(罪を犯す舌)
※鬼丸が酷い
「名前先輩、好きなんス」 「鬼丸?」 「俺じゃ、俺じゃダメっスか?」
名前に告げる鬼丸は酷く悲しい面持ちをしていた。そして先輩である白鳥や真屋に言わせれば、わんこのような瞳とやらをしている。
「俺なら、そんなに悲しませません」
「だから、飛鳥さん止めて、俺だけを見て下さい。ね?そっちの方が悲しまなくて済むと思いますけど」
困惑する名前を臆することなく、抱きしめる。 自分のものにしたい。俺のものになれば良い。
「駄目だって、飛鳥にバレたら!」 「だいじょーぶ。バレませんよ。飛鳥さんなら委員会行きましたから」 「鬼丸!」
抵抗しようにも相手は年下とはいえ一つ下なだけ。高二の男子高生に敵う訳がない。
「気が強い名前さん、俺は好きっス」 「鬼丸、やめ、」 「春樹って呼んで下さいよ」
いつもの飄々としている鬼丸ではない。
「俺、本当に好きなんです。入学した時からずっと、好きです。飛鳥さんが相手だろうが負けたくない」
声帯を震わす程の激しい感情を鬼丸は露にした。サッカーをしている時と同じ強い意思がその瞳に宿っている。
「ちょ、待っ、」 「待てません」
名前の唇をぺろり、と舐め取る。
「嫌だ、」
嫌がる名前には目もくれず、ただ本能で動くように名前の口元に口唇を寄せる。端から見れば、キスしているようにも見えるだろう。
「いや、あすかぁ、」 「飛鳥さんの名前呼ばないで下さいよ。 目の前にいるのは俺でしょ?」
いや、やめて。そんな感情など知らぬ素振りをし、鬼丸は口を塞いだ。息が苦しくなって、じわじわと名前の目尻に涙が溜まっていく。
(あすか、たすけて)
そんなことを思ってみても飛鳥が来る訳がない。飛鳥には届かない。
愛しているが故に全部奪って、跡形も残らないように犯していく。そうして名前さんの中から飛鳥さんが消えて、なくなれば良い。俺だけを見てくれれば良い。そんなことを思いながら、名前に口付けた。
鬼丸が酷い男になってしまった (121009)
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