(「やくそく。」)
「わたしをとおるくんのおよめさんにして!」 「いいよ」 「やくそくだよ!」 「うん」
夢を見た。懐かしい懐かしい毎日が幸せだったあの頃の夢。あの頃は、ただ享と一緒にいるのが嬉しかった。口にするのは簡単でずっとずっと一緒にいられていずれは結婚するんだと思ってた。
やくそく、と小指を絡ませて指切りげんまんをしたあの約束は今も有効か、なんて愚問だ。幼稚園時代のあんな約束など、享はとうに忘れてしまってるだろう。
けれど、私は今でも彼に恋愛感情を向けている。淡い恋心だった。好き、と言えてしまえばどんなに楽だろうと何度も思った。でもそれを言ってしまえば、私達の幼なじみという関係は終わってしまうだろう。この均衡が崩れてしまうのなら、元に戻れなくなってしまうのなら、このままで良い。なんて思ってた矢先、
「そういや昔、嫁にしろーとか名前に言われたな」
何で、何で、今、その話引っ張ってきたの。もう、そんなの忘れていたと思うのに。忘れてしまえば良いのに。今更、
「幼いながらも結構本気だったんだがな。…今も」
え?
一瞬放心状態になったけれども最後に付け加えられた言葉は小さかったけど、ちゃんと私の耳には届いていた。
ねぇ、享。自惚れても良い?幼い約束は今も有効?って聞いても良い?
「とおる、私もずっとずっと本気だったよ、」 「本当か?」 「嘘で言わないよ、こんなこと」
目を見張って問い掛けてくる享が、二人してすれ違っていた様が、なんだか可笑しくて笑えた。あーあ、悩んでたのが馬鹿みたいじゃない。
「名前、ずっと好きだった」 「私も。飛鳥家のお嫁さんにしてね」 「あぁ」 「ふふっ、絶対よ」
昔交わしたのと同じ約束をした。けど、それから手を繋いで帰った昔とは違ってあの頃から月日流れたことを示すような。そんな甘くとろけるようなキスをした。
飛鳥さんと幼なじみ。 (111210)
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