「夢中になるのが、こわいの」
俺の想い人はそう零した。
夢中になるのが怖い。
そう彼女が言うのには勿論理由があり、突拍子もないことを言ってる訳ではない。
その彼女、名前には付き合っていた男がいた。
付き合うことになったと言われたときは頭が真っ白になったが、彼女が幸せならと自分は諦めていた。
それなのに奴は彼女を、名前を、捨てた。たった一ヶ月。
幸せそうだった彼女の面影は今は見る影もない。ただ悲しそうに笑って時折ぽろぽろと雫を降らすだけ。
彼女の話を聞いて、奴が許せなくて俺なら幸せにするのに、と何度思ったことだろう。
付き合うということに敏感な今の名前に告白したのは間違いだったと思い知らされた。
「また依存していつか捨てられたら、って思ったら、受け入れられないの」
だから、飛鳥ごめんね。
そうして泣きじゃくる彼女を俺は構わず抱きしめの瞳の奥を見透かすようにして言う。
「俺は名前を愛してる、そんな思いはさせないから」
俺を信じてくれ、
言葉にしなくても意味は通じたはずだ。
信じてほしい。
頼ってほしい。
これは己のエゴに過ぎないかもしれない。
それでもどうしようもなく彼女に対する欲求は溢れるばかりで自分は何をしているんだろうかとか困らせているだけじゃないのかと自責の念に駆られた。
だが、仮にそうだとしても、
「優しさも幸せも愛しさも全部、俺があげたい」
ぽろぽろと零れていた涙はいつのまにか雨になっていた。
顔を覆った手を外してあらわになったその泣き顔は世界で一番美しいと感じた。
その口が言の葉を紡ぐ。
「あすか、すき、だいすき」
「愛してる」
そうして愛を囁いて名前との距離が狭まる。
少しだけ掠めた彼女の口唇は涙の味がしたけど、幸せが広がっていた。
那智さまへの相互記念:)
まさかのシリアス系飛那ですいませ…!><甘さもあまりないという…。書き直しは随時受け付けております!
(120206)