水中ラブロマンス




・来神時代シズイザ





ここ数ヶ月の間、俺と臨也にはお決まりと言ってもいいやり取りがある。変な言い方だが表現を間違ってはいない。付き合い始めてから今までずっと続いているやり取りだ。
そしてそれは今日も例外無く行われる。


「手ぇ貸せ」

「嫌だね」


間髪入れずに返ってくる臨也の返事にイライラが募る。ほんの5秒にも満たないこの会話を俺と臨也は飽きもせず毎日毎日繰り返している。


つまるところそう、臨也は絶っっ対に俺と手を繋ごうとはしない。したくないらしい。


最初の頃は俺が臨也の手を緊張して握り潰してしまうことを恐れているのかと思っていたが、聞けばどうやらそんなことは関係ないらしい。だからといって何が原因なのかと問えば、頑として言おうとしない。抱き締めたりキスをしたりすることには何の抵抗も見せないくせに、どさくさに紛れて手を繋ごうとすれば全力で拒まれる。どうしても俺と手を繋ぎたくないらしいが、ここまでされるとかなり凹む。


「手前よ、俺のこと嫌いだろ」

「そっ、それを聞くのは反則なんじゃない!?」


ほんの少しだけ前を歩く臨也に問いかければ、夕日に照らされていても十二分にわかるほど顔を赤くさせる。臨也が自分を嫌いではないということぐらいわかっている。だからこそ臨也の意図が掴めない。
でも、このままではいられない。拒否されればされるほどやりたくなってくるし、意地も出てくる。今日こそは絶対に理由を聞き出そうと、いつもよりも真剣な顔で臨也の目を見据える。


「だったら理由を言え」

「……………」

「こっちだって理由もなく拒まれたら不安になんだよ」


だから言え。と、諭すように言えば、臨也は視線をきょろきょろとさ迷わせながら小さな声で何かを呟いた。


「あ?聞こえねぇよ」

「…だからっ、……手汗かくから恥ずかしいんだって…」


言い切ってから居たたまれなくなったのか、臨也は物凄い速さで走って逃げていった。
その背中を呆気にとられて見送ってしまった俺は、すぐに携帯を開いてメールを打ち始めた。












『明日プールに行くぞ』


そんな突拍子もないメールを確認したのは、昨日シズちゃんから全速力で家に逃げ帰ってきてからだった。何故プール?もしかして俺はシズちゃんに水没させられるのか?と、考えて冷や汗が出るが、それでこの誘いを断ったとしても家に乗り込まれて拉致されるのが目に見えている。大体、シズちゃんに力で勝とうとするのがおかしいのだ。今練習しているパルクールを取得すれば少しは張り合えるのかもしれないが。


そんなわけで俺は今、海水パンツ姿で市民プールに来ている。隣で準備体操をしているシズちゃんをじとりとした目で睨めば、「お前もやっとけ」なんて真面目なことを言ってきやがった。何だよ、昨日は少し悪かったかななんて反省していたというのに、本人はいつも通りじゃないか。
それでもシズちゃんの肌が焼けると可哀想だと心配した心優しい俺が日焼け止めクリームを差し出してやると、何を勘違いしたのかそのまま腕を引かれ、あろうことか流れるような動きで肩に担がれ、あっという間に俺はプールへと入れられてしまった。


「ちょっと待て!」

「んだよ」

「俺は日焼け止めを渡したのであって、プールに入れてくれなんて言ってないからね!?」

「ごちゃごちゃうっせぇな。そんなに喋りてぇなら水中で喋りやがれ。その方が静かでずっと良い」

「何なの?馬鹿なの?死ぬの?」


何やら今日は強気なシズちゃんは溜め息を吐いた後、自ら水中に頭まで浸かり始めた。逆に自分が水中に潜れば煩い声を聞かなくても済むと考えたのだろうか。何だかカチンときた俺はシズちゃんにつられるように水中へ潜った。太陽の熱い光を受けた髪の毛は水に浸かると冷たくて思わず目を瞑る。

直後、



ぎゅっ



その一瞬の隙を突くかのようにシズちゃんの大きな手が俺の手を握った。


びっくりして思わず水中から顔を出すと、してやったり顔のシズちゃんが見せ付けるように繋がれた手を俺の目の前に差し出す。


「全身が濡れれば手汗なんてわかんねぇだろ」


どうだ!と、自慢気なシズちゃんが嬉しそうに笑っている。馬鹿だ。物凄く馬鹿みたいな笑顔だ。全身がむず痒くなって、水がやけに冷たく感じられる。まだプールに入るのは早かったのではないか、とか。そんなに力を入れられると折れる、とか。吐きたい悪態は沢山あったが、不思議と言葉にはできなかった。





「…………今日だけだからね」

「ふざけんな」








********



携帯で打つと、遅い上に話がまとまらなくて大変です…
クオリティに変わりはありませんがね!
臨也…オトメンすぎましたかね…



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