空には青を、君には愛を!




・臨也誕生日企画!





その日は稀に見るような土砂降りで、そして俺の誕生日だった。

どこで知ったのか、今となっては顔も覚えていない女生徒が俺に誕生日プレゼントを添えて告白してきたのもその日の放課後だった。

別に俺は好きでもないのに一方的に思いを告げられて。

あの時の俺はきっと、自分でも気付かないうちに嫌悪感を顔に出していたのだろう。


「おいこらノミ蟲!手前んなとこにいやがったのか!」


だから、空気の読めないシズちゃんが教室に入ってきた時は心からほっとして思わず笑ってしまったのを覚えている。


「シズちゃんさぁ、ほんっと空気読めないよねぇ」

「んだとぉっ!!今日という今日は絶対ぇにぶっ飛ばしてやるからよぉ…大人しく俺に捕まって殴られろやくそノミ蟲ィィイ!!」

「告白の現場に土足で入ってきた上にそれをぶち壊すだなんて最低だねシズちゃん。でもだからと言って俺が大人しく捕まらないの知ってるでしょう、がっ!」


がしゃんと派手な音を立てて割れた窓ガラスの破片と共に、俺は外へ飛び出した。まさかの展開に硬直していた女生徒も、ようやく状況を理解したのか悲鳴をあげてどこかへと消えてしまったようだ。さて、シズちゃんに追い付かれるのも時間の問題だ。とりあえず学校の外に出てから撒こうと決めた俺は校門の外へと走り出した。



とにかく路地に逃げ込もうと、手当たり次第知っている裏道を駆使して走っていた俺は今、狭い道の行き止まりに座り込んでいた。ただでさえ土砂降りで視界が悪いというのに、俺の右足からは血が出ていて動けなくなってしまったのだ。シズちゃんから逃げることに必死で気付かなかったが、窓を割って外に飛び出した時に不覚にも切ってしまったようだ。とんだ誕生日だ。ひとりでそうごちたところで返事が返ってくることはないと分かりきっている。日もとっぷりと暮れていて、その上ここは狭い路地裏だ。人がそうそう入ってくる可能性はない。誰か適当に呼ぼうかとも思ったが、存外疲れていたらしい俺の体は動いてくれなかった。


ほんとうに、とんだ誕生日だ。


ずきずきと鈍い痛みが右足を襲うが、そんなことは最早どうでもよくなってきていた。
シズちゃんはもう帰っただろうか、と考えたところで息が止まりかけた。

じゃり、と人の近づいてくる音が聞こえたのだ。

もし俺に恨みを持っている人間だとしたら少しまずい状況だ。近くにあったゴミ袋の陰に隠れようと動くと、人影が凄い速さで俺に近付き、そして俺の襟首を掴んであろうことかそのまま持ち上げたのだ。何をかって?俺を、だよ。


反射的にナイフを取り出して相手の腹に刺してみるが、ナイフを通じて伝わったのは鉄板に突き立てたような感覚だった。


「痛っってぇなコラ!!大人しくしやがれ!!」

「っ!?し…シズちゃ、ん…!?」


まるで猫を掴むかのような形で俺を持ち上げていたのは、紛れもなくシズちゃんで。どこで買ったのか、ビニール傘を差しているシズちゃんは俺の右足を見るとそのまま肩に担ぎ上げて歩き出した。


「ちょっ、ちょっと待って!どこに向かってんの!?」

「あぁ?うるせぇ、黙んねぇと一生しゃべれなくすんぞ」

「……………」


シズちゃんの言うことに従うのはとてつもなく癪だが、状況が状況なだけあって逆らったら何をされるかわからない。言う通り黙った俺に満足したのか、シズちゃんはそのまま近くの高架下まで俺を運んだ。
まさか人目のつかないところで殴り殺されるのか、俺は。なんて笑える想像をしていた俺を余所に、シズちゃんは鞄から包帯を取り出した。……あぁ、なるほど、絞殺か。盲点だったよシズちゃん。


「まさか君が殴る・投げる以外の殺人スキルを兼ね備えていたとはね…」

「何言ってんだ手前。ほら、さっさと足出しやがれ」


出せ、なんて言った割には強引に足を掴みやがったシズちゃんにぎょっとしていると、以外にも器用な手つきで俺の傷口を手当しだした。


「…何やってんの、シズちゃん」

「包帯巻いてんだよ。そんなことも分かんねぇのか手前は」

「そうじゃなくて、何で俺にそんなことしてるのかって聞いてるの」


シズちゃんは俺の質問には答えず、黙々と手当てを続けた。俺もそれ以上は何も聞きたくなくて黙ってされるがままにさせた。


「…あのよ、これ忘れてたぞ」


差し出されたのは少しつぶれてしまった箱だった。何だこれはと目で訴えると、シズちゃんは言いにくそうに目線を泳がせてから小さく「手前へのプレゼントだ」と言った。
暗くてよく見えないが、確かに俺はさっきの女生徒から渡されたプレゼントを教室に置きっぱなしにしたかもしれない。


「まさかこれを届けに来てくれた、とか?」

「…俺は、人からの行為を無駄にする奴が大嫌いなんだよ」


別に、明日は休みというわけではないのだからわざわざ今日持ってきてもらわなくてもよかったのに。大体、君はそれ以前に俺のことが大嫌いなんでしょうが。…まぁ、大嫌いの2乗になるぐらいならいいか。だから敢えてそうは言わずに、


「そう。ご丁寧にどうも」


と、だけ言って。シズちゃんも特に何も言わなくて。それからお互いが帰路に着くまで一言もしゃべらなかった。



これが、俺とシズちゃんが交わした唯一まともな会話だった。







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次こそはラストォ!


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