偶然と偶然と必然 ・シズ→イザっぽい ・来神時代 ・捏造ありありです 「やっちまった…」 夜とはいえどねっとりと肌に張り付くような生暖かい風を正面から受けて、静雄は心底面倒くさそうにため息を吐いた。この時間帯には縁のない来神高校を見上げて。 俺がわざわざこんな時間にこんな場所へと来たのにはもちろん理由がある。普段からつもりにつもった課題の提出を担任に咎められ、ついに留年がチラつき始めてしまったのだ。次もし提出が遅れたら会議にかけるとか何とかよくわからない話をされたのだが、まぁつまりそういうことだ。流石に留年はまずい。学費を払ってくれている親に申し訳ないことこの上ない。なんとしてでも避けなければ!…と、思っていた矢先にこれだ。明日提出の大事なプリントを教室に忘れてしまったことに先程気付いたのだ。もう自分の馬鹿さ加減を呪いたい気分だ。 助言をくれた新羅曰く、正門から入ると防犯装置が作動して警備会社に連絡がいってしまうらしい。なので特別に教えてもらった(セルティが俺のことを心配して新羅を説得してくれたらしい)抜け穴を通って学校の敷地に入る。夜の学校は幽霊が出るから怖いだのなんだの言っていたクラスメイトの女子達を頭の片隅で思い出しながら、鍵の壊れたままらしい窓を静かに開けて校舎へと無事に侵入できた。 俺の教室は2階にある。丁度ここから一番近い階段を登れば辿りつけるはずだ。見回りの警備員は今頃もう一つの校舎を回っている頃だろう。丁度いい。このままさっさとプリントを回収してさっさと家に帰ろう。そしてなんとかして課題を提出しなければ…! 「何やってんの?」 「ッ!!?」 声に驚いて振り返ると、そこには呆れ顔の臨也が立っていた。思わずギリリと奥歯を噛みしめる。 「なーんーで手前がここにいんだよ!?あぁっ!!?」 「ちょっと、急に怒鳴らないでよ。警備員さん来ちゃうでしょ」 「…………チッ」 もっともなことを言われてなんとか額に浮いているであろう青筋を治める。ここで怒ったら負けだ。俺の負けだ。俺がわざわざここに来た意味が無くなる。つまり俺の人生という大切な時間が無駄になるっつーわけだ。……させるか! 「教室に行きたいんでしょ」 「…何で知ってんだよ」 「さっきから何で何でって、質問攻めにしないでくれる?…ほらこれ。鍵がないと意味ないでしょ」 オーバーな身振り手振りを交えつつ臨也は学生ズボンのポケットから教室の鍵を取り出した。至極冷静になれば一人で舞台の真似事をしている哀れな奴に見えないこともない。まぁ、普通の奴が今のノミ蟲を見たら俺と同じで物凄く『うざい』と思うだろうがな。 にしても教室の鍵とはうっかりしていた。流石に鍵無しじゃ入れねぇ。…いや、入れることには入れるが、それをすると教室の扉が一つ消えることになる。いくらなんでもそこまで無茶は出来ない。 「よこせ」 「へぇ、それが人にものを頼む態度なわけ?この場合どうすれば良いのかぐらい幼稚園児でも分かるよ」 「手前はノミ蟲だろーが。んなこたぁ関係ねぇ」 「俺は時々、君が本当は頭がいいのか見た目通り悪いのか分からなくなる時があるよ。って言っても結局後者なんだけどね」 「訳わかんねぇこと言ってねぇでさっさと鍵をよこせやゴルァ」 「んー。どうしようかなぁー」 無駄に間延びした声で悩む素振りをしだしたノミ蟲は、俺の知っている言葉を精一杯使って表すとしたら『地球上から一刻も早く駆除しなくてはいけないクッッソノミ蟲』だろう。それぐらい腹が立つ。気持ち悪くて吐き気さえしてくる始末だ。 「じゃあ、俺も一緒について行ってあげるよ」 「……はぁ?何言ってんだ、手前。馬鹿か?」 「そのゴミを見るような目で俺を見るのやめてくれない?あと、俺は馬鹿じゃないから。…だってさ、出るらしいじゃない。この校舎」 「あぁ?何がだ」 するとノミ蟲の表情が一変して心底楽しそうな、でもどこか挑発するような笑顔でこう言った。 「ゆ・う・れ・い」 「…手前、それ本気で言ってんのか?」 「もちろん!絶対一人で行かない方がいいよシズちゃん」 にこにこと気色悪い笑みを浮かべながら指先で鍵を弄ぶノミ蟲を胡散臭さ全開で睨み返せば(すぐに戻ったのだが)一瞬目を見張られた。 「とにかく!行くなら俺もついていくから。分かった?勿論、異論は認めないけどね」 「なに勝手に決めてんだよ!来んな!鍵だけ置いて手前は消えやがれ!」 「世の中そううまくいかないんだよ。等価交換って言葉知ってるでしょ?だからほら、さっさと俺の言葉に従いなよ」 「従う?ふざけんな。手前が勝手についてくるだとかなんだとかほざいてんじゃねぇか!」 「ほらほら、そんなこと言ってていいの?もうすぐ警備員がこっちにも来るよ?」 「ぐっ…!………か、ってにしろ…!」 「はーい、交渉成立。さて、そうと決まれば早く行こうよシズちゃん」 うきうきという言葉を体現したかのような動きで階段を上っていくノミ蟲の背中を睨みながら俺も階段を上った。眼力で人を殺せるという話を聞いたことがあるが、今まさにそれができないかと考えながら。 「まさか課題のプリントを忘れただけだったとはねぇ」 「ほっとけノミ蟲」 「なんだかんだ言っても真面目なんだよ君は」 どうやら警備員のルートとどの場所をいつ通るのかということまで把握しているらしいノミ蟲は、堂々たる足取りで俺と廊下を歩いていた。月が雲に隠れてしまっているらしく、廊下はかなり暗くていくら目が暗闇に慣れたといっても互いの位置以外はあまりよく見えないような状態だ。カツンカツンと足音だけがやけに響いて薄気味悪い。ふいに隣を歩いていたノミ蟲が立ち止った。 「ところでさ、君は俺のことどう思ってるわけ?」 「…今度は何を企んでんだ手前」 「質問を質問で返さないでくれるかなぁ。そもそも君、気付いてなかったの?」 「んだよ、ケンカ売ってんのか?」 プリントをポケットに突っこんで身構えると、ノミ蟲がおかしそうにくすくすと笑った。 「しょうがないからだーいヒント!さっきから君ひとり分の足音しかしてないの、気付いてた?」 「!!」 そう言ったノミ蟲はその場でぴょんぴょんと跳ねだした。人並より身軽な奴だとは思っていたが、今目の前で飛び跳ねている奴はその人間の域を越した跳躍力を見せつけている。なのに、足音ひとつ立っていない。 違う。こいつは臨也じゃねぇ! 「手前は誰だ」 「強いて言うなら君の想い人だよ、平和島静雄君」 「おもいびとぉ!?おいコラ手前…世の中にはなぁ、言っていいことと悪いことがあんだよ…!」 「知ってるよ。俺は人間の深層心理に思い浮かんだ、所謂『想い人』に化けるのが得意でね。たまたま退屈していて迷い込んだこの学校に、これまた偶然!君が現れたってわけさ。似てる?にしても、まさか男に化けるだなんて思わなかったよ。君ってもしかしてゲイ…ってわけでもなさそうだね。両刀使いかな?」 ぺらぺらとまるで本物のノミ蟲が話しているかのように口が動くこいつの言葉は最早俺の耳には入っていなかった。既に体が動き、拳が奴の顔面を捉える。…はずだった。 「おっと!人が話してる間に殴るなんて卑怯極まりないよ。しかも顔面って…この顔は君の想い人と瓜二つなのに、よくストレートに狙えるね」 するり、と空気のような身軽さであっさりかわされた拳が空を切る。まさか避けられるとは思っていなかったため、俺が体勢を崩した隙に奴が懐に入ってきているのに反応できなかった。 にやり、と奴の口元が歪む。 「隙あり!」 「っ!!?」 ぎゅうううと物凄い力で腰に抱きつかれてしまった。俺はあまり苦しいと思わないのだが、普通の人間なら多分ぶつかってきた時の衝撃であばらを数本折られていただろう。それぐらい容赦ない攻撃だった。 「…ぶはっ!顔あかーい!やっぱり君、こいつのこと好きなんだー」 「違ぇって言ってんだろうがよ!!」 「ほら、そうやってむきになるところがますます怪しいんだって。じゃあさ、これならどう?」 なんとかして引き剥がそうと回された腕を掴んではみるがびくともしない。それどころか、胸に顔をぐりぐりと押し付けてきやがった。 「手前ェ…何やってんだよ…っ!」 「顔ではそういうこと言ってても、心臓は正直だよねぇ。すっごい脈打ってるの自分でもわかるでしょ?」 「うっせぇな!さっさと離れろや!」 「おっと!こわいこわーい」 二度目の拳もブンッと常人ではありえないような音を響かせて空振った。とりあえず今ので奴が離れたから結果オーライだ。 「さて、久しぶりに心から楽しめたし、俺はそろそろ帰るとしようかな」 「待ちやがれ!」 傍にあった窓を開けて奴が枠に足をかける。飛び降りる気か…!?確かにここは二階で飛び降りても全く問題ない(ただし一般人にとっては十分危険なことを本人は自覚していない)が、今コイツを逃がしたら俺の気が収まらねぇ。 「ばいばい!シーズちゃん」 「待てって言ってんだろーがよぉぉぉお!!」 よっと!と、軽々窓の外に飛び出た奴を追うように窓から顔を覗かせてはみたが、既に奴の姿はどこかに消えてしまっていた。…何だったんだ。まるで人間を相手に話している気分じゃなかったぞ………って、おいおいちょっと待てよ!?まじか。さっきのはゆ、幽霊、とか…? 「いやいやいやそんなんあるわけねぇだろ!!?」 「そこの君!こんなところで何やってるんだ!!」 「おはよーシズちゃ…!?ちょっと!何でいきなり殴りつけてくるわけ!?」 「うっせぇ!!俺は昨日の夜、手前(?)のせいで散々な目に遭ったんだよ!!」 「はぁっ!?何言ってんの?ついに頭やられたの?」 「だぁぁああ!!もう黙れ!あとそのなんか首をかしげんのやめろ!」 「はぁぁあ?…大丈夫?流石にあまりお勧めしないけど新羅に診てもらったら?顔赤いよ?」 「だ ま れ !!」 ******** 久々の更新がこんなのでごめんなさい^p^ 楽しかったです!すごく! [*前] | [次#] ← |