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その日、遅くまで残って仕事をしていたのはトールだけだった。
トールは極々一般人で、敢えて特筆するならば好奇心旺盛で甘いものをこよなく愛する年頃な女性といったところか。
デスクワークは余り得意な方ではなく、どちらかと言えば肉体派なのだが周りに流された結果がこれだ。だがトールはそれなりにこの仕事に愛着が湧き自信を持った。


「あと………一、息…」


押し寄せる睡魔に、誰もいないし少しくらいいいかと考え、トールは机に突っ伏せる。
お休み。
誰もいない空間にそう呟き、トールは意識を手放した。





揺れる気配を感じて唐突にトールは目覚めた。
このことに驚いた人影があった。その人影は突っ伏せるトールの顔を覗き込んでいたのだ。よって、至近距離で目が合う事となる。


「き、」

「さ、叫びたいのはこっちだ馬鹿黙れ!」


本能に従い救援を呼ぼうと開かれた口がその人影の手によって塞がれる。
全く知らない人だった。
塞がれたまま、呼吸が出来ず苦しくなってきて手や胸を叩けどもどく気配がない。酸欠で身体に力が入らない状態にまでなって漸く解放される。


「何だ何だ、死にそうになってんじゃねえか。とっとと言えよな」

「っ理不尽…!」


地面に両手を着いてぜぇぜぇ荒い呼吸を繰り返しているとそんな言葉がかけられ、通常の人は無理だ息が続くわけないだろとがなり立てる。
へえと感心されたような声で返された。
意味が分からないと思いながら呼吸を整え立ち上がり改めて向かい合った。
何度見ても見覚えのない人物だ。顔はまあ誰もが認めるイケメンだが意地悪そうな雰囲気と何とも言えぬ二番手感が漂っている。


「タイミング悪く起きるなんてクソッ…運がねぇや」

「あの…?」

「ん? 何だよ」

「それはこっちの台詞なのですが。どちら様で?」


漸く出来た会話らしい会話に安堵する。話は通じる不審者のようだ。


「へっ。このオレを知らないとは、人生の半分以上を損してるぜ」

「…それは、それは」


自信満々な人物だ。
有名人なのかという位だがやはりそうでもなさそうだ。


「オレ様はスタースクリーム。お前はトール、だろ?」

「何故知ってるのですか?」

「オレが知らないことなんてこの世に存在しないぜ!」


まずい、このスタースクリームとかいう人…凄い面白い。
むくむくと沸き上がる好奇心が不信感に勝ってしまった。
もっと話してみたいと思い座るように促す。


「いや、オレはもう帰るからな」


意外なことに断られた。


「えええ…」

「なんだ、もっとこのオレ様の傍に居たかったってか? ハハ、」

「そうですね…残念です」


突然口をつぐむ。
非常に悔しそうに真っ赤な顔でそっぽを向く。
…これは照れた、のだろうか?


「ば…馬鹿め! オレはもう帰るからな明日も此処に居ろよ!」


明日も…だと?
流石に聞き逃す事が出来ず問おうとしたもののスタースクリームは窓を開けて飛び降りてしまった。此処は7階だ。
慌てて窓辺に駆け寄り身を乗り出して下を覗くと戦闘機が今正に飛ぶところだった。


「…飛び乗った、とか?」


赤い戦闘機が夜の海へ消えて行くのを見守る。
明日も残業しようかと考えながら。





後書き
覗き&ストーカー疑惑浮上なスタスク。
ちょっと書きにくかったです。

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