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何故なんだろう。
君を突き放せないんだ。
夜。
海は静かに凪いで、雲が月を隠す。
大気は冷気に満ちていた。
基地の外で、大きな薄気味悪い位動かない影がトールを覆っている。
トールは何を言うでもなく、その影の背中を優しくリズミカルに叩く。
嗚咽が聞こえた。
「俺は、俺だって、よぉ…!」
理解できない言葉を繰り返す影、スタースクリームの冷たい金属の体を抱き留めてトールはぼんやり考える。
何故、この愚か者は自分の元で泣くのだろうか。
何故、泣くのだろうか。
「ェット、…イア………」
そのワードに聞き覚えがあり、トールは検索をかけた。するとそれは名前で、スタースクリームの友だった男だと分かる。
「悔やんでいるの?」
優しく冷たい声が聞こえてスタースクリームはグ、と抱く力を強める。
分かっている、この女に慰めるなんて芸当をしてくれる筈がないと。
「彼を置いて逃げたんだっけ。流石デストロンだって褒めてあげようか」
「五月蝿い! 分かっている癖に…」
毒を吐く女に救いを求める己は何なのだろうか。
「優しい声を求めているの? デストロンに? 女だからって見くびっちゃ駄目よ」
「違う…」
いつもの、過剰なまでの自信を持って否定出来ないのは何故だろうか。
「慰めを求めるならサイバトロンにでも行けばぁ? そしたら調度その愛しのジェットファイアに会えるじゃない」
「るせぇ…!」
彼を捨てた身で、彼をけなされるのを酷く嫌うのは何故だろうか。
「寂しかったよう、見捨てた訳じゃねえんだようって縋り付けばお優しい彼なら受け入れてくれる」
「んな、みっともない真似が出来るかってんだ!」
何故、俺は素直になれないんだ。
「ああもう、ちょっとカッとしたらすぐに怒鳴る…これだから野蛮な男は嫌になる」
どうして私はこの男を振り払えないんだろう?
どちらも答えを出せないまま暗い夜を過ごした。
後書き
ジェットファイアがサイバトロンに行ってしまった夜の出来事です。
センチメンタルな気分になってしまったスタスクです。
ジワジワと効いてくる毒を吐く女を書くのは楽しかったです。
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