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「ジャズ? またオネエチャンに見惚れてたのー?」

「…へ?」


ぼうっとしていたジャズは横から覗き込むトールがグイグイ視界に入ってきた事で漸く意識を戻した。


「悪い、そうじゃなくて…」

「そうじゃなくて?」

「…いや、ナイショ」


お前に見惚れてた、なんて言えない。本命の女にはどうも怖くていつものような調子の良い事が言えない。


「…ふぅん。別にジャズが他の人を見るなら別れたっていいんだよ?」

「っ駄目だ!」


覗き込む姿勢をやめた為ジャズにはトールの表情が分からなかった。しかしこの台詞は一度二度どころではない位言われている。先例に則ると、きっとトールは笑っているのだろうと見当をつけた。


「嫌になったらいつでも言ってね。すぐ別れてあげるからさ」

「………」


この言葉を聞く度にジャズはとても悲しい気分になる。
トールは別にジャズの事が好きで付き合っているのではない。飽きるまでの繋ぎとして彼を利用しているのだろうと嫌でも気付いてしまう。


「あ、週末って空いてる? ドライブ行こうよ!」

「ああ、いいぜ」


だがいつもデートに誘ってくれるのはトールからで、毎回無駄にタイミングを探って出遅れるジャズは情けない気持ちと同時にまだ完全に興味を失われていないのだと安堵していた。


「じゃあね。 仕事頑張れ!」

「おー。トールもな」


今日デート開始から8時間32分47秒が経過。
始めて、トールと名前を呼んだ。





デートの次の日は反省会を行うのが定番である。
その日もアーシーとフレアアップ、クロミアの三姉妹の元で頭を抱えたジャズが泣き言を漏らしていた。


「どうして俺はああいう時に気の利いた事がなんにも言えねぇんだ…」

「いつものことでしょう」

「アンタが馬鹿だからじゃん?」

「知りません」


そしてこのようにバッサリ斬られるのもいつものことである。
半泣きでジャズは訴える。


「大好きなトールにあんな事言われる俺の身にもなってくれよ!?」

「紛らわしいことしている貴方が悪いです」

「あはは、フレアアップに同じ!」


笑いながら言われてしまった。しゃがみ込んでヘコんでしまった様子のジャズに溜め息を吐いてアーシーがフォローに入る。


「流石に言いすぎ、フレアアップにクロミア」

「アーシー、俺の天使…!」


キラキラ輝いた眼差しを向けられたアーシーの顔には面倒だと太い文字が書かれた。
ニコリと笑顔を浮かべた彼女は、


「いくら毎度の事とはいえ本人の前だから一応いい感じに持ち上げてあげるのが礼儀ってやつ。仮にも副官相手よ」


更に付け加えた。


「アア、アーシー…お前の言葉が一番心に刺さったぜ…」

「それは良かった」

「あちゃー…」


クロミアにすら哀れまれたジャズはオホン、と人間の仕草を真似て改まった態度で誤魔化しもう一度三姉妹に尋ねる。


「俺の何が悪いんだ?」

「顔」

「性格かしら」

「全部ですね」

「マジで泣くぞ」





なんだかんだで話に付き合ってくれた三姉妹に礼を言って格納庫を出るとすぐに彼女はいた。
ディーノと、二人で。仲睦まじい様子を見せながら。


「トールって他の星に行ってたんだろ? どんなところだったんだ?」

「そうね…地球人より、そして私達より大きな生命の住む惑星って言ったら信じる?」

「なんだよそれ! 気になるじゃねぇか」

「あそこに到着した時はビックリしたわ…トランスフォーマーを軽々と片手に掴んでてさぁ…きっとオモチャだと思われたのよ」

「ははは! 想像出来ねーなぁ」


トールの表情は柔らかく、ディーノを楽しませようと優しい声を出したり怖そうな声を出したり、時には本当に聞いてきて録音していた音を流して談笑していた。


「ようディーノ。なにしてんだよ」


俺の女と楽しそうに話しやがって。
本当に言いたい言葉はトールに聞かれたくない為に飲み込んだ。


「ジャズ! トールに前の星の話を聞いてたんだ」

「副官って呼べ若造め。そんな最中悪いがちょっとトール借りてっていいか?」


用事なんて何もないのに醜い嫉妬をする自分に吐き気がする。笑顔の裏にドロドロしたものを隠しながら頼むと爽やかな笑顔で拒否された。


「えぇと…ダメだ!」


お前はトールのなんなんだ。
遂にジャズは表情を無くし冷たい声を出して今までにない強引さでトールを引っ張る。


「そうかそうか、駄目か。でも借りてくわ」

「ジャ、ジャズ…? ディーノ、続きはまた今度ね」


流石にまずいと理解したトールがディーノに手を降ったのに更に腹が立った。





誰もいない空間に着いて漸くジャズはキツく掴んでいた腕を離す。歩いている最中に臆病な自分が帰ってきてしまったジャズは黙り込んだ。と、トールは軋むその手も気にせずどうしたの、と会話を切り出す。
いつも、トールが最初のきっかけをくれる。


「なんであいつとあんなに楽しそうに話していたんだよ…」

「なに。私が嫌になったの? じゃあ別れましょジャズ」

「話を逸らすなよ!」


らしくなく叫ぶと反響した音が辺りを駆け巡る。数秒の間呆気に取られて無言になったトールに言葉を畳み掛ける。


「いつもそうだ、何かあるとすぐ別れよう別れようって! そんなに俺は軽い存在だったってことか!?」

「ちが、」

「ああ分かってるさ、お前は俺で遊んでるってことくらい…本気なのは俺だけだってな!」

「違う!」


初めてトールが大きな声を出すところを見た。ジャズの何処か冷静な部分が考えた。
静かで落ち着いていた昔も含めてトールが言葉を荒げたのを見たのはこれが初めてだ。


「いつもいつも私を悩ませているのはジャズ…貴方よ」

「成る程。下手な嘘だなハニー?」

「そういう、皆に対するような態度を見せたのは初めてね」


カメラアイをゆっくりと閉じてトールはジャズに背を向ける。小さな背中は震えていた。


「遊びだって事は知っていた…デートの誘いはいつも私から。冷たい態度ばかり取る」

「それは、」

「挙句の果てには浮気!? 直後に話しかけてきて独占欲を発揮するとは笑えるわね! 玩具はまだ無くしたくないってことでしょう」


浮気?
どういうことだ、と声が無意識に零れた。


「アーシー達はさぞ可愛らしいでしょうね。私とのデートの次の日はいつもあの格納庫に一日中篭っていたこと知ってるんだから」

「…嫉妬って、ことかよ」

「ええそうよ! 醜いでしょう!? 醜い…でしょ…見ないで………」


嗚咽を漏らし、上下する肩を背後からジャズは優しく包み込むと金属同士がカツンと冷たい音を立てることが何故か嫌な気分だった。
激昂していた心は既に何処かに消え、どうにも込み上げる想いを止められそうにない。
離せと身を捩るトールの顔の横でずっと想い続けていた事を吐露した。


「好きだ。軽口を叩く余裕もないくらい…嫌われたくなくて、何も言えなくなるくらい」


抵抗は止んだ。
困惑した目で振り返ろうとする彼女を抑えて、こんなかっこ悪い俺を見ないでくれと囁く。


「かっこつけたくてタイミングを見計らって、気が付けばトールから誘ってもらって…まだ、関心を失ってねぇって内心喜んでいたんだ。告白して貰った時も嬉しさで死ねるって思った」

「…ふふ、そんな事、思ってくれてたのね」


前を向いたトールの顔から冷たい雫が零れてジャズの腕に当たる。


「緊張で喋れなかったんだよ」

「あ、逆。私は緊張で喋る事しか出来なかったわ」

「通りで普段を超えるマシンガントークだった訳だぜ」

「うるさい。じゃあ、アーシー達は?」

「ずっと相談してた。主に女心についてレクチャーして貰った」

「女性にモテモテの将校様が今更相談って」

「笑うなよ。…そんだけ本気で向き合って来たんだ」

「そう。…私、付き合い始めた頃からずっと嫌われないようにって慎重に行動してたの。知ってる?」

「…わり。知らねぇ」

「憧れの将校様の前だから言葉遣いにも身嗜みにも立ち振る舞いにも気を付けてた。そのかわり仲間の前では普段以上にテンション上がってたかも」

「お前が慎重ねぇ…」

「笑うって酷いよ? だって、雲の上の存在の司令官を支える、これまた雲の上の副官だもの」

「そんな事気にしてたって知らなかったなあ…」


いつの間にか穏やかな心持ちになっていた二人はじっと身動ぎせず寄り添った。
考えているのはかつての相手の行動。
愛し合っていたが故のすれ違いは想像していたより記憶の大半を占めている。


「ジャズ」


トールはジャズの腕から解放され少し距離を置いた位置で振り返った。


「私達、別れましょう」

「…ああ。今更ってのも虫がいい話だよな」

「これで私達はフリーの身ね」

「まあな。行けよ、好きなところにさ」


不意にトールは微笑んだ。ジャズの惚れた、あの優しい笑顔で。


「将校様ではなく、かっこよくてドジで真面目でチャラチャラしちゃってて、可愛いジャズさんに言います」

「へ、」

「私ことトールはジャズが大好きです!」


息を飲んだ。
こんなハッピーエンドを迎えて良いんだろうか。
こんな愛らしい女性に自分は相応しいんだろうか。
考えてからジャスは頭を振り、その馬鹿げた考えを捨てた。


「俺、ジャズは!」


そんな考えをすること自体、真っ正面から向き合ってくれている彼女に失礼だ。


「控え目で、気遣いの出来る非常に可愛らしい女性であるトールの事が…好き………愛してる!」


甘い口付けを交わしたあと、本音で話せる仲になろうと二人で誓いあった。










後書き
なんだこれは。
真っ先に言いたいのはこの言葉です。
リクエストではジャズお相手の慎重な主人公でした。
改めて言いましょう…慎重って難しい!!

私的解釈では、慎重な子→愛されている確信がないとやっていけない→じゃあ別れましょうってすぐ言って、引きとめられる事で愛を確認する子にしよう!→じゃあそれに合わせてジャズも本命には固い人に→その結果がこれだよ!!!
ディーノ、当て馬にしてすいません!

無駄に長くて申し訳ありません。返品も商品いれかえも受け付けます!
リクエストありがとうございました!

121026











オマケ@
「こんな廊下でやっちゃって、皆に見られてるわよ」「俺ってもしかして恋の当て馬状態だった訳か」「ジャズ…これからは二人で幸せになるんだぞ…!」
「ちょ、恥ずかしい…!」
「見せ付けてやろーぜ? マイハニー」
ちゅ

オマケA
「別れようって言っていたのは貴方がまだって言ってくれることで愛を確認してたのよ」
「…トールって石橋を叩き過ぎて割るタイプだったんだな」

オマケB
「前は将校様に恋してたのか?」
「うん。でも冷たくって悲しくなってきたからわがまま言ってみたんだけど…結局諌めてくれなかったね」
「(わがまま言うトールが可愛過ぎて…すまん!)」

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