気づいたこと



バレンタインが終わって気づいたことがひとつある。



シズちゃんは甘いものが嫌いだ。



というのも、シズちゃんはバレンタインに女の子達から貰った大量のチョコレート(断りきれなかったのだと言っていた)に一切手を付けず、新羅やドタチン、挙句の果てには俺にまでチョコを配り歩いていたのだ。

しかも心底面倒くさそうな顔のオプション付きで。

勿論俺はその申し出を断った。だって俺の方がシズちゃんの倍貰ったし。いくら甘いものが好きな俺でもこれ以上増えたら胸焼け確実だ。シズちゃんも馬鹿だよねぇ。手作りなら気持ちは分かるけど、中には高級チョコだってあるんだから貰っておけばいいのに。あ、高級か高級じゃないかなんていう区別をシズちゃんがつけられるわけないか。

とまあ、つまりは冒頭に戻るんだけど、



シズちゃんは甘いものが嫌いだ。



これを利用しない手はないよねぇ。……というわけで、


「やって来ましたケーキバイキング!」

「何でだよ!!」


隣でシズちゃんが怒りを含んだ抗議の声を上げてるけど、そんなのは聞こえない聞こえない。無視無視。


「おいコラ手前耳塞ぐんじゃねぇよ!腕へし折るぞ!」

「やだなぁシズちゃん。まさか君ともあろう人間がここまで来ておいて逃げる気?敵前逃亡?アハハ!ダッサーい!」

「意味分かんねぇんだよ!大体俺は門田がチンピラ共に絡まれて大変だって聞いたからわざわざ手前なんかについて来たわけであってだなぁ!」

「え!やだシズちゃんってば友達思い〜wwたまには俺と一緒にお茶しようよ。ここのケーキバイキングめちゃくちゃ美味しくて今若者の間で人気なんだから!」


あ、眉間の皺が深くなった。そうだよねぇ、そうだよねぇ。君は甘いものが大嫌いだもんね!でも俺は君の嫌がる顔を見るのが大好きなんだよ!


「ほら行くよ?予約取るの大変だったんだから無駄にしないでよね」


ぐいぐいと無理矢理引っ張って前へ引きずる。


「離しやがれノミ蟲!あとそのニヤニヤした顔うぜぇからやめろ!」


シズちゃんは産まれ持っての馬鹿力で対抗してくる。


「はいはい、ここで暴れないでね。今君の周りにはここのケーキバイキングを楽しみにしてる女の子達で溢れ返ってるんだからさ。危ない事なんて考えずに大人しく中に入ろうね?」

「っ!…………くそっ!」


よしよし大人しくなった。シズちゃんは女の子には優しいからこういう言い回しが一番効き目があるんだよなぁ。これ俺の経験から得たデータね。あと老人とかにも優しい。典型的な好青年みたいな感じ?
俺には一度も優しくしてくれた事なんて無いのにねぇ(笑)
















すっかり大人しくなった(顔は心底悔しそうにしてたけど)シズちゃんの腕を引っ張って案内された席に座る。


「じゃあシズちゃんはここで座って待っててよ。俺がケーキ取って来てあげるからさ」

「…………いらねぇ」

「そんな事言ってないでさ、折角来たんだからもっと楽しんでよね?」


それでもシズちゃんは腑に落ちないらしく、周りをちらちらと気にしていた。…あぁ、俺達の他は女の子の客ばっかりだもんね。それか、カップル。…なるほど、シズちゃんは周りの視線が気になるわけだ。別に最近じゃ男同士でこういうとこに来るのって珍しくないんだけど、シズちゃんのオロオロぶりが新鮮で面白いから黙っておこう。


「さてと、どうせなら思いっきり甘そうなやつにしてやろう」


ずらりと並んだケーキや甘味等の中からそれぞれ選んでシズちゃんの前に差し出す。2皿にもなっちゃったけど、残すだなんて言い出したら思いっきりからかってやろう。きっとものすごく困った顔するんだろうなぁ。
楽しみだなあ!楽しみだなあ!楽しみだなあ!


「ほら、どうぞ」

「…………多くねぇか?」

「そう?全然少ないと思うけど。因みに残すだなんて言い出したら……分かってるよねぇ?」

「…………………」


ついにシズちゃんは顔をしかめてじぃっとケーキと睨めっこを始めた。うわ、何この光景、新鮮すぎて最早怖いんだけど。早く食べてくれないかなぁ、それ全部俺から見ても甘そうなやつばかり選んできたんだからさ。
粉砂糖がたっぷりかかったミルフィーユ、シナモンの匂いが特徴的なアップルパイ、それに餡がたっぷり入った大福餅、エトセトラ。
甘いものが嫌いな人だったら見ただけで胸焼けしそうなものばかりだ。


「食べないの?あ、分かった!あーんってして欲しいとか?ぶはっ!シズちゃん周りの空気にあてられすぎ!」

「んなこと一言も言ってねぇだろーがぁあ!!」

「照れなくてもいいって。にしても嫌いなものを大嫌いな奴にあーんしてもらうだなんて、これってものすごく屈辱的なことだよねぇ?ほらほら、遠慮せずにどうぞ」


ショートケーキの苺をフォークに刺して差し出す。滅多に無い出血大サービス!


「遠慮じゃねぇ!全力で拒否だ!!…っていうか、誰も甘いものが嫌いだなんて言ってねぇだろうが!!」

「…………………え、」


………沈黙、するしかないでしょこれは。


だってシズちゃんさっきまでそんな雰囲気漂わせてなかったじゃん。顔しかめて睨めっこしてたじゃん!


「嫌いじゃ、ないの…?」


しまったという顔をして口元を手で隠すシズちゃん。いや、今更そんな事やっても意味が無いんだけどね。そんな事したら余計に信憑性が醸し出されるって。後悔先に立たずって言う言葉があるでしょ?…なんか、心なしか顔が赤い気がするんだけど。もしかして照れてる?恥ずかしがってる?おいおい、耳まで赤くなってきたぞ。

……マジで?


「………だから手前に知られるのは嫌だったんだよ」

「隠す意味がわかんないんだけど…」

「手前俺が甘いもの好きだって知ったら絶対からかってくるだろーが!それに元はと言えば高校入って手前と出会ってから甘いものを堂々と食えなくなったんだぞ!」

「えぇ!?何でそれが俺のせいなわけ!?」
「俺は静かに暮したかったっていうのに手前がいちいち喧嘩売ってくるから変なイメージが付いちまって、こういう店に来るどころか甘いもの自体食べられなくなっちまったんだよ!死ねノミ蟲!!」


…これって所謂ギャップ萌えというやつですか?この強面イケメン君が甘いもの大好きだというのを隠してきたっていう設定にきゅんってくるもんなんですか?……俺には理解できない。


「人が折角我慢してたのに…手前のせいで…っ!」

「じゃ、じゃあ何でチョコレート配り歩いてたりなんかしてたわけ?あれは行事的なものなんだからいくら貰っていようが食べていようが別に変に思われないでしょ」


シズちゃんが愚問だと言わんばかりの顔で俺を睨みつける。


「はぁ?バレンタインは違ぇだろうが。あれは告白の一種だろ?好きじゃねぇ奴のチョコは受け取らねぇ、こんなの常識だろ」


何この絶滅危惧種!あの量にいちいち対応してたら面倒くさいじゃん!実際めちゃめちゃ面倒くさそうに配り歩いてたじゃん。…まさかあれは好きなものを配り歩くのが辛かったのを隠していたからとかそういうのじゃないよね。あえて聞かないけどさ。ほんと、律儀というか何というか…。根は真面目だからね、俺が言うのもなんだけど。


「その言い方だと好きな子がいるみたいに聞こえるんだけどなぁ」


指摘すると元に戻りかけていた顔色が一気に真っ赤になった。うんうん、分かりやすい人間は扱いやすくて大好きだよ。


「へぇ?じゃあシズちゃんは今その子に絶賛片思い中なんだぁ。あの平和島静雄が恋をした!相手はどんな子?なんなら俺が情報売ってあげようか?」

「うるせぇ!手前には関係ねぇだろ!!これ食ってさっさと帰んぞ!!」


早口でまくし立てたと思えば一気にケーキを食べ始めるシズちゃん。一見ただ食べているだけに見えるけど、心の中ではきっと喜んでるんだろうね。俺と出会ってからという事は、好きなものを2年近く我慢してたっていう事になるのか。



………シズちゃんが恋、ねぇ。



この様子からすると初恋?シズちゃんならありえるなぁ。
当の本人はこれ以上の追求は許さないつもりなのか、さっきから無言で食べ続けてる。

…相手の子、誰だろ。このまま無言を貫くというのなら独自の情報網で調べ上げてやろうか。とも考えたけど、でもそこは俺も人間、少しは抵抗があるわけで。相手が誰かさえ分かれば全力で応援という名の邪魔をしてあげるのに。あの女の子に優しいシズちゃんが女の子からの好意を無駄にするぐらいなんだから、相当好きなんだろうねその子の事。





ねぇ、その子はどんな子なの?





俺は質問をフォークに刺しっぱなしだった苺と共に胃の中へ放り込み、それだけで胸焼けをしたような感覚に包まれた。







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自覚ありシズちゃんと自覚なし臨也。

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