空には青を、君には愛を!



・臨也誕生日企画!





たまには、あのすかした顔を驚かせてみないかい?


せっせと治療をしていた新羅がふと顔を上げてニヤニヤと笑う。すかした顔とは、誰のことだ。なんて分かりきった質問はしなかった。


「…どうでもいい」

「またまた〜」


ぱちんと包帯を切る音が聞こえて、それから「はい。おしまい」という新羅の声。ポンポンと包帯を巻かれたばかりの腕を叩かれたことにイライラして振りほどけば、やれやれと首を振られた。


「臨也も相当だけど、君も大概だよね」

「何の話だ」

「いやぁ、君がこんな傷を負うなんて珍しいよね。対静雄用に新しいナイフでも仕入れたのかな」

「……話を逸らすな」


イライラを隠すことなく声に出せば、怯まずに苦笑いを返された。たしかに、臨也はナイフを新調していたのかもしれない。けれども怪我を負ったのは他でもない自分が気を抜いていたからであって。悔しさや腹立たしさは勿論あるが、それ以上に情けなさが溢れていて。


「明日だよね、臨也の誕生日」

「……………」

「まさか君が知っているとは思わなかったなぁ」

「…アイツが自分で言ってきやがったんだよ。秘書の女が祝ってくれるからその日は池袋には来れないんだってよ。清々するぜ」


俺としてはノミ蟲がブクロに来ないということはつまりイライラしなくても済む…はずだった。池袋のどこにいたって匂いでわかるぐらい俺の平和な時間は臨也に邪魔されている。アイツがこの世に存在している限り俺に平穏な時間は訪れないのではないかと思ってしまうぐらいだ。

…なのに、


「その割りにはあまり嬉しそうには見えないけど…あぁっ!眼鏡に手を出すのはやめてよ!それがないとセルティの美しくも愛らしい姿を見れなくなるじゃないかっ!」


取り上げた眼鏡をぎゃぁぎゃぁと騒ぐ新羅に返して座っていた椅子にふんぞり返る。新羅は眼鏡をかけなおすと苦笑いをして俺と向き直った。


「こう言っちゃ何だけど、僕は他の人間よりも臨也と君の事を知っているつもりだし、理解もしているつもりだ」

「…俺は何も、」

「君はもう気付いているはずだよ。そろそろ自分自身と向き合ってみるのもいいんじゃないかな。臨也は君も知っての通り性格が捻じ曲がっている。でもその点にかんして君は臨也とはうって変わって素直な性格だと思うよ。だからさ、これを機に君からアクションを起こしてもいいと思うんだ」


だろ?と、諭すように俺を見る新羅の目は逸らされることはなかった。













「そういえばあなた明日誕生日なんですってね」


普段は全く俺のプライベートには興味のない部下が帰り際にそう口にした時は流石に驚いた。


「へぇ、君にもまだ弟君以外に向ける興味が残っていたとはね」

「ふざけないで頂戴。私の頭の中はいつだって誠二で埋め尽くされているわ。ただ、あなたが産まれてしまったというだけでも迷惑なのに、そのことに私を巻き込むというだなんて心底不愉快極まりないことだって伝えておきたかっただけよ」

「…それ、誰に聞いたのかな」

「そういうわけで私、明日は休ませてもらうわ。安心しなさい。やるべきことは明日の分まできっちり終わらせてあるから」

「え、ちょっ、波江さん!」

「素敵な誕生日を」


ぴしゃり、と言い放った言葉は乱暴に閉められたドアに遮られてよく聞き取れなかったが、感情がこもっていなかったことは確かだ。
さて、どうするか。波江さんが一体誰にそのことを吹き込まれたのかはなんとなく予想はつく。九十九屋だ。奴がメールか何かで彼女に教えたのだろう。


「……まぁ、明日は池袋には行かないし大丈夫だよね」


そう自分に言い聞かせて寝室へ続く階段を上る。素直になれないのは今も昔も変わらない。特に、あの男に対しては。俺は元々素直な性格とは程遠い歪んだ性格をしていると自負している。そんな俺がたとえ自分の気持ちを素直に言ったところでどうなるというのだ。奴は絶対に信じない。だって、俺のことが大嫌いだから。今更そんなことを気にしても遅いのだ。

ぼすん、とベッドに寝転がると思い出されるのはまだ自分が高校生だった頃の記憶。そうだ、たしかあの頃だ。一度だけ、たった一度だけシズちゃんとまともに話したのは。きっとこの先起こりうることはないだろう、と思ってずっと封印してきた記憶だ。

まさか今このタイミングで思い出すなんてなぁ。と、笑えば零れるのは嘲笑で。


知らぬ間に降り出した雨の音を聞きながら、俺は静かに眠りに落ちた。



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後編へ続く…!

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