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「…ん? 血のニオイがするぞぉ…?」


唐突に又兵衛がそう呟き、顔を上げた。


「誰かぁ、怪我でもしてるんですかぁ?」


無言。
勝手に着いて来て後藤の名を冠した浪人衆を名乗る木偶達が「誰だよ早く出て来いよ!」と視線を交わし合う。
しかし立ち上がる者は一向に現れず又兵衛がイライラしたように爪を噛む。


「早くぅ。さっさと…出て来いっつってんだろうがよ木偶風情が又兵衛様の命令に逆らうつもりかぁ?!」


胡座をかいた膝をバンバンと叩き、又兵衛は再び視線を巡らせる。
そろそろと、まるで早く動けば又兵衛の獲物で一閃されるかとでもいうかのように一人の男…英雄が手を挙げて発言の許可を求めた。
くい、と又兵衛は顎で指し示す。


「…又兵衛様。ここ数日は誰も、戦はしておらず…そんな香るような血の量を流すものは居ない筈、です」


そこで一部のものがハッとした表情でその英雄に口を閉ざせと身振り手振りで伝えようとした。
しかしその英雄、仲間に背を向けているため全く気が付かない。

「は、木偶如きが、さぁ? オレ様の発言に、ケチつけるわけぇ? …殺すよ?」

「そ、そんな、ケチを付けるなんてつもりはありません…!」

「あー決めた決めたあ! お前は閻魔帳第、」

又兵衛が懐に収めていた閻魔帳を取り出し、パラパラと捲り出す。英雄(処刑予定)の顔は青を通り越して既に死体のように白く染まる。
又兵衛が目的の頁を見つける前に、後ろから手が伸びてきた。


「なにやってますか、又兵衛さん」


右手は閻魔帳を取り上げ、まだ又兵衛の懐に入ったままだった小筆をも取りに行こうと左手も動く。
だが流石にそちらは取りにきた左手を掴み取られて阻止される。
まるで後ろから抱擁しているみたいだなぁいいなぁ又兵衛様。とかなんとか考えながら英雄は気を失うことにした。


「おいこらクソ#名前#、イイとこ邪魔してんじゃねぇよ!」


配下のことはもう忘れたか、気を失った様子の彼を気にも留めず#名前#の左手を掴んだままに立ち上がり、彼女を見下ろす。
#名前#は#名前#で右手にある閻魔帳でバシバシと又兵衛の掴んできた手を叩いて抵抗した。


「又兵衛さんみたいな人にでもついて来てくれているんだから大切にしてあげて下さいよ」

「ばぁか、こいつらが勝手に又兵衛様について来出したんだよぉ? だからオレ様がどう扱おうと…ん?」


噛み付いてきた#名前#に応戦しようとした又兵衛がおや、と表情を変えた。
ちなみにもうその勝手について来た人たちは英雄に成り掛けた仲間を抱えてそそくさと退場し始めている。


「勝手にって…ま、まあ確かにそうですけどそれにしても、」


又兵衛の顔を見上げて文句を言っている筈の#名前#は又兵衛が真剣な顔をしたことに気が付かない。


「#名前#さん、さあ。怪我してるだろ」

「…え?」

「誰にやられたんですかぁ? ……オレ様以外の誰にやられたんだよ言えよさっさと吐け、ほらぁ、吐けっつってんだろうが、あ? 血のニオイがするからさぁ」


又兵衛様のモノに又兵衛様以外が傷付けるなんておかしいだろうが殺すすぐ殺す、閻魔帳に載せる前に処刑してやらァ。
ギリギリと掴んだ腕を圧迫し、反対の腕が怪我した場所を探して#名前#の身体を這い回る。


「何処ですかあ、教えて下さいよお、怪我ぁしたところを、さあ。仕方ねえからオレ様が上から傷を付け直してやるから、なあ?」


又兵衛の手が腰の辺りまで降りてくる。


「こ、この…」


#名前#が何を言われているのか把握したのか肩を、拳を震わせる。


「あ?」


又兵衛が#名前#が何かを言いたがっていると気付いて耳を傾ける。


「ぶぁぁぁーか又兵衛さんのバカ、私のだって女の子なんですからっ!」


又兵衛が数秒間固まる。
そして。


「何だよ単なる生理かよぉつまんねえ、ああつまんねえ!」


勘違いしたことを恥ずかしく思ったのか#名前#を激しく罵った。
当然気の強い#名前#は対抗せんと暴言を吐くため口を開く。





「血を流すってったら、なー。戦がない今だと#名前#さんしかいねーもんなー」

「なー」


結末を見届けんと、耳を澄ましていた者たちは囁きあっていた。










後書き
生理が辛かったので書きました。
又兵衛様血のニオイに敏感だもの。

140225

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