dream | ナノ


(下がらない微熱)

「お前が好きだよ、憎らしい程ね」


「え?」

不敵な笑みを浮かべる世良。、怖い。前々から腹黒い、腹黒いとは思ってた。けど、今日はいつもよりもっと棘があるような、気がする。こんな世良見たことない。いつもはもうちょっと(といっても本当に僅かだけど)柔らかい、と思う。


「せ、ら…?どうしたの?」
「どうしたかなんてお前が言えるの?」


世良は狂気を孕んだような笑みを深めて言い放つ。ぞくり、思わず身震いする。
ねぇ、あたし何かした?何の記憶にない。なのに、何でこんな。

「今日の世良可笑しいよ…」
「可笑しい?どこが?いつも通りだけど?」
「…違う!あたしの知ってる世良じゃない!」

いつも通りだと笑う世良は今まで一緒に過ごしてきた彼なんかじゃない。例えるなら、そう、世良の皮を被った別人。

「名字、お前は俺のとこにいれば良いんだよ」
「なんっ、」

ガッタン!と音がしたかと思えば、肩を掴まれて強引に唇を押し付けられた。

「んぅ…」

無理矢理に口をこじ開けられて、歯を舐り、口内に侵入した。舌は絡め取られ、口内を犯していく。
フランス帰りは、やっぱりキスが上手いのか、なんて考えてる暇なんかない。やばい、クラクラする。



酸素が足りなくなって苦しくなってきた頃、舌で私の口唇を舐め上げてから漸くそれは離れた。
厭らしく銀の糸が二人の間に伝う。離れた途端に何故だか物足りなく感じた。世良のそれと重なったのは、不思議と嫌、じゃなかった。

「物足りない、って顔してるね」

クスリ、と勝ち誇ったように世良が笑う。
さっきまでは恐怖心を抱いていた。否、今も世良が怖くて仕方がない。のに自分の口唇は、世良を求めている。
キス一つで溺れるあたしは軽い女だなんて思われるだろうか。

それでも、心地良く感じたのは事実だった。身体中に広がった熱は、まだ下がらない。







真っ黒世良
word:a course
(111225)