新羅視点



「あ、シズちゃんその苺牛乳一口ちょーだい」

「あぁ?誰が手前なんかに飲ませるかっつーの。欲しけりゃ自分で買って来い」

「えー。だってその苺牛乳じゃないと意味ないじゃん!関節チューの意味ないじゃん!」



ぶばっっ!


握りつぶしたパックから盛大に中身が飛び散り、静雄の髪の毛からボタボタと苺牛乳が零れ落ちる。
…あーあー、もう。静雄はこういうことに関しては純情なんだからからかっちゃいけないよー。
とか内心思いつつも助けずにその光景を笑って過ごす僕。隣では門田が胃を抑えながらハムサンドを咀嚼している。そろそろ慣れないと死ぬんじゃない?と、常々心配してしまうぐらい門田は苦労性だよねぇ。


「いぃぃいいざぁああぁぁあやぁあぁああぁあ!!!」

「やだなぁ!ちょっとからかっただけじゃ…っ痛…っ!」


喧嘩モードのスイッチが入った静雄に対して反射的に防御体制に入った臨也の動きが止まった。腰を抑えて顔を歪めている。顔色も少し悪い気がするんだけど、怪我してるのかな?


「ちょっと臨也、大丈夫かい?」

「そういやお前、今日朝から腰痛いって言ってたよな。無理すんなよ。静雄もちょっと落ち着け。ほら、タオル貸してやるから…よ………どうした静雄、顔色悪くねぇか?」


え、2人して急に体調崩さないでよ。診察する方の身にもなってくれよ。今ブレザーには包帯と絆創膏と胃薬(主に門田用)ぐらいしか入れてないんだからね。


「い、いや……何でもねぇ」

「ちょっとシズちゃん!俺今腰痛いんだから労わってよね!まったく…誰のせいでこんな事になったと思ってるんだか」

「!だっ、あ、あれは……!」

「あぁもういいよいいよ。シズちゃんは自分の気持ちもコントロールが出来ないぐらいお馬鹿さんなんだからさ。しょうがないよ、うん」


またそんな静雄を挑発するような減らず口叩いちゃってさぁ…。これ以上腰の怪我が酷くなっても知らないんだからね。ほら、門田が2人の間に挟まれてオロオロしてるじゃないか。もっとちゃんと周りを見れないと社会には出れないんだからね君達。


「あん時は手前が誘ってきたんだろーがよぉ!」

「俺何もしてないよー。プッツンしちゃうのはいつだってシズちゃんの方でしょ?」


ちょっとちょっと臨也君。君今の自分の状況分かってて言ってるの?駄目だよ、それ以上静雄を怒らせたら流石に死ぬよ。折角何でか知らないけど大人しくなってたのに。自ら死亡フラグ立てるなんてマゾ以外の何者でもないよ。


「………だから、…っ」

「ん?」





「だから保健室なんかでヤんのはやめとけって言っただろーがぁぁあぁああぁぁあ!!!」





―――ビシリ





……………俺、生まれて初めて空気の固まる音を聞いた気がする。
だって、君………え、だって………嘘でしょ?嘘!きっとここ数日忙しくて耳が疲れてるだけなんだ。そうだ、そうに違いな…


「せめて俺の家に来いって言ったのに、手前が今じゃなきゃ嫌だとかわけ分かんねぇ誘い方しやがるから…っ!大体、お前だってノリノリだったじゃねぇか!」

「それ以上言うのやめてってば!いくら何でも恥ずかしいっつーの!ていうかそれ一昨日の話じゃん!俺どんだけ腰弱いんだよ!違うって、これは昨日の喧嘩でシズちゃんの投げた自販機が腰を掠めてできた怪我だから関係ないって!」





―――シーン





……………凄いや、セルティ。僕は今日この数分の間に2度も空気が奏でる擬音を聞くことが出来たんだ。

……どうしよう、我ながら心底どうでもよすぎる。

現実逃避はよせ、今やるべき事は既にログアウトしてしまった門田にいち早く胃薬を渡すことだ。


「……………………」

「……まさかとは思うけど、さっきまでの会話ってシズちゃんの中では全部その話だったわけ?…ありえない。ありえないよシズちゃん。君はどこまで単細胞なわけ?いくら脱童貞してから日が浅いからってそれはないよ」

「……………………な、」


静雄の纏う空気が変化する。もちろん、名称は殺気だ。


「し、静雄!落ち着け!誰にでも間違いはあるもんだ!気にする事じゃ……」

「何て事言わせやがんだこのノミ蟲ぃぃいぃいぃぃいい!!!」

「ちょ、ちょっと待った!今本当に腰が痛いんだって…っ!!」


顔を真っ赤にして臨也を追い掛け回す静雄に溜め息どころか哀れみの視線まで送っちゃう僕。…まあ門田の言う通り、人間誰しも間違いはするものなんだけど…今回ばかりは何とも言えない。ある種珍しいケースだからね。


「ところでさ、門田」

「………何だ?」

「昼休みあと10分で終わっちゃうから食べちゃおうよ、お弁当」

「……そう、だな」


こうして僕らは日々環境適応能力を着々と身に付けていく。


……物を投げないところ辺りに静雄の優しさが現れてるって気づいてるのかな、臨也の奴。







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墓穴掘るシズちゃん可愛いなぁ、っていう発想から生まれた突発ネタです。純情なくせにやることはやってるシズちゃんってくそ萌えると思うんです。

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