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「抵抗は止めて、投降するのを勧めるぜ?トール」

「誰、が!」

「あーあ…俺が本気で言ってんだってのに」


対峙する二人のトランスフォーマーがいた。
仲間も既に見当たらず瓦礫で辺りは散らかっている。そのかけらから判断するに強力な爆薬が使用されたようだ。
女型のトランスフォーマー、トールは右腕で急所を庇ったらしく、肩にくっついているのが奇跡だと思うほどの損傷だ。
体内はエラーに埋め尽くされて痛覚をブレインサーキットへ伝える回路は自ら焼き切った。お陰で後先省みず突っ走るには最適なコンディション。
しかしそれは敵も同じようで。
寧ろ爆薬を喰らってない分敵の方が有利ではないだろうか。


「覚悟は決まった?」

「それはこっちの台詞だって!」

「ふふ、生きる覚悟ならとうの昔から有るんだけど、ね」

「死ぬつもりはない、ってか。言ってくれるじゃん!」


軽口を叩きながら渾身の力を込めて戦うそれはまるで舞のようでもあった。
撃ち合いに挟まれて瞬間に見える体技。
遠距離から一気に間合いを詰めて繰り広げられる超近距離戦。


「もしお前がディセプティコンだったら…なんかもっと違った関係になれたかもしれないな」

「っぐ…!……も、しなんて…考えた方、がおしまいよ…」


体力の違いはどうにも出来ず、遂にトールは倒れた。すぐさまその胸元へ武器を掲げ…ディセプティコンらしくない言葉を吐いた敵にトールは嘲笑を浴びせる。
辺りは二人の動きが止まった事で静寂に包まれていた。
カラリと音を立てて転げ落ちる瓦礫。
トールの殊勝でない態度にそれでこそ俺の敵だ、と最期の言葉を告げ、一気にとどめを刺す。
傷口から武器を引き抜くとトールの動きも表情も呼吸も全て停止。
生者の音しか聞こえない。


「これで終わりか…呆気ない」


感傷的に彼が呟いた。
長い、永い時の中で己の一番の理解者と言って良いほどに思っていた。
緊急時には助け合った事もあったし、男女の違いを分からせてやろうと迫った事もあった…その願望は壮絶な抵抗に呆気なく潰えたが。
愛していたんだぜ。トール。
最期に彼女の頬をするりと一撫でして踵を返す。


「そう…考えた方がおしまいなの。だから、」

「…!?」

「死ぬのは私じゃない。貴方よ」


彼は己の胸に生えたモノを見下ろした。
間違いない。
それは彼が彼女のとどめを刺すために、この日のために磨いた刃。


「な、で、」

「私とて医者の卵。自分の体を仮死状態にするなんて朝飯前なの」

「は、」

「返事はしない」


踵を返すのはトールだった。
騙された、と男は嗤い崩れ落ちる。


「ひ、っでえ女…なあ、」

「何?」


振り返る事もせずに応じた。
最期に付き合ってやるのも悪くない。


「俺、が…さ……一人なんて、れが…言ったよ」

「…え?」


享楽に染まった声が聞こえてトールは振り返ってしまった。
目に映るのは伏せた男一人の筈。
しかし、隣には白と青の男がいた。
驚きに硬直すると、ボロボロの身体へ大きな生き物が飛び掛かって無理矢理倒す。既に足掻く力なんて無かった。


「っへ、へ!ま、さか…お前、が…な…サウンド、ウェーブ」

「…声が、聞こえた」

「つーしん、」


ぼんやりと霞みがかかってきた意識に焦りながら男が話す。
何故こんなに焦らしてくる。


「おい。助けが欲しいか」

「と、ぜん…」

「そうか」

「だめ、」


サウンドウェーブの言葉に既に機能の大半が奪われた男が肯定する。
無駄だと解っていてもトールは止めずにいられない。
声を絞り出すと無機質なバイザーがトールを見る。


「わかった。連れて行くぞ…トールを」


ラヴィッジ。連行しろ。
トールを這い蹲らせた大型の生き物が応答した。
鼻先…というのだろうか、顔をトールの腹に潜り込ませて力技でその背中へ上げる。


「なん、」


なんで、どういうことだ。
男が総てを言い終える前にサウンドウェーブの銃が男の傷へと食い込む。
悲鳴をあげても既に限界を超えていた身体は動かない。


「俺が貴様を助けにきたと…誰が言った」


言ってないだろう?
陰惨な言葉を彼に丁寧に語りかけると漸く理解したのか彼が顔を歪ませる。
呵呵とサウンドウェーブが嗤う。
畜生。
彼が呟く。
その瞬間サウンドウェーブは頭と胴体を切り離す。
死体は歪んだ表情のままだった。


「サウンドウェーブ…同じディセプティコンじゃ、」

「俺が聞いたのはお前の声だ。惹かれるもの以外に興味などない」

「酷い…言い回し…」


先程トールを殺し、そしてトールの反撃を受け、仲間にとどめを刺された男を思い、トールは心が苦しかった。


「死んだ他人を気遣うより己の未来を想像すべきじゃないのか」

「…え、」

「助けがいるかと問うた。貴様は駄目と返した」

「私に聞いてたの…?」

「もう二度と俺の庭から出れぬと思え」


その宣言に混乱し、疲れきった心身は休みを欲しがる。
意識を失う最後に見たのは陰険な表情だった。





後書き
一発がき。
男、って誰でしょうねー。出ずっぱりじゃないすか。

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