空には青を、君には愛を!






・臨也誕生日企画!





目が覚めると自分が寝巻き姿ではないことに気付いた。


「…結局あのまま寝ちゃったんだ」


しょうがない、風呂に入るか。時計を見ると針は6時を差していて、そういえば今日はそんなに急ぎの用もなかったななんて考えながら部屋を出る。が、向かい側にある洗面所の扉を開こうとしてある異変に気がついた。


(何か、甘い匂いがする)


寝起きですっかり気を抜いていて気がつかなかったが、人の気配もする。そっと部屋からナイフを取ってきて一階を覗き見る。すると、微かだがキッチンの方から何か物音が聞こえた。波江さんか、とも考えたが、彼女が今日来ないと言ったからには弟君に関係がない限りここへ訪れることは絶対にありえないだろう。

相手に気付かれないようにそろそろと階段を降りていくと、想像もしなかった光景が広がっていた。


「……何で君がここにいるわけ?」

「げっ…もう起きてきやがったのかよ」


なんとシズちゃんが、あの平和島静雄がエプロンをして料理をしているではないか。しかも、俺の家のキッチンで。…え、何これ、新手の嫌がらせ?


「人の家で勝手に料理しているような人間が、何で家主が起きてきたぐらいで驚いてるわけ。ていうか、鍵はどうしたんだよ」

「鍵なら昨日俺の家のポストに入ってた」

「はぁっ!!?何で、…くそっ、あいつか!!」


すぐさまパソコンを開くと、図ったかのようなタイミングでメールが届いた。


『ささやかだが、俺からのプレゼントだ。ありがたく受け取れ折原』


差出人は書かれていなかったが、これは間違いなく九十九屋の仕業だ。俺をおちょくるような人間は奴しかいない。混乱する頭をなんとか落ち着かせてから、未だに料理を続けるシズちゃんの元へと歩み寄る。


「鍵の件はまぁ…しょうがないとしても、そのことが君が俺の家で料理をしていることとは関係ない。しかもこんな朝っぱらから…一体どういうつもり?」

「野菜は新羅からで、料理の本はセルティから。あと、コーヒーの豆は門田からだ」

「だから、そういうことを聞いてるんじゃなくて……え、何でそこで新羅と運び屋とドタチンの名前が出るわけ?」

「……手前ってよぉ、本当は結構馬鹿だよな」

「…誰が馬鹿だって?」


不法侵入者に何故馬鹿呼ばわりされなければいけないんだと怒ると、面倒くさそうに手をひらひらとされてあしらわれた。他にも聞きたいことは山ほどある。例えば、仕事はどうしたんだとか、何故わざわざ大嫌いな俺の家に来たのかとか、それ以前に何故俺と話していてもキレないのかとか。まさか俺の頭でさえ情報処理が出来ない日が来るとは思わなかったが、それがまさか自分の誕生日だったとは。……誕生日?


「…え、俺の誕生日?」

「今頃気付いたのかよ。やっぱノミ蟲並みの脳みそだな手前は」

「いや、だって、今日俺は秘書と過ごすって昨日言ったよね?何でわざわざ来たの?今日の池袋に俺は現れないから仕事もスムーズに片付くだろうに。…あぁ、そっか。またあの時みたいに邪魔するつもりなのかな、シズちゃんは」


シズちゃんは黙って料理を続けている。俺の方には見向きもせずにてきぱきと料理をする姿に苛立った俺は勢いに任せて口を動かした。


「そういえばあの日も俺の誕生日だったよね。誕生日に告白してくるなんて女子高生の考えそうな実に安いロマンティックな演出だと思うけど、まさか誕生日を命日にしようだなんて奇特なサプライズを考える人間がこんなにも近くにいたとは」


シズちゃんは黙っている。フライパンで焼いていたものを皿に移したり何かを包丁で刻んだり、俺の言っていることなどお構いなしといった態度だ。何よりそのことが無性に気に入らなくて。


「そうそう、あの日君がわざわざ持って来てくれた例のプレゼントの中身を教えてあげようか?カラだったよ。君は何も入っていないつぶれた箱を俺に届けるためだけに、大嫌いな俺を手当てしたんだよ。馬鹿だよね!まったく…シズちゃんは、これだから…」


勢い任せでまくし立てたせいか呼吸が苦しくなってきた。目頭が熱くて鼻がツンと痛い。
トントンと聞こえていた包丁の音が止まって、シズちゃんが近付いてきた。避けようと思ったが、ふらついたところを強い力で強引に引き寄せられてしまった。どうせ無駄だろうと思いながらも出来る限りの力で抵抗をしてみる。


「暴れんなっつーの!」

「嫌、だっ!ふざけんな!離れろよ!」


必死に仕込んでいたナイフで腹を刺してみたが、やはりというかなんというかナイフが欠けるという超常現象が起きてしまった。一応痛覚はあるらしいシズちゃんは眉間に皺を寄せたが、それでも俺を離す気はないらしく、それどころか更に力を込めてきやがった。


「手前は昔からそうだ、そうやって俺の話なんか聞こうともしねぇんだ!」

「ハッ、シズちゃんの話?何言って「いいから聞けっ!!」


耳元で大声を出された俺は流石に口をつぐんだ。


「…俺は、手前が好きだ。高校の時からずっと好きだった。さっき手前が言ってた告白の邪魔もわざとだし、プレゼントの中身を抜き取ったのも俺だ」

「…何、それ……」

「中身を知りてぇか。…あの箱の中身は指輪が入ってた。それも、ペアリングだ。悪ぃことしたとは思っている。が、それとこれとは話は別だ。あの後どうせ手前は返事もろくにせず箱も捨てたんだろうからよ」

「っ、」


体が強張って喉が渇いてきた。何で俺はこんなことになったんだっけ。何で、俺はシズちゃんに抱きしめられてるんだっけ。


「昨日新羅にも言われた。手前は性格が捻じ曲がってるから俺から歩み寄れってよ。だから、やってみた。門田やセルティにも相談して、俺に出来ることをやった。料理は、セルティの案だ。最初はドアを壊して入ろうと思ってたんだけどよ、何故か俺のポストに手前の家の鍵だって書かれた封筒が入ってたからそれを使った。あとは…あぁ、仕事なら今日は休ませてもらった。手前が俺に質問したいことってのはこれぐらいだな。どうだ、満足か?」

「…意味が分からない」

「あぁ?これ以上に何を説明しろってんだよ」

「そうじゃなくて…シズちゃんが、俺を好き?……ははっ、エイプリルフールなら1ヶ月前に終わったよ?」

「……臨也、」

「だって、君は俺が大嫌いで、俺も君が大嫌いで…じゃないと、駄目なんだ!もう戻れなくなるし、だって、俺は、…一度手にしたものを離す気はない、から…」


目から何か熱いものが零れて、それを誤魔化すかのようにシズちゃんの背中へ腕をまわす。


「俺、も…好きだよ、シズちゃん…っ」


ぼろぼろと涙やら感情やら、零れだしたものは止まることなくシズちゃんの服にシミを作っていく。あぁ、怒られるな、なんて思ったのはどうやら無駄な心配だったようで。シズちゃんは俺の頭を撫でてから、額にキスをしてきた。余計に止まらなくなるだろうと怒りたかったが、今度は口にキスを落とされてそれも叶わずじまいに終わった。







「ところでよ、手前、その…いいのか?」

「何が?」


シズちゃんの作った無駄に豪華な朝食(因みに甘い匂いの正体はフレンチトーストだった)を食べていると、シズちゃんがしきりに時計を気にしている姿が目に入った。


「もうすぐ秘書も来るんじゃねぇのか?…俺がいても大丈夫なのかよ」

「は?…まさかとは思うけど、それまだ信じてたの?」

「………嘘だったのか」

「あんだけ熱烈な告白をしてきたから、てっきりもう気付いてるものだと思ってたよ」


カァッと顔を赤くして照れるシズちゃんに「何を今更照れてるのさ」と言えば、何かを思い出したように小さな箱を持って俺の隣にやってきた。


「これは、俺からだ」

「…うはっ、指輪とかいきなり重いよシズちゃん」

はめて、と左手の薬指を差し出せば怒らずに従ってくれるシズちゃん。その光景はとても違和感のあるものだったが、それは同時に俺がずっと望んでいたものだった。


土砂降りだった雨はすっかり止んでいて、空には青空が広がっている。



「誕生日おめでとう」

「ありがとう、シズちゃん」







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長くなってしまいましたが、臨也おめでとう!
2人はずっと幸せでいればいいよ!


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