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夜の風は気持ちいいと私は知っている。

春は木々の香りの漂う穏やかな風。
夏は昼とはまるで違う優しく包み込まれるような風。
秋は虫達の囁き声の中を擦り抜けた少し冷たい風。
冬はその本性を顕わに吹き荒んでいる風。

私はそんな風の中を斬るように走る事が好きなのだ。自身で走るのは勿論、自転車やバイクでもあり、こんなお転婆娘になる筈ではなかったと母はよく言い漏らし、親の庇護下にあった頃の私は何も言い返せず笑ってごまかし続けていた。
だが今は違う。
大人になった私は優しく穏やかな教師であり、多少なりとも生徒たちに慕われていると確信している。先生と呼ばず名前を呼び捨てにするような子供にはきっちり説教をかまして、優しいだけの甘やかすだけの教師にはならないようにも努力をしている。
180°も変わってしまったように見えるだろう。
事実、私も変わったと思っていた。
あの車を見るまでは。





事の発端は学校からの帰り道だ。
生徒が所謂走り屋とつるんでいると聞き、まさか悪いことの片棒担いではいやしないだろうかと少々心配になり、遠目から雰囲気だけでも掴んでおこうと峠に寄り道をしたのだ。
結論から言えば、心配する必要は無かった。先輩などと慕いまた相手も満更ではない窓からようで乱暴ながらも可愛がられている。
良かった、と安心し上の方で待機していた車を発進しようとしたその時、レースが始まる事に気が付いた。
危ない走りをしてないかと………いや、正直興味があったから窓から見下ろしてみる。
ガツガツした走りに荒削りながらも走りへの愛を感じて微笑むと、その集団へ喧嘩を売るように寄っていく一台のスポーツカーどれ程のものかと眺め続けるとそのスポーツカーは悠然とした走りだというのに彼等を追い抜かして行く。鮮やかで美しく無駄の少ない走りに、手に汗を握り激しく脈打つ心臓。
私はその時、私も、と考えたのだ。


「貴方、私と走り比べといかない?」


気が付けば呆然としていた集団を退かし車を進ませ、スポーツカーの横に並んで窓を開け。私はそのスポーツカーに声を掛けていた。
真っ赤なボディに走る黒のライン。窓は残念ながら透けて見えることはないようで内心がっかり。
不思議と断られる気がせず、むしろ相手の心は車に宿っていて私はそれを感じ取る事が出来ているような気分だ。微かに振れた車輪に戸惑いを見つけ、次の瞬間にはまた元通りに真っ直ぐとなったところに相手の動揺と承諾と受け取る。
3。
2。
1。
お互いスピードを出すタイミングは一緒だった。





後書き
こんなにすらすら書けるのは久々です。

120617

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