(あと少しだけはこのままで)
好き、すき、スキ、
いくらこのたった二文字を並べてみても、彼女には伝わらない。伝えることすらできない。 こんなの、伝えちゃいけないんだ。
だって彼女、名前さんは勇太さんの彼女なんだから。悔しいけど、お似合いだ。隣に立ってるだけで絵になるってこういうことを言うんだと、この二人に出会って分かった。
俺様で自分大好きで自己中男な勇太さんとそれをもろともせず、軽くかわす名前さん。 なんだかんだ言って良いコンビだと思う。
あの二人の間には他の先輩達とは違う雰囲気が流れていた。恋人だからじゃない。互いに分かり合っている。 サッカーにおいてもそれは同じで勇太さんが指摘すれば、名前さんが分析をする。 それが成り立っているのだ。
日常でも部活でも二人で一つというような関係。
羨ましくないと言えば、嘘になる。でもあの二人は一緒にいないといけない。俺が入る隙なんて元からない。
初めて勇太さんと名前さんと出会ったのは一年の時だった。合気道で三年の先輩をやり込めたのを二人に見付かった時は、めちゃくちゃ怒られると思った。けど、
「島!なんだ?それ」 「あ、合気道ですけど、」 「合気道?凄いじゃん!島!そんなん出来んの?!」
そうだ。勇太さんは興味津々に聞いてきたし、名前さんは褒めてくれた。
思えば、最初に俺の合気道DFを一緒に作り上げてくれたのは、褒めてくれたのは二人だった。この時から、この先輩達が憧れだった。
やっぱり俺は先輩達が大好きで。二人が幸せそうに笑って、その中に俺もいて、そんな毎日が楽しくて仕方ないのだと思う。
「島、部活始めんぞ!」 「早くおいでよー!」 「ッ、今行きますよ!」
二人が俺を呼んだ。
名前さんへ伸ばした指先は空気を掠めたかもしれない。でも確かに幸せを掴んでいた。いつか俺もこの二人から離れる時が来るだろう。それでもあと少しだけはこのままで。
瀬古さんが格好良くて。 (120120)
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