(不確かなもので壊れてしまわぬように確かな感情で)
いつまでこんな関係を続けるのだろう。私と彼の間には愛なんてない、ただ身体をひ たすら重ねるだけ。愛を求めている飢えた獣。そこには愛などある訳がないのに。
この関係になったのは成り行きだ。望んでなった訳じゃない。単に境遇が似てただけだ。 とはいっても彼と私では立場が違うのだが。最低男に振られた女と最低女を振った男。
彼とはたまたま久々に会っただけだというのに、そういう雰囲気になってしまって、その流れで行為に及んだという訳だ。なんて軽い理由なんだと自分でも思わずにはいられない。参ってるときって怖い。何を仕出かすか分からない。今更言ってももう遅いし、もうお互い18だから、そういうこともあるだろう、と割り切ってみるとする。
彼、基、瀬古勇太は中学時代の同級生だった。瀬古は性格こそアレだが、顔は良い。何よりサッカーが上手かった。まぁ、性格がアレだとは言ったが、好きな人には好きな部類らしい。友人がドS最高たまらない!なんて言っていたけれども、生憎私はそうではない。
それはそうと瀬古は高校はサッカー強豪校の八千草に進んだと聞いた。そんなサッカー部レギュラーな瀬古が何の取り柄もないようなただの中学時代の同級生である私とこんな汚い関係だなんて、いろんな意味で幻滅されるだろうねなんて。まあ、私は知ったこっちゃないと思っていた、けれど。
「こんなセフレ作ってヤってるなんてバレたら、どうすんのよ」
流石に相手が有名人になろうとしているのに、このまま続けるのはまずいかなぁって思うようになったのがつい最近。そこらへんはやっぱ気にして気を遣ってみた。というのに、この男は、
「バレなきゃ大丈夫だ」 「万一の話よ」 「俺がバレるようなヘマをする訳ないだろう」
相変わらず自信満々の傲慢ぶりである。本当中学を卒業してから三年も経ったというのに変わらない態度に呆れたような顔をすると怪訝そうに「何だ、その顔は」と頬を軽くだけど叩かれた。ちょっとだけ痛い。
「ねぇ、瀬古」
ベッドに肘を立てるとギシッとスプリングが軋んで音を立てる。
「何だ」
私の髪を弄りながら、話を続ける瀬古は情事を終えたあとでもいつも通り態度がでかい。 これから告げられることなど知らずに。これを聞いて瀬古はどんな反応をするのだろうか。 明かりのない薄暗い部屋、軋むベッド、愛し合った行為も瀬古の背中に付けた爪痕もこれで、もう、最後。
「もう、終わりにしない、?」
それを聞いた瀬古は何を言っているというようにギロリと私をその鋭い眼差しで睨みつけた。
「いきなりどうした」 「瀬古は来年からJリーグ入りするサッカー選手じゃん?こんな関係続けるのはもうやめにしよ。今までありがと、ごめんね」
矢継ぎ早に言って床に散らばった衣類を拾い上げた。その時、先程より深く眉間に皺を寄せた怪訝な顔が眼の端に映ったけれど、そんなのもう関係ない。私がこの部屋を出た瞬間から、彼と私の関係はなくなってリセットされるのだから。それでも瀬古のいつもより低い声が私の耳に飛び込んでくる。
「そんなのは俺様の勝手だ。名字に決められる筋合いなどない」 「瀬古、」 「それに、恋人になれば気にしなくて済む話だろ」
「は?え?」
いきなり何を言い出すのか、言われたことが良く分からなくてパッと顔を上げる。と同時に口を塞がれた。瀬古の胸をドンドンと叩いてみてもこれが男と女の違いか。びくともしない。ようやく離れて自由になった私は大きく酸素を吸い込んだ。
「だから恋人になれば良い。何度も言わせるな、物分かりが悪い奴だな」 「だって、アンタ、あたしのこと好きじゃな、んむ」
口答えをすると、ガッと顎を引かれ、もう一度キスをされた。情事中のいつもみたいな激しいキスじゃなくて、それはひどく優しい。
「遠回しに好きだと言っているのが分からんのか、お前は」 「なっ!そんなの言わなきゃ分かんないでしょ!」 「お前は俺の側にいれば良いんだ、分かったか」
一方的に告げられて頭の中が混乱してなんだか良く分からない。あれ、今私に告白した?この男。
だんだんと状況を把握した私は何故か急に恥ずかしくなって思わず俯いた。でもすぐに再び顎を掴まれて返事を要求するもんだから、コクンと小さく頷く。答えはどうせ分かっているはずなのに。 それから、やっぱり瀬古は意地悪い笑みを浮かべた。
愛なんてないと思ってた。だけど関係を続けるうちに好きになっていた。愛されていなくても幸せだと思ってた。けれど確かにそこに愛があったのだ。 どちらからともなくキスをする。それはひどく優しいキスだった。
どうしてこうなった title:a course (120704)
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