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「あーあ………負けちゃった」


そうです。
遂に私は美しく優雅にゴールへ身を踊らせたのです。しかし生まれたのは優越感でもなんでもありませんでした。


「貴女」

「…スポーツカーの中の方かしら?」


考えていたものと全く違う言葉を彼女に投げかけると彼女はそれが私の美麗過ぎる声だという確信すらなく、理由も分からず苛立つ私をもはや止められる者はいません。
かけらも躊躇せずトランスフォームすれば、ぽかんと間抜けな表情で私を見上げる彼女。
私の美しい変形と神々しい姿に魅入ってるのでしょうが、愉悦に浸る気分ではありません。


「残念、スポーツカー本人です」


意識的に悪そうな薄笑いを浮かべ、彼女の車から少々手荒く彼女を引きずり出し怯えるであろう姿を見てやはりつまらない人間だと吐き捨ててやるつもりで彼女に顔を近付けますが、そこに見えたのは驚愕しつつも平然と立つ人間でした。


「何故、全力を出さない…?」

「あ…気付かれた訳じゃなかったの?」

「どういうことか、素直に答えるのが吉ですよ」

「まあ命には替えられないものね。っていうかそんな隠す程でもないか」


曰く、慣れと車の状態、らしい。
普段から頻繁に通るあの峠は走りこそ経験はなかったが、場所として細部まで覚えていたこと。
走り専用ではなく普通車の為、細い峠道は上手く車体をずらせば通れそうで通れない隙間を作ったり出来るが、広々と作られたサーキットでは純粋にスピードで負ける、とも言っていました。
つまり走りのテクニックで負け、スピードでは勝っていたのです。
改造車だなんてとんでもない間違いです。言わなくて良かった…。


「いやぁ、あんなに自信満々でいたというのにサーキットでは恥ずかしい姿を見せてしまった、申し訳ない」


苦笑いを浮かべ頭部を掻いている彼女に、私は決めました。


「私はメディックノックアウト。貴女には特別にノックアウトと呼ぶことを許可しましょう」


高飛車に言えば、彼女は目を丸くしました。


「初回のとき名乗ったのに…私は貴女じゃない」

「…覚える気になれなかったのです。では改めて名乗りなさい人間」

「ステラ。よろしくノックアウト」

「ええ。では峠へ参りましょう」

「へ?」


再度私はトランスフォームし赤いスポーツカーの姿であの峠に向かいます。


「あそこで勝ちたいんですよ」

「…テクニックでなら負けないよ」


軽口を叩きながら峠に向かうとき、私は内心ライバル出現に歓喜に震えています。この人間…ステラに勝ったときこそ私が一番です。


「ところでステラ」

「何?」

「私、アッチのテクニックでなら今でも勝てると思うんですが如何でしょうか?」

「なっ…変態!」


その時、私は胸に滾る貴女への思いを存分に語らせて頂きますよ。
頂いちゃうつもりでもありますが。安心して下さい、きちんと人間の女性の構造は調べてより良い方法を考案しておくので。





後書き
変態度とナルシスト度が足りません。
タイトル的に、VSシリーズ?

120617

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