予知してました



「ねぇシズちゃん、知ってる?人間って死の縁にたたされると、本能的に子孫を残そうとして性欲が急激に高まるんだって。戦場でゲイが増えるのってこれが原因らしいよ」

「その話がこの状況とどう関係あるんだ」


臨也が俺に馬乗りにされた状態で心底可笑しそうに笑う。両腕をまとめて臨也の頭上で押さえつけ空いた方の手で首を絞めているのにも関わらず、だ。


「アハハ!何言ってんのシズちゃん。これ以上条件を満たしている状況はないよ。俺はシズちゃんに追い掛け回された上に殴られてこの通りボロボロ。反吐が出そうなぐらい悔しいけどギリギリな状態。で、シズちゃんは今まさに俺にとどめを刺す為に馬乗り中。…ね?今の俺、死の縁にたたされるっていう言葉がぴったりだと思うんだけどなぁ?」


暗闇の中、臨也の赤い目がやけに輝いている。相当苦しいだろうに、その瞳は細められたまま俺から視線を外そうとしない。


「黙れノミ虫。つーことは何か?お前は今まさに性欲が高まってるっていう状況なわけか?気色悪ぃ」

「ちょっと、何勘違いしてんの?んなわけないじゃん。馬鹿?一体何に対してそんなにイライラしてるのか知らないけどさ。いい加減どいてくんない?」


臨也の言葉に少しだけ首を絞める手に力が篭る。一瞬苦しそうな声を上げたが、すぐにまたニヤニヤとした俺の嫌いな笑顔に戻った。
別に俺はイライラなんてしてねぇ。臨也を見た途端に怒りがこみ上げてくるのはいつものことだし、イライラだってする。

けど今は違う。

俺の下で苦しそうな呼吸を繰り返しつつ、余裕ぶっている笑顔を浮かべる臨也を見ていると気分がいい。

そうだ、俺は今気分がいいんだ。


「………はぁ、もういいよ。分かった」


降参、と言わんばかりの溜め息を吐いて目を閉じる臨也。


「ホント、つくづくシズちゃんってば馬鹿だよね。俺が今まで出会ったどの人間よりも馬鹿だよ。よかったね。…あぁー……頭回らなくなってきた」


苦しそうにぜぇぜぇと息をしているが構うものか。


「でさ、そんな頭の回転が鈍くなった俺でも今分かった事が一つあるんだ。聞きたい?」

「……………」

「沈黙は肯定と取るからね。……シズちゃんさぁ、嫉妬してるでしょ。俺がさっきホテルから出てきたところ見てたみたいだし」

「……………」

「…………………」「……………………」

「……………シズちゃん、」

「―――馬鹿か、手前は」


そうだ。その言葉そっくりそのまま手前に返してやるよ。馬鹿は手前だ、臨也。


「俺が手前なんかの為に嫉妬するだぁ?笑わせんな。手前がどこで誰とナニしようが俺には関係ねぇし興味もねぇんだよ」

「…………」

「けどな、手前を泣かすのも苦しませるのも殺すのも俺だけで十分だっ!」


覚えとけ!と吐き捨てると、赤い目が大きく開かれた。今は暗闇で分からねぇが、さっきこいつがそういうホテルから出て来るのを見た時、確かにこいつの目は少し腫れていた。今も残ってるだろう。臨也を見つけてからのことはよく覚えてねぇが、気がついたらボロボロになった臨也が俺の下で苦しそうに息をしていた。

ほんと、どうかしてるぜ今日の俺。


「………それを世間一般では嫉妬って言うんだけどなぁ」

「だから嫉妬じゃねぇって言ってんだろーが!」


嫉妬じゃねぇ。嫉妬なんかじゃねぇんだよ!誰が手前なんかに、そんな…ありえねぇだろーが!


「分かった、じゃあこれでおしまいにしようよ。さすがの俺でもこの状態はキツい」

「…あ?」

「本当は言うつもりじゃなかったんだけどな。まぁ、この際だから教えてあげるよ。………俺は、シズちゃんが好きだ。愛してる。一人の人間としてね。シズちゃんはね、俺の中の人間っていうカテゴリに入らないんだよ。これはもう大嫌いになるかその逆でしか意味を成さない存在なんだよ。シズちゃんには分かるかなぁ?」


思わず手から力が抜けたが、臨也はもう逃げようとはしなかった。


「…何が言いてぇんだ」

「高校の時は確かにシズちゃんが大嫌いだったよ?殺したいぐらいにね。だけどさ、こうやって追い掛け回されたり喧嘩してるうちに気がついたらシズちゃんを大好きになってた。笑っちゃうよね。…あぁもう、一生言うつもりじゃなかったのに。死ねよシズちゃん」


駄目だ、思考が追いつかねぇ。臨也が俺を…なんだって?



……………好き?



………はっ、……何言ってんだこいつ。


「あ、もしかして疑ってる?」

「…たりめぇだ。手前は信用ならねぇ。今も昔もな」

「心外だなぁ、これは本心なのに。でもさ、シズちゃんも俺が好きでしょ?」

「っ、!?……んなわけ、」

「じゃあ何でさっき俺が泣いてたって分かったの?相当意識して見ないと泣いてたかなんて分かんないじゃん」


言葉に詰まった俺を追い詰めるように臨也の言葉が重なる。完全に臨也のペースになってしまった。




…心底うぜぇが、





「それは……」





何も言い返せない俺自身が一番うぜぇ。


…何やってんだよ、俺。




「なんならさっき泣いてた理由教えてあげようか。特別にタダでさ」


聞きたくねぇ。

聞きたくねぇ!

手前が泣いた理由なんて、そんなの、俺には関係ねぇ…っ!


まるで警告を表すかのように耳がキィンと耳鳴りを起こしている。


「俺さ、もう限界だったんだよ。らしくないよねぇ。この俺がシズちゃん如きにここまで精神的に追い詰められるなんてさ。実に良くない。因みに言うとさっきホテルで会ってた男は取引相手だよ。取引をした後で俺を抱きたいって言ってきてさ。俺は別にそれがSEX初体験っていうわけでもなかったし、今後もいい情報を提供してくれるって言うことで正直結構ノリ気だったんだよ。…なのにさ、いざ抱かれるってなった途端にシズちゃんの声がね、聞こえたんだよ」

「!」

「………そんで、その男突き飛ばして逃げてきた。泣くつもりなんてなかったはずなんだけど生理的な涙ってやつ?」


すぅっと自分の中のもやもやとした黒いものが消えていく気がした。…いや、何でだよ。それじゃ俺がこいつの言うとおりに嫉妬したみたいじゃねぇかよ。…いやいや、おかしいだろ。


「あ、一応言っとくけど初体験じゃないっていうのは女の子との事であって、男同士の方は未経験だからね?」


……こいつ、いつの間にか呼吸元に戻ってるじゃねぇか。何でだ、何で俺の方がこんなに息苦しくなってんだ。何でこんなに顔が熱くなってんだ。何でだよ、畜生!


「ねぇ、シズちゃん。俺の中のシズちゃんがあの時何て言ったか聞きたい?」

「…聞きたくねぇ」

「えー?ごめん聞こえないや。あのねぇ、『手前を泣かすのも苦しませるのも殺すのも俺だけで十分だっ!』って聞こえたんだよ。しかもめちゃくちゃ必死な声で、まるで叫んでるみたいに」

「聞きたくねぇって言っただろーがよ!」

「だって、聞きたそうな声だったからさ。違うの?」


こいつ、楽しんでやがる…!自分でも驚いたが、臨也が聞いたという俺の言葉を聞いた時には最早怒りと言う感情は存在していなかった。あの臨也が目の前にいるっていうのに、ありえねぇ。


「まさか本人が同じ事を言うもんだからびっくりしたよ。もしかしてあれって予知能力?だとしたら俺って凄くない?…………ところでシズちゃん、返事は?」

「………何がだ」

「俺の告白に対する返事は?」

「……………」


今日の俺は何か変だ。臨也の言葉にいちいち惑わされて、こんなに息苦しくなるなんて。絶対何か変だ。だから、喉まで出かかっているこの言葉は、あれだ、気のせいだ。うん。


「…ねぇ、シズちゃん。俺だってさ、シズちゃんの本当の気持ち聞きたいな」


俺が力を緩めていたのをいい事に、臨也はむくりと起き上がって俺の首に抱きついてきた。


「ほら、こうすれば俺の顔見えないでしょ?…俺もシズちゃんの顔見えないからさ、遠慮せずにいつもみたいに言ってくれていいんだよ」

「〜〜〜っ!くそ…っ!何なんだお前は!」


そんな弱っちぃ声出すな!そんな事言われたら、もう―――






戻れなくなっちまうじゃねぇか、糞ノミ蟲が。







「俺は、人を馬鹿にしてうざくて理屈ばっかり並べるノミ蟲が大嫌いだ」


ぎゅっと服を掴まれた手が震えた気がした。


「……そっ、か。…シズちゃん、ごめ」

「話は最後まで聞け。……でもよぉ、人間らしい折原臨也は好き…かもしんねぇ」

「っ!」

「だからもう一度言う。手前を泣かすのも苦しませるのも殺すのも俺だけで十分だっ!俺以外の奴のところなんかに行かなくてもいいように、手前は俺だけでいっぱいいっぱいになってればいいんだよ。分かったか」

「…相変わらず予想外だよ、シズちゃん」


俺だって予想外だ。でも首元に感じた雫は自分でも気づかないうちに予知していた気がした。なんとなくだけど。







********



何が書きたかったのか分からなくなった上に長くなってしまって私もびっくりした。ボキャブラリの少なさにもの凄くびっくりした。

- 1 -


[*前] | [次#]






( prev : top : next )

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -