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私こと黎は所謂美人、である。
認めたくないが自覚せざるを得なかった。周囲に群がる男共、そしてそんな私に嫉妬の目を向ける可愛い可愛い女の子達。女の子同士で買い物したりお喋りするのが夢だったというのに、なんと言うことだろうか。


「あ、黎ちゃん! おはよー」


そんな私が高校に上がった頃、転機が訪れた。寧ろ天使が訪れた。


「!! お、おは、」

「落ち着いてって〜」

「も、桃井さんおはようございます!」


それが彼女、桃井さんだ。可愛らしいだけでなく時に逞しく頼れる女の子。
たまたま方面が同じだから、共に登校してくれているのだ。
じゃあ行こっか。
そう言って微笑む彼女にまた今日も頑張ろうと己を奮い立たせ学校へと向かった。





時間が経つに連れ、通勤するサラリーマンや学校へ向かう学生とすれ違う。彼等そして彼女等の視線が自分たちに向いていることには当然気付いている。
あの子可愛いなぁ。
お近付きになりてぇよ。
どっちが好み?
どこ高だろ?
時折聞こえる会話が不快で知らぬ間にしかめ面となっていたらしい。桃井さんが大丈夫?と気遣ってくれた。曖昧に微笑み、到着を急かすと桃井さんも頷いてちょっぴり足を早める。


「あ、」

「黎ちゃん?」


ちょうど一つ前の交差点に、見知った後ろ姿が見えた。動揺し思わず足を止めると桃井さんが訝しげにする。


「な、んでも、」

「ないなんてことはねぇだろ? 黎」

「青峰君、おはよ!」


気付かれてしまった。
いや別に青峰君に気付かれるのは構わない、どうでもいい。
だが問題は!


「ちゃんと宿題やってきた?」

「やるわけねーだろあんなモン」


…そう、問題は桃井さんが取られてしまうこと。
幼馴染みだというこの二人は大層仲がよろしい。恋人なんじゃ、と何度否定されても疑ってしまう程度には深いのだ。
女の子に関するところがだけは強く出れない私にとってこの桃井さんと居られる時間をこの青峰君に奪われることが許せない。


「おいさつき。黎のやつ固まってんぞ」

「え? あ、本当! ごめんね黎ちゃん!」


だが。
今日は一歩踏み出すと朝起きた時に決めたのさ…!


「ももも、桃井しゃん!」

「ぶはっ! 噛み過ぎだろコイツ…!!」


…気を取り直してTAKE2。


「桃井さん、私も、その、名前で呼びたいです!」

「良いわよー。じゃあ私も黎って読んじゃおっかな」

「寧ろ呼んで欲しい、みたいな…いや何でも」

「じゃあ俺も名前で呼べよ」

「いやです」

許可はあっさり頂けた。
あっさり過ぎて泣けてしまう。
桃井さん。いや、さつきさんだ!


「よっしゃあ黎呼び来たぁ!!」

「お前が黎に慕われてんのがマジ理解出来ねぇ」

「フラれた癖に失礼ね」

「は?フラれてねーし」


もう他の会話なんて聞こえず、笑顔ですれ違う人全員に挨拶をしてしまった。


「ああ黎、なんて無防備なの…!?」

「…ったく」


溜息が聞こえた気がする。





じゃあね桃、じゃなくてさつきさん!


「青峰君ったらもっと優しくしてあげなきゃ駄目じゃない」

「うっせーよさつき」

「私が大ちゃんって呼んだら怒る癖に、黎には名前で呼ばせようだなんて! ふふ」

「っせーっての! 単なる冗談だ!」

「どうだかねぇ」


黎が教室へ走って行き、取り残された俺達の会話だ。やっぱ胸でけーな黎、揺れてた。
同じクラスだってのに黎のやつ俺を置いてきやがる。
勘繰る幼馴染みとも別れて教室に入るといつもと違った空気が流れていた。


「黎ちゃん今日機嫌イイねー」

「はぁ」


推測するに、普段はウザがるクラスメイトにもあのご機嫌な笑顔で挨拶したのだろう。デレデレしたツラの男共が黎の席に群がっている。


「邪魔だ」

「あ、青峰! 悪りぃ悪りぃ、じゃ黎ちゃん、また話そうぜ!」

「遠慮しときます」


黎の隣、つまり俺の席まで占領されてたもんだからつい声が低くなる。
蜘蛛の子を蹴散らすように離れて行くクラスメイトに、妙にスカッとした。


「青峰君、とりあえずありがとう」

「とりあえずとは何だとりあえずとは」

「とりあえずの意味とは、」

「あーあー分かってるぞそれ位」

「おっと、知ってるとは意外」

「てめーん中で俺はどれだけアホなんだ…!」


これはさつきの恩恵だ。
じゃなきゃ黎はさっさと会話を打ち切っている。
つまりこいつの頭ん中はさつきのことでいっぱいなんだろうよ。

ま、いずれ俺で一杯にしてやる予定だけどな?





後書き
青峰がかっこよすぎてヤバいです。

120722

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