ガチャリと音がしてその後にただいま、という声が聞こえた。その声に反応して私は洗い物で濡れた手を拭くと、急いで玄関へと駆ける。
「鉄平さん、おかえりなさい!」
そう微笑めば、鉄平さんもニコリと笑ってもう一度ただいまと言った。
リビングのソファーに腰を下ろす鉄平さんにキッチンから声を掛ける。
「ご飯もうすぐなんです、だから少し待っ「その前に、大事な話があります」
少し真剣味を帯びた鉄平さんが私を見つめる。
おいでと言うようにちょいちょいと手を動かしたのを見て、手に持ったおたまを置いてソファーの横に立つ。そうすると、ポンポンと自分の横を叩くのでちょこんとお邪魔させてもらった。
大事な話ってなんだろう。
もう私には飽きたとか?それこそ別れようとか?
そんなネガティブな思考ばかりが脳裏に浮かんでそれを考えれば考えるほど苦しくなって、じわりじわりと涙が目元に浮かんだ。
「私が、嫌いになりましたか?」
涙の浮かんだ瞳を見られないように俯き加減に恐る恐る問う。はっとしたように喉を鳴らして顔を歪める鉄平さんを見て、やっぱりそうなんだと悲しくなった。
「気付かないでごめ…っ」
ごめんなさいと最後まで言う前に視界が黒く染まる。鉄平さんの匂いが近くに感じた。
抱きしめられている。
いつもは安心する感覚なのに今は何で抱きしめるのと当惑してするばかりだ。
何で、何で、何で、
私が嫌いになったんでしょう?
そんな中耳元で声がした。
「勘違いさせてすみません。名前のことが嫌いになった訳ではありませんよ」
「え、?」
鉄平さんから言われた言葉に拍子抜けして思わずポカンと鉄平さんを見た。きっと今の私はものすごく間抜けな顔だろうけど、そんなのは今は関係ない。
「大事な話というのはですね、私がプロへ行くということですよ」
え?プロ?プロって…
「プロ入り?!えぇっ!!」
何それ!何も聞いてない!
思わず大声を上げる。鉄平さんの顔をじとっと見つめた。
「何も話さずにすみません、確証はなかったので」
黙っていました、と鉄平さんは申し訳なさそうに苦笑している。
「でも、もう一度夢を追いかけてみたかったんです」
江ノ高の皆を見ていたら、選手としてピッチに立ってみたくなったんです。
キラキラと輝いている笑顔を鉄平さんは浮かべた。
もっと早く言ってくれれば良かったのに。
だけど、そうやって語る鉄平さんはなんだか少年のようで、まぁ、良いかなんて思ってしまう私は鉄平さんに甘い。
日生蒼響さまへ相互記念として捧げます!初書き岩城ちゃんでしたが、個人的には楽しかったです。相互ありがとうございました!
(120213)